迷推理
「えへへ~……私、分かっちゃいました!!」
エステルは得意満面の顔で言う。
自分の導き出した答えに絶対の自信があるようだ。
しかし、何度でも言うがエステル・ブレーンはポンコツだ。
スペックは高いはずなのだが、如何せんそれを活かしきれないどころか常に予想の斜め上の答えを弾き出す。
そして悲しいかな……彼女がそれを自覚することは無いのである。
「ふふふ……ズバリ!!この間の襲撃、あれが関係してるんですね!!」
ズバリとか言い出す始末。
「え……?いや、あれは…………」
「あんな物騒なことが起きるんだから、ここに住む将来の王妃さまや側室さまを誰かが護らなくてはなりません!!」
アルドが何か言いかけようとしたのを遮って、エステルは力説する。
ノリノリである。
「いや、だから……あれはだな……」
「だけど、この後宮はアルドさま以外の男子は入ることが出来ない…………そこで、優秀な女騎士が必要なんですね!!」
アルドの言葉はもはや耳に入らず。
彼女は自分が出した答えを信じて疑わない。
そして、『優秀な女騎士』とはもちろん自分のつもりである。
しかし、ポンコツ・ブレーンが出した答えにしては、筋道がしっかりしているようには思える。
やはりスペックだけは無駄に高いのだろう……
「レジーナさんやミレミレは私がこの手で護る!!」
「…………」
もはやアルドは目が点になっていた。
「……と言うことで、私は表向き『手違い』で後宮に入り密かに皆を護る……そういう事ですね?」
「え?あ~……そ、そうなのか……な?」
やる気に満ち溢れたエステルに、もはや『そうではない』とも言えず、アルドは思わず肯定してしまった。
「あ……でも……」
「ん?どうした?」
突然トーンダウンしたエステルの呟きに、アルドは何とか我に返って聞く。
「そうなると、騎士になるのはどうすれば……」
結局、騎士になるための試験を受けていない事に気が付いたエステルは複雑そうな表情で言う。
実に今更な話ではあるが、彼女の目標はあくまでも騎士になることだから重要な事だろう。
「あぁ、それなら……君が希望するなら、俺の権限で合格にすることは出来る……」
「そんなのダメです!!」
「……はい?」
アルドの言葉をズバッと切って捨てるエステル。
……どうでもいいが、先程から彼女はかなり不敬な行動を取っているのだが、それに気付くことはないだろう。
実際アルドも、それは全く気にはしていない。
「そんなズルをしたら、他のみんなに悪いです!試験はちゃんと受けます!」
エステルは曲がったことが大嫌い、かつ頑固者でもある。
……実に面倒くさい。
「……正式な騎士登用試験は、また来年になってしまうが……」
「むぅ……仕方ないですね。それまではここで暮しながら任務を全うさせてもらいます!!……あ、ちゃんと襲撃犯をとっちめないとですね!」
……その時、まだ仕事をしていたディセフの背筋に悪寒が走ったとか。
しかし、もうすっかりエステルはやる気満々である。
秘密の護衛任務というのが彼女の琴線に触れたのだろう。
そんな襲撃者など、本当はいないのだが……
アルドはそんな彼女に真実を告げるのも躊躇われ、複雑そうな表情で悩んでいたが……
(……まぁ、今は良いか。とにかく、エステルには俺が試験手続きの操作をした事は伝えたし……。誤解はあるが、彼女の意志でここに居てくれるのは確かだろうし……)
などとアルドは思ったが、自分の想いは伝えにくくなってしまったな……とも思うのだった。
そして、彼は話題を変えることにした。
「エステル」
「はい?何ですか?」
「君にはここに住んでもらいたいが……君だけでなく、他の令嬢たちもそうだが、ここに住んでもらうと言ってもここに閉じ込めるつもりは無い」
「?」
アルドの言葉はエステルにはよく理解できなかった。
彼女は知らないことであるが……この国の後宮とは本来、そこに住む者は自由に出入りすることは出来ないのだ。
ただ単に外出するだけでも様々な手続きが必要になる。
言わば籠の中の鳥のようなもの。
しかし、アルドはそのようなことはさせない……と言ったのだ。
「ここを含めて城内は出入り自由だ。俺が許可を出す。何なら、騎士団の訓練に一緒に参加しても構わないぞ」
「本当ですか!?」
ここに来て稽古に飢えていた彼女は、アルドのその言葉に大きな喜びを見せる。
とにかく、強い者と手合わせしたかった彼女にとっては願ってもないことだろう。
そして更に。
「それと、君の願いを一つ叶えようじゃないか」
「私の願い……?」
「ああ。……これを」
アルドはそう言って、エステルに何かを差し出す。
それは……
「あ……これ、私の剣?」
「そうだ。君に渡すため預かってきた。……俺と手合わせしたかったんだろう?」
「!!……はいっ!!」
アルドの意図を察して、エステルは喜色を浮かべて返事する。
「今ここで君の相手になろう。一手、所望する」
「はい!!お願いします!!」
こうして、真夜中の後宮の中庭で……二人の戦いが始まろうとしていた。




