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お喋り



 後宮で宿泊する部屋に案内されたエステル。

 ドレスから動きやすいワンピースに着替えた彼女は居間で寛ぎながら、クレハに淹れてもらったお茶を堪能していたのだが……




「え〜と、クレハさん?」


「はい、何でございましょうか?」


 お茶を飲み終わるタイミングを見計らってカップを下げに来たクレハに、エステルは声をかける。



「あの……後宮の中って探検してみても良いですか?」


 少し遠慮がちなのは、クレハに余計な負担をかけないかな……と思ったからだ。

 エステルは他人の好意にはあまり遠慮したりはしないのだが、気遣いは出来る娘である。

 しかし「散歩」ではなく「探検」なあたり、エステルらしい。



「他の方の部屋以外でしたら、もちろんご自由に散策していただいても大丈夫ですよ。談話室(サロン)や遊戯室等も御座いますし……どなたかいらっしゃれば晩餐までお話されるのもよろしいかも知れませんね」


「良かった〜。暇だから誰かとお話したいかも」


「では、私もご一緒させていただきますね」


「え?でも、忙しいんじゃ……」


「本日の私の仕事は、エステル様のお世話をする事ですので。ご遠慮なさらずに、ここではお好きなようにお過ごしくださいませ」


 それが仕事だ……と言われればエステルが遠慮する理由はない。

 早速クレハを伴って後宮探索を開始するのだった。








 エステルの部屋は2階にある。

 部屋を出た彼女たちは、長い廊下を歩いていく。



 後宮の構造は、上から見ると「ロ」の字型になっている。

 審査会の会場となったダンスホールや厨房などの施設は玄関側に、エステル達が泊まる部屋が集まる居室区画はその反対側にある。

 談話室は後宮内の何箇所かにあるらしいが、その内の一つ、居室区画から近いところに向かっていた。



 そしてやって来たのは、「ロ」の字型の角の部分にあたる場所。

 衝立で仕切られてはいるが、扉などは無くオープンなスペースとなっている。

 カーペット敷の部屋の中央にはゆったりとしたソファが輪を描くように配置され、壁際にも椅子が何脚か置かれており、10人程度が座って話をできるようになっていた。


 そこには先客がいた。

 後宮審査会で会った、エステルも見知った顔である。

 一人で寛いでいた彼女に、エステルは元気よく声をかけた。



「あ、ミレミレ〜!!」


「誰なの!?それは!?」


 ミレミレこと、ミレイユ・ミレーは即座に鋭いツッコミを入れる。

 中々ノリの良い娘のようだ。



「何なのあなた……気軽に渾名など付けないでもらえるかしら」


「え〜……私たち親友でしょ〜?」


 ……もう親友に昇格していた。


 シモン村では同年代の女の子の友達がいなかったので、エステルは少しはしゃいでいるのだ。



「きょ、今日会ったばかりなのに、何を言ってるのかしら……」


 そうは言いつつも、親友と言われるのは満更でもないようで、笑いを堪えて顔が引きつっている。


「良かった〜、ミレミレが居てくれて。暇だったから話し相手が欲しかったんだ〜」


「ミレミレは決定なのね……ふ、ふん!私も、まぁ暇だったから……話し相手になってあげない事もなくもないわ!!」


 彼女も暇を持て余していたらしく、何だか少しおかしな言い回しで了承する。

 見事なまでに完璧なツンデレであった。








 そして二人はお喋りを始めた。

 クレハは会話の邪魔にならないように少し離れたところに控える。



「今日は楽しかったね!」


「楽しい……まぁ、そうだったかも知れないわね」


 改めて今日一日を振り返ってみれば……最初は乗り気でもなかった審査会も途中から楽しんでいた事にミレイユは気が付いた。


 それは、いま目の前にいる……ちょっと変わった令嬢 (?)のお陰かもしれない、とミレイユは思ったが、それを口にするのは憚れる。

 だってツンデレだから。


 だから彼女は別の事を口にする。


「あなたも、凄く楽しそうだったわね。今もそう」


「うん!ちょっと想像していた試験と違ったけど、色んな事が経験できたし、凄く楽しかったよ!」


 それは彼女の偽らざる本心だ。

 ……しかし、未だに騎士登用試験だったと信じている。



「ふぅん……どんな試験を想像していたの?」


「え?そりゃあ……剣と剣のぶつかり合い!血で血を争う熱き戦い!じゃないの?」


「そんなわけないでしょう!?」


 ミレイユのツッコミが冴え渡る。


 悲しいかな……彼女たちの話は噛み合っているように見えて噛み合って無い。

 それにお互いが気付くことはあるのだろうか?



「でも、(騎士は)ホントに色んな事が出来ないとダメなんだねぇ……凄く勉強になったし、益々(騎士になるのが)楽しみになったよ!」


「それは当然ね。何せ国王陛下のパートナー(王妃)となる女性を選ぶわけなんだから。並大抵の事ではなれないわ」


「国王陛下のパートナー(相棒)……頑張らないと!」

 

「もう審査は終わったけどね」



 そんな風に互いの認識がズレたまま、しかし楽しそうに二人の会話は弾むのだった……


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