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怒れる女騎士(仮)



 裏路地を駆け抜けるエステル。


 道は細く入り組んでいるので彼女の本来の速度より相当抑えているが、それでもかなりのスピードだ。


 彼女は宿から引き上げた大きな荷物を持っているが、特に邪魔にはなっていない様子。

 特に目立つのは、彼女の本来の得意武器である大剣。

 少女の見た目には全く不釣り合いなそれ……自身の身の丈程にも及ぶ長大なバスタードソードを、なんの苦もなく背負って疾走していた。



 そして、彼女は声が聞こえてきた方向に進もうとするのだが……




「あっ!?また行き止まり!?もうっ!!早く行かなきゃいけないのに……!!」


 裏路地は複雑に入り組んでいて、思うように目指すべき場所へと進むことが出来ない。

 こうしている間にも、女性が酷い目にあっているかも知れない……そう思うと彼女の心に焦りばかりが募っていく。



「……え〜い!こうなったら……最終手段だよ!!てぇ〜いっ!!」


 そう言って彼女は……何と、その場から大きく跳び上がって建物の壁を蹴る。


 タンッ!!



「はっ!!やっ!!せいっ!!」


 タッ!


 タンッ!!


 タンッ!!



 そうやって何度も掛け声を発して、道の両側の壁を蹴りながら、あっという間に上に登っていく。

 すると彼女は裏路地を見下ろす建物の屋根の上に上がってしまったではないか。



「よし!これなら道に関係なく進めるでしょ!」



 そして彼女は今度こそ一直線に、声が聞こえた方に向かっていく。

 屋根を走り、路地を跳び超えて。

 もう彼女の行く手を阻むものはない。





 程なく、彼女はそこに辿り着いた。


 屋根から見下ろす裏路地の突き当りの袋小路。

 ちょっとした広場のようになっているそこで、複数の男たちが一人の少女を取り囲んでいる。



「ん〜っ!!んーーーっっ!!?」


「へへ……大人しくしな!!」


「怪我をしたくなかったら暴れるんじゃねえぞ」



 いかにもゴロツキといった風体の男たち。 

 そのうちの一人が少女を羽交い締めにし、声が出ないように彼女の口を塞ぐ。

 少女は激しく抵抗して悲鳴をあげようとするが、口を抑えられて思うように声が出せないようだ。


 そして別の男が縄をかけて身動きできないようにしようとし、更にもう一人が人一人くらいは入ってしまいそうな麻袋を頭から被せようとしている。


 明らかに人攫いが行われようとしている真っ最中だった。



 それを目撃したエステルは怒りに打ち震え、正義の鉄槌を下さんと声を張り上げた。



「そこまでだよ!!」


「っ!?だ、誰だ!!?」


「どこだっ!?」



 エステルの静止の声に男たちは慌てて周囲を見回す。



「上だよ!!」


 彼女は男たちに自分の居場所を教えて自分に注目を集める。

 彼女の辞書に『不意打ち』などという文字はない。

 正義の女騎士は正々堂々と戦うのだ。



「とぉっ!!」



 そしてエステルは屋根から跳び下りて、シュタッ!と鮮やかに地面に着地した。



「な、何だ!?テメェはっ!?」


「私は正義の女騎士エステル!!悪党どもに名乗る名などない!!」


「「「名乗ってんじゃねぇか!?」」」


 エステルの名乗りに男達が一斉にツッコむ。

 しかし今回は『女騎士』にツッコむ者はいない。



「き、騎士だと!?」


「あ、アニキ!!どうしやしょう!?」


「馬鹿野郎、うろたえるんじゃねぇ!!……こんなガキが騎士なわけねぇだろ。それに……よく見りゃ凄え上玉じゃねえか。コイツもついでに攫って売っぱらっちまおうぜ」


 男達のリーダーらしき人物が、舌舐めずりしていやらしい笑みを浮かべながら言った。



「げへへ……アニキ。売っ払う前に、そのガキもこの女と一緒に俺らで味見しちまいましょうぜ」


「身体つきはガキっぽいけど、ツラは極上でさぁ」


「全く、しょうがねえ奴らだな。まぁ『検品』はしねえとだよなぁ……くふふ」


 ご馳走を目の前にした狼のように欲望に濡れた目をエステルに向けながら、更に下卑た笑みを浮かべる男達。

 何度も『ガキ』と言われたエステルの額にはピキピキと青筋が浮かぶ。



「ダメ!!逃げてっ!!」


 そして未だ男に羽交い締めにされていた少女が、エステルに向かって『逃げろ』と叫ぶ。

 自分の身を顧みずそんな事を言う彼女は、心優しい娘なのだろう。


 エステルより少し年上らしい、金に近い茶色の髪に緑色の目をした美しい少女だ。

 無理矢理取り押さえられたためなのか、あちこちに擦り傷が出来ているのが痛々しい。



「うるせえっ!!お前は大人しくしてろ!!」


「うぐっ!?」


 再び口を塞がれた少女から苦しそうなうめき声が漏れた。

 その時、エステルに向けられていた男達の視線がほんの一瞬だけ外れ、少女の方に向いた。



「さあ、大人しくしてれば痛い目にはあわない…………って、いねえっ!?」


 リーダー格の男が再びエステルを見ようとしたとき、そこには既に彼女の姿は無かった。


 そして……




 バキィッ!!!



「ぐぼぁっ!!??」



 少女を捕まえていた男が、破壊音と悲鳴を残して突然その場から大きく吹き飛ぶ。

 その代わり、その場には少女を腕の中に抱いて、右拳を突き出した格好のエステルが立っていた。


 男達の視線が逸れたほんの一瞬の隙を突いて、一気に間合いを詰めて殴り飛ばしたのだ。


 殴られた男は白目をむいて泡を吹いて倒れ、ピクピクと痙攣している。



「なっ……!?」


「え?……え?」



 残ったゴロツキの男たちも、エステルの腕の中に抱かれた少女も……一体何が起きたのか分からずに呆然とする。



 そして、エステルは怒りの炎を瞳に宿して、男たちに言う。



「さあ、覚悟はいい?一人も逃さないからね……!」



 それは男たちにとっての最後通告。


 そこで初めて……男たちは、決して怒らせてはいけない人物を自分たちが怒らせてしまった事に気が付いたのであった。




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