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真夜中の密会



 寝静まる夜の後宮。


 本来であればエステルもとっくに眠っている時間である。

 しかし、どうにも身体を動かしたくてうずうずしていた彼女だったのだが……


 寝室の窓に何かが当たる音を聞きつけ、中庭に誰かがいることを見つけた彼女は、一人その場所へとやって来た。



 中庭は魔法の照明の淡い光に照らされているが、殆どの場所は闇に沈んでいる。

 後宮の建物に四方を囲まれ、そこだけ別世界のような錯覚に陥る。




「……え〜と。そこに誰かいますよね?」


 エステルは誰何の声をかける。

 疑問の形を取りつつも、彼女は既に何者かの気配を感じていた。


 そして庭木の陰からその人物は現れる。



「流石だな、エステル。良く来てくれた」


「アルド陛下(へ〜か)……」


 ある程度気配を読んでいたエステルは、既に誰であるのか予想していたのか、あまり驚いている様子は見られない。

 だが、なんでこんな時間に、こんな場所で……? という疑問はあるので、少し戸惑いはあるようだ。



 アルドは笑みを浮かべて彼女の疑問に答える。


「なに、君と話をしたくてな……他の令嬢の目があるところでは中々話せないから、こうして呼び出してしまったのだ。許してほしい」


「それは大丈夫ですけど……私に話って……?」


 アルドとは今日初めて会ったはず……それが何故、自分とだけ……? と彼女は疑問に思う。



「一つは……謝罪だ」


「謝罪……?」


 ますます混乱するエステル。

 アルドに謝罪されるような事など、全く思い当たることが無いからだ。



 しかし。



「……『我が身を望む姿へ』」


「え、魔法?……あ!?」



 エステルの目の前で、アルドの姿が一変する。

 それは、彼女がよく知る人物のものだった。



「あ、アランさん……?やっぱり……」


「『やっぱり』か……君は晩餐のときも疑念を持っていたようだったが……何故分かったんだ?」


 アルドの偽装の魔法は、髪や瞳の色はもちろん、顔貌(かおかたち)の印象まで変えるものだ。

 なので普通は見破る事は出来ない。

 その姿の正体を知る者は限られ、その他の関係者の間で『アラン』は国王直属の部下、という事になっている。

 ……詰め所の兵士が知っている位には、割と正体を知られているようだが。



「気配が同じだったので……なんて説明したら良いのか分からないんですけど、一人ひとり違う気というか、オーラというか……そういうのが何となく分かるんです」


 エステルは女の勘は持ち合わせていないが、野生の勘は持っているのである。



「そうか……素晴らしい能力だな」


「えへへ〜」


 褒められてご満悦のエステル。


 その顔を見てアルドも笑みを浮かべるが……やがて意を決したように表情を改めて言った。



「エステル、すまない」


「へ?……あ、そう言えば謝罪って……」


「ああ、俺は君を騙していたんだ。いや、この姿のことではなく……この後宮に入るための審査を無理矢理受けさせたことだ」



 ついに、アルドはその事実をエステルに告げた。


 だが、当のエステルはよく分かっていない。

 未だ、自分は騎士になるための試験を受けていた……と信じ込んでいるから。



「え〜と?……よく分かんないです」


「…………もしかして、君は今まで騎士の試験を受けていた……と思ってるのか?」


「え!?違うんですか!?」


 心底驚く彼女の様子を見て、むしろアルドの方こそ大きな驚きを覚えた。


 だが、確かに……晩餐の時も不安なども見られず普通にしていたし、今の今までそう思っていたのだとしたらそれも納得か……とアルドは思った。



「え?……それじゃあ、今までの試験は一体?」


「もちろん、後宮入りする者たちを選別するための審査だ。……ここまで来て、本当に気が付かなかったのか?」


「え〜と……何度かおかしいな〜、とは思いましたけど……。以前、アランさんがこの場所について『近々役割を果たす事になる』って言ってたのを思い出して……それで、女性騎士たちが住むことになるなかな〜、なんて」


 改めて聞くととんでもないロジックだが、彼女は本気でそう思っていた。

 流石のアルドも、エステル・ブレーンのポンコツぶりに愛想を尽かすか……?


「ふ……やはり君は面白いな」


 しかし彼は笑ってそんな事を言う。

 むしろ益々気に入ったようだ。


 ……この国の未来は大丈夫だろうか。




「でも、何で私が後宮入りの審査を受けることになったんですか?」


「それは…………」



 ついに、エステルの口からその問が発せられた。

 彼女は別に怒って問い質すような雰囲気ではなく、純粋に疑問に思っているだけのようだが……

 アルドは直ぐに答えられず言い淀む。


 だが、このまま黙っているわけにもいかない、と意を決して彼は答えた。



「俺が、君にこの後宮に入って欲しいと思ったからだ」


「アルドさまが?何でです?」


 首を傾げて更に問うエステル。

 そこまで言われても彼女はその理由が分からない。

 彼女は乙女心を解さない乙女である。



「ん……そ、それはだな……」


 意を決して言ったはずの言葉が通じず、顔を赤らめて再び言い淀むアルド。

 初恋を拗らせた権利者には、それ以上はっきり言うのは中々ハードルが高いらしい……

 面倒な事である。



 そして、アルドが言い淀んでいる間、エステル・ブレーンはフル回転し始めた。



(後宮って確か……王妃さまとか、え〜と……『側室』だっけ?そういう人たちが住む場所だったよね。でも私は平民だから関係ないし…………そうか!!分かったよ!!)


 断言しよう。

 その答えは絶対間違いであると。



 そしてやはり、彼女はアルドがまるで予期しない答えを導き出して言うのだった。


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