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夜の後宮


 晩餐会で楽しいひと時を過ごしたエステルは自室へと戻ってくる。



 そして暫くは居間でまったり過ごしてから入浴する事になった。

 この国では入浴の習慣は平民にも浸透しており、エステルもそれ自体に戸惑うことは無い。



 だが、そこはやはり後宮の浴室である。


「わぁ~……ここも凄く広い!!」


 エステルは目を輝かせて言う。

 彼女が泊まっていた宿は共用の浴室だったのだが、何とか2人入れるかどうか、という広さだった。


 しかし、当然ながら目の前のそれは宿のものとは比べ物にならない。

 湯船は優に4~5人は入れそうなほどで、その周囲のスペースも十分な広さがあった。

 これほどの浴室が各部屋にあるのだとしたら……何とも贅沢なものである。



「失礼します。お身体流させていただきます」


 エステルに続いて、クレハも入ってくる。

 入浴するエステルはもちろん裸であるが、クレハは薄い湯浴み着を着ていた。


「へ?……ちょ、クレハさん!?ひ、一人であらえますって!」


 高位の貴族ともなると身体を使用人に洗ってもらうのは普通の事であるが、エステルはそんな事は知らないので慌てふためく。

 割と何事にも動じない彼女であるが……他人に身体を洗われるというのは流石に抵抗があるらしい。

 ある意味では貴重な姿かもしれない。


「どうかご遠慮なさらず」


「遠慮というか……あぅ」


 結局派断りきれずに二人で入ることになった。











「ひゃん!?く、くすぐったい……!」


「エステル様のお肌……本当に肌理(きめ)細やかで綺麗でいらっしゃいますね」


 石鹸を泡立て、クレハがエステルの全身を優しく丁寧な手付きで洗う。

 他人の手が全身の肌を撫でる慣れない感触、そのくすぐったさにエステルは悲鳴を上げた。


「ちょ!?く、クレハさん……そ、そこは自分で……」


「いけません。後宮の女性たるもの、しっかり身体を磨かねばなりませんよ」


「ひ、ひぇ~っ!!?」



 クレハの勢いに押されてエステルは逆らう事が出来ない。

 そんなふうにエステルがタジタジとなるという、やはり非常に珍しい光景が浴室では繰り広げられるのだった。









「うぅ……つかれた……」


 今は夜着に着替えて、あとは寝室で寝るだけ、というところなのだが……

 本来はリラックス出来るはずの入浴で、ぐったりと疲れてしまったエステル。

 やはり、千里の道を駆け抜けるほどの体力を持つ彼女が見せる姿ではなかった。



「ん~……お風呂に入っちゃったけど、少し身体を動かしたいなぁ……」


 否、やはり彼女の体力は無尽蔵である。

 王都に来てからというもの……彼女は日課の稽古ができず、かなりストレスが溜まっているのである。



「……自由に出歩いて良いって言ってたし。剣はまだ返してもらってないけど、走り込みくらいなら庭でできるよね。…………よし!行こう!」


 と、彼女が決断し、着替えるために衣装部屋に行こうとしたとき……



 コツン……



「ん?……今、なにか……?」



 窓に何かが当たる音が聞こえた。



 コツン……



「あ、まただ。何だろう?」



 音が気になった彼女は、窓に近づいて外の様子を伺う。

 エステルの部屋の場所は『ロ』の字型の内側、中庭に面している。

 もうかなり遅い時間だが魔法の灯りに照らされ、ある程度は様子が分かるが……それでも、常人では全てを見通すことは難しいだろう。


 しかし。


「ん、やっぱり誰かいるね……あれは……」


 エステル・アイは遠くが見えるだけでなく、フクロウなみに夜目が効くのだ。



「よし、行ってみよう!」



 彼女は衣装部屋に行って、先程洗濯が終わって返してもらった自分の服に急いで着替える。


 そして、誰にも見つからないように気配を抑えながら、そ~……っと部屋の外に出た。



「中庭に出るには……取り敢えず一階に行けば良いのかな?」



 既に夜も遅く寝静まっている後宮の廊下を足音を立てずに進むエステル。

 照明はあるものの、薄暗く少し不気味な雰囲気だ。


 だが、なんの明かりもない辺境の夜の森に入った事もある彼女からすれば何てことはない。

 怖がるどころか、ワクワクと冒険気分になってさえいるようだ。


 そして階段を降りて一階に行くと、中庭に通じているであろう扉を見つける。



「ここから出られそうだね~。さて、誰が居るのかな……?」


 さして警戒心もなく、彼女は扉を開けて中庭へと向かう。


 果たして、彼女を待つのは何者だろうか……?


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