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交流



 晩餐の席で国王であるアルドから話しかけられるエステル。

 彼女は彼がこの場に来てから、彼の声や気配により、何処かで彼と会ったような……と感じていた。

 そして彼に話しかけられ、その表情を見たとき……それは記憶にある人物と結びつこうとしていた。




「え、え〜と……アルド陛下(へ〜か)?」


「なんだ?」


 戸惑いながら、エステルはその疑問をぶつけることにした。


「私の名前を知って……ご存知と言う事は、もしかして何処かで会った……お会いした事がありますか?」


 素の喋り方になってしまいそうなのを何とか訂正しながらエステルはアルドに聞いた。

 デニスと話をしたときは普通に敬語で話せていたのだが、知ってる人かも……と思うとついつい言葉遣いが砕けてしまうのだ。



「いや、こうして(・・・・)君に会うのは初めてだな」


「そ、そうですか……(じゃあ、やっぱりアランさんとは別人なんだ……それはそうだよね、髪も目も色が違うし。でも……この人もアランさんと同じくらい強い(・・)ね)」


 本人から否定され、頭の中で思い描いていた人物……アランとの外見の違いを改めて認識して彼女はそう結論づける。

 だが、アルドの答えが何か含みをもたせるような言い回しだった事には気が付かなかった。




 そして、エステルとアルドの一見すると何気ない会話の様子を見て、レジーナとミレイユ……いや、彼女たちだけではなく他の令嬢たちも驚きの表情を浮かべていた。


 彼女たちのその様子には頓着せず、アルドはレジーナとミレイユにも声をかける。



「レジーナ嬢とミレイユ嬢は久し振りだな。変わりないか?」


「……はい、健やかに過ごしておりますわ」


「……私もです」


 レジーナですら戸惑う空気を隠すことができず、言葉少なに答えることしかできない。

 彼女たちは一体何に驚いているのだろうか?



「……陛下は、少し変わられましたね」


「……そうか?……あぁ、いや……まぁ、そうかも知れないな」



 そこで初めて、レジーナや他の令嬢たちが自分の態度に戸惑っている事を察したアルドは苦笑いした。

 そして、チラ……と、エステルの方を見る。


「?」


 彼女は不思議そうにコテン、と首を傾げる。

 今の会話の流れで自分の方を見る理由が分からなかったからだ。



 そしてアルドは、令嬢たちを見渡して宣言する。



「これまでの私の態度からすれば、君たちがそう思うのも無理はない。だが、これは信じて欲しいのだが……君たちをここに集めた以上、私は君たちに誠実に向き合っていきたい。君たちを政治の道具や子をなすためだけの存在にはしたくないと思っている。これから少しずつでも、お互いの事について理解を深めていこうではないか」


 そう言うと、再びアルドは意味ありげにエステルの方を見やる。

 その目は少し申し訳無さそうな色を帯びていた。


「??」


 やはり彼女は、その視線の意味が分からない。

 しかしそれよりも、先のアルドの言葉の意味が分からず戸惑っていた。



(『政治の道具』?『子をなすため』?……う〜ん?)


 流石にアルドの言葉に引っかかりを覚えるエステル。

 これまで何度かそういう機会があったが、いくら彼女でももう気が付いたか……?



(ふむ……偉い騎士さまに出世したら政治にも関わってくるよね。でも、『子をなす』って……?)


 流石にそれはエステルの謎解釈でも、騎士に結びつけるのは無理があるだろう。



 そしてついに、彼女は気が付いた!!



(そうか!!つまり……寿退職するまで平穏に過ごせるとは考えるなよ!実戦もあるからな!覚悟しておけ!!……って陛下は言いたいんだね。望むところだよ!)



 ……駄目だこりゃ。

 いくら何でも、その解釈は無理がありすぎるだろう。

 エステル・ブレーンの思考ロジックは、本当にどうなっているのか…………




 エステルが超謎解釈で自己完結している一方で、令嬢たちは王の言葉に感銘を受けた様子。

 これまでずっと、どことなく緊張感を孕んでいた空気が更に和らいだようだ。

 令嬢たちの顔には嬉しそうな笑顔が浮かび、中には顔を赤くしている者もいた。



 その様子を見たエステルは……


(ん〜……やっぱり皆も陛下とお話したいよね?)


 そう考えて、彼女はある提案をする。



「あの、陛下……?」


「ん?何だ?」


「え〜と……もうごはんも食べ終わりましたし、席替えしませんか?」


「…………席替え?何故だ?」


 エステルの突拍子もない提案に、アルドは一瞬何を言われたのか分からず、少し間をおいてから聞き返す。


「え、エステルさん、何を仰ってるんですの……?」


 レジーナも驚いて思わず会話に割って入ってしまう。

 ミレイユや他の令嬢たちも唖然とした表情だ。



 席次には明確な序列があり、それを覆すことなど普通はありえない。

 ……既にエステルという例外がいるのだが、それはアルド以外の者は認識していない。



「だって、陛下はさっき言ったじゃないですか。『お互いの理解を深めたい』って。だったら私達だけじゃなくて他の皆さんともお話しないとじゃないですか?」



 エステルは、さも当然だ……とばかりにそう言う。


 そして、それを聞いたアルドは笑みを浮かべ答えた。


「ふ……確かにその通りだな。よし、ではもっと皆と話しやすいようにしようじゃないか」


 そう言って彼は立ち上がって、長いテーブルの中央付近に移動する。


「へ、陛下!?」


「ほら、君達ももっと近くに集まるといい」


 令嬢たちの驚きをよそにアルドは言う。


 そしてその言葉を受けて、令嬢たちもおずおず……といった感じで間を詰めていった。



「あぁ……良いな、こういうのも。距離が近くて話しやすい。これからもこうしようか」




 そうして。

 最初はぎこちなかったものの、少しずつ会話も弾むようになり……やがて令嬢たちの笑い声が聞こえるまでになる。

 その中心には、一風変わった令嬢 (?)がいるのであった。


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