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その頃の男たち



 エステルが後宮で晩餐会に臨んでいるころ……


 クレイは何故かギデオンと一緒に食事をしていた。


 場所はクレイ(と、本来はエステルも)宿泊している宿の近く、歓楽街にある酒場兼食堂だ。

 歓楽街と言っても色街などではなく、彼らが入ったような店が集まった区域で、治安もそれほど悪い訳では無い。

 酒に酔った客たちの陽気で賑やかな声で、店内は喧騒に包まれている。


 そんな中にあってクレイは少し不機嫌そうな顔をして、目の前に座るギデオンに向かって愚痴を零しているところだった……



「まったく……一体どうなってやがる。結局アイツ、帰ってこないし。王城に泊まるだって……?何だってんだ」


 騎士登用試験が終わったあと、彼のもとに伝言があった。

 曰く、『エステルは今日、王城に泊まるので、君は心配せずに先に帰って大丈夫だ』……と。



「あの嬢ちゃん、お前より強ぇんだろ?にわかには信じられんが……しかし、それなら特別待遇も分からんでも無ぇ」


「ああ、それは分かる(師匠の事が知られてるなら尚更な……)。だが、それはつまり……」


 クレイは複雑そうな表情で言う。

 ……何だか物凄くイヤそうな顔だ。


「どうした?」


「……いや、つまり、幹部待遇の可能性があるよな?」


「……腕っぷしだけでそうなるとは思わんが、そう言う可能性はあるかもな」


「うわ~……ありえね~……アイツが上司とかないわ~」


 顔を顰めながらクレイは言った。

 本当に嫌そうである。

 これまでの彼の苦労を思えば、それも仕方がないだろう……


 そしてある意味では、エステルが彼らの上司になると言うのはあながち間違ではないのかもしれないのだ。

 それはおそらく、彼らの予想の斜め上を行くだろうが……



「……だが、お前の言う通り、腕っぷしだけじゃそうはならないよな。じゃあ、大丈夫か」


 そう考えると少し安心するクレイだが、一抹の不安は拭いきれない。


 そして、その失礼とも言えるクレイのエステル評を聞いたギデオンは、複雑そうな表情で聞いた。


「……彼女は腕っぷしだけなのか?」


「そうだ」


 ノータイムで返すクレイ。

 なんなら若干食い気味だった。



 そして彼はギデオンに、いかにエステルが能天気で、適当で、何をしでかすか分からない娘であることを力説する。

 幼い頃からの数々のエピソードを交えて……


 それを聞くギデオンの表情は、段々と引きつって行くのだった…………








「そ、そうか……苦労したんだな、お前も」


「そうか、分かってくれたか!お前は良いやつだなぁ……」


 これまでの鬱憤を晴らすかのように語り終えたクレイは、ギデオンの労いの言葉に薄っすら涙すら浮かべた。

 そして話を聞いてくれたギデオンに感謝する。



「よし、ここは俺の奢りだ!じゃんじゃん食ってくれ!」


「……どんだけなんだよ、あの嬢ちゃん」


 あまりのクレイの喜びように、むしろギデオンはドン引きしている。



「あぁ……そういやお前、アイツに惚れたんだっけ?やめとけやめとけ。苦労するのは目に見えてるぞ」


「ばっ!馬鹿野郎!べ、別に惚れてなんか!…………いや、そうだったとしても、お前の話を聞いたらなぁ……」



 どうやらエステルは、自身が預かり知らぬところで、まだ始まってすらいない恋愛フラグをへし折られたようだ。

 そして、その事実を彼女が知ることは二度とないだろう……








「ところで、嬢ちゃんの事は置いといて……俺等はどうだ?」


「ん?試験のことか?大丈夫だろ。俺とお前は合格間違いないさ」


 ギデオンの問にクレイは事も無げに断言する。

 今日集まった者たちの中では、二人が突出した力を持っていたのは誰の目から見ても明らかである。


 しかし、ギデオンはクレイに手も足も出ずに敗北したため、少し不安になっていたようだ。

 あんな挑発をしてきた割に、見た目によらず繊細なのかも知れない。



「むしろ試験官の騎士よりも俺等のほうが既に実力は上だと思うぞ。お前が不合格なら全員不合格だろ」


「……そうか。それを聞いて安心したよ」


 ホッとしたように彼は言った。


 その様子を見たクレイは、何となく気になって質問をする。



「お前、何で騎士を目指してるんだ?腕を活かすならハンターとかもあると思うが……」


「ん?あぁ……別に大した理由じゃ無ぇが……。ウチは母子家庭でな……お袋に楽させてやりたいと思ってな。ハンターなんかより、騎士の方が安定してるしよ」

 

「そうか……俺もな、家族は母親だけなんだ……まぁ、もともとはエステルに触発されたってのが大きいんだが、お前と同じ理由だな」


 クレイは自分と同じ境遇であるギデオンに共感し、自分も同じ身の上だと明かす。





 そんなふうにして、彼らは親睦を深めるのだった。



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