剣聖の弟子の戦い
騎士登用試験の模擬戦は着々と進み、対戦表が次々と消化されていく。
そして、クレイの戦う番がまたやって来た。
「次!!クレイ、ギデオン、前へ!!」
立会の騎士に呼ばれた二人は対戦の場に進み出る。
クレイと対峙するギデオンは、ニヤリと笑みを浮かべ……
「よく怖じけずに来たな。痛い目を見る前に降参するなら今のうちだぞ?」
などと挑発の言葉を放つ。
だが、それを受けたクレイはあくまでも冷静に言う。
「いつまでやってんだ、それ?そんな事をしなくても、俺はちゃんと本気で戦うぞ?」
「……気が付いていたのか?」
クレイの言葉に、意外そうな表情でギデオンは聞いた。
どうやら彼は敢えて挑発を繰り返していたらしい。
「そりゃあな……お前ほどの実力を持ってるなら、俺らの実力を見誤る……なんてことはないはずだ。俺が本気で戦うように仕向けようとしてたんだろ?」
「何だ、最初から全てお見通しだったのか……」
(いや、エステルの評価を聞いたのと、さっきの戦いぶりを見たから気が付いたんだが……まぁ、それは黙っておこう)
彼もまだ少年なので良い格好がしたい年頃なのだ。
「だったら話は早え。最初から全力で行かせてもらうぜ!!」
「あぁ……来い!!」
「……よし、準備は良いようだな」
二人の話が終わるのを待っていてくれたらしい立会の騎士が双方に確認する。
もしかしたら、この場での立ち居振る舞いも見ていたのかもしれない。
「それでは、始め!!」
クレイvsギデオン
その戦いの火蓋が落とされた!
先ず初めに動いたのはギデオンだ。
大剣を大きく振りかぶりながら、先の戦いと同じように一瞬で間合いを詰める!!
しかし、それはスピードもパワーもさきほどとは比べ物にならない程の一撃だ!!
「はぁーーーっっっ!!!」
(やっぱりさっきは本気じゃなかったか。そうこなくちゃな)
刹那の間にもクレイは冷静に大剣の軌道を見極める。
そして……!!
ガァンッッ!!!
木剣とは思えないような凄まじい衝突音が鳴り響く!!
「受け止めた!!?」
「マジか!?」
周りで見ていた受験生たちから驚きの声が上がった!!
圧倒的な体格差から繰り出されたギデオンの大剣の渾身の振り下ろしを、それほど体格に優れないクレイが真っ向から受け止めて、全く微動だにしなかったからだ。
「はっ!!これを真正面から受け止めるか!!やはり強えな、クレイよ!!」
「お前の一撃も中々のものだ。かつてこれほどの攻撃を受けた記憶は…………まぁ割とあるな」
「「「あるの!?」」」
総ツッコミが入る。
だが、クレイの言った事は事実である。
某天然系最強美少女とか、もと剣聖とか、何なら自警団の中にも彼くらいのレベルの者はゴロゴロいるのだ。
鍔迫り合いは互角……いや、クレイが少しづつ押し返している。
細身ですらある彼の膂力は巨漢のギデオンをも凌駕する。
「くっ……俺がパワーで押し負けるだと!?」
「どうした?お前はパワーだけじゃないだろう?」
ともすれば挑発にも聞こえるクレイの言葉は、しかし期待の現れでもあった。
こんなものじゃないだろう?と、言葉だけじゃなく視線でも訴える。
それに奮い立ったのか、ギデオンは鍔迫り合いから剣を引いて即座に切り返し、連撃を放つ!!
自身の身の丈ほどもある大剣を、片手で軽々と振るうのは驚異的である。
そして、単なる力まかせではなく的確にフレイの死角を狙うその技量も並の技量ではありえない。
だが。
カッ!!ガンッ!!ガンッ!!カカンッ!!
クレイは怒涛の如きギデオンの連撃の一つ一つを丁寧に受け止め、あるいはいなし、全く寄せ付けない。
しかもその場を殆んど動いていないのだ。
(強え!!強すぎる……!!本気を出すなんて言ってたが……全然だろっ!?)
全く自分の攻撃が通じず、いいようにあしらわれていると感じたギデオンは内心で焦りが募っていく。
そして彼は一か八かの勝負に出ることにした。
「うおーーーーっっっ!!!」
少し間合いが離れた瞬間、ギデオンは大上段に大剣を振りぶり……渾身の力で振り下ろす!!!
その一撃は凄まじい衝撃波を伴ってクレイに襲いかかった!!!
しかし……!!
「ふっっ!!!」
クレイも鋭く呼気を発しながら、ギデオンと同じように大上段からの振り下ろしの一撃を繰り出す!!
パァンッッッ!!!!
鼓膜が破れるような破裂音を響かせて衝撃波同士がぶつかり合い、互いに霧散してしまう!!
「なっ!?」
「終わりだ!!」
まさか防がれるとは思っていなかったギデオンがほんの一瞬だけ呆けた隙に、クレイは神速の踏み込みで彼の横を通り抜け……
剣をギデオンの脇腹に撫で当てた。
「よし、そこまでだ!!」
そして、模擬戦の終了が告げられた。
「……参った。完敗だ。もう少しやれると思ったんだが……さんざん挑発しておいてこのザマだ。情けねえ」
「いや、中々だったと思うぞ。最後の一撃は咄嗟に対抗出来たが……当たっていれば唯では済まなかっただろう」
頭を振って悔しがるギデオンにクレイは歩み寄り、称賛の言葉をかけながら手を差し出す。
ギデオンはその手を掴んで、二人はしっかりと握手をした。
ギデオンは悔しさを見せるものの、その表情はさっぱりしていた。
(……こいつも実力からいって合格するだろうし、同期の仲間になるって事だよな。……まぁ、悪くはないな)
エステルが嬉しそうに料理に舌鼓を打ってる頃、そんな風に男たちの友情が芽生えつつあるのだった……




