れっつ!くっきんぐ!
様々な食材を確認しながらカテナのアドバイスを受けてエステルたちが作ることにした料理。
それは……
「ズバリ、シチューを作りましょう!!」
と言う事である。
シチュー……要するに煮込み料理であるが、今回作るのはホワイトシチューだ。
これに決めた理由としては、比較的シンプルで特別難しい技術も必要ない……と言うのが大きいだろう。
平民にも貴族にも馴染みのある料理であるし、エステルも大好きな料理である。
「切って、煮込んで、味付けする……楽勝ね!!」
「確かにそれほど難しくはない料理ですが……注意すべきポイントは幾つか御座いますよ」
ミレイユが意気込みを見せるが、アドバイザーのカテナはやんわりと注意する。
「では早速始めましょうか……先ずは野菜を切るところからですね……包丁を握るのは初めてです」
「私も……大丈夫かしら……」
「私は、切るのは得意です!!」
エステルは一人で料理を作ることは出来ないが、食材を切るのは得意である。
いや、得意ではあるのだが……
「まあ、エステルさんは普段お料理をされるのですか?」
「あ、普段からお母さんの手伝いをしてるだけです。見ててくださいね!!」
そう言って彼女は……何と、空中に野菜を放り投げたではないか!
それも一つではなく、幾つもの同時にだ。
そして包丁を構えたエステルは、目にも止まらぬ速さでそれを振るった!!
落ちてきた野菜に無数の斬撃が刻まれ……
包丁とは逆の手に持っていたボウルの中に、全ての野菜が落ちていく。
「はい、こんな感じでどうですか?」
エステルが差し出したボウルの中を見ると、綺麗に皮が剥かれ、均等にブロック状に切り刻まれた野菜が。
「「「…………」」」
レジーナとミレイユ、カテナの3人はまたもや唖然として声が出ない。
剣聖の娘エステル、こんなところで本領発揮である。
「え〜と……私のイメージする料理とは、ちょっと違う気がするんですけど」
何とか言葉を捻り出すレジーナ。
ミレイユはまだ立ち直っていない。
「ふ、普通でないのは確かです……ただ、ちゃんと綺麗に切れてますね。もう少し分量が必要かと思いますので、お二人もこれくらいの大きさで切って見ましょう。……切り方は真似しなくてもいいです」
「したくても出来ないでしょう……」
カテナの言葉に、ようやく我に返ったミレイユがツッコミを入れた。
ともかく、二人もカテナに教えを乞いながら慣れない包丁を何とか使って野菜を切っていく。
おっかなびっくりでエステルの様に綺麗に切ることは出来なかったが、それでも必要な分量を揃えることが出来た。
「教えて頂いてありがとうございます、カテナさん」
「あ、ありがとう……カテナさん。料理ってこんなに大変なのね……毎日こうやって私達の料理を作ってくれて……」
「そうですよね!ご飯を作ってくれる人には感謝しないと……です!お父さんもお母さんも、いつもそう言ってます!」
レジーナとミレイユが、包丁の扱いを教えてくれたカテナにお礼を言う。
そして、ミレイユは普段から自分たちのために料理を作ってくれる料理人に思いを馳せ、エステルがそれに同意する。
そしてレジーナは、ミレイユとエステルのその様子を見て微笑みを浮かべた。
「いえ、お礼には及びませんよ。私達はこれが仕事ですし、慣れてますから。でも、こちらこそありがとうございます」
ミレイユの言葉にカテナも嬉しそうに笑みを浮かべてお礼を言った。
そして、その後もアドバイスを貰いながら三人は力を合わせて料理を作り……やがて美味しそうな香りを漂わせるシチューが完成する。
途中、エステルが様々な調味料を適当に放り込もうとするのを他の3人で止めたり。
エステルが味見と称してがっつり食べようとするのを3人で止めたり……
紆余曲折はあったものの、何とか無事に作り終えることが出来たのだった。
「できました……これを、私達が作ったんですね……」
「凄く美味しそう……」
レジーナとミレイユは料理を完成させたことに感慨深げに呟く。
カテナのアドバイスはあったものの、間違いなく自分たちの力でやり遂げたのだ。
そしてエステルと言えば。
「早く食べたい!」
美味しそうな匂いにつられて、エステル・ストマックは空腹を訴える。
「「エステル(さん)は少し遠慮しなさい」」
先に彼女の食い意地の悪さを見た二人の言葉が重なった。
「さあ、それでは冷める前に皆さんで頂きましょうか。私もご相伴にあずからせて頂きますね」
「そうですね、とても楽しみです」
ふと周りを見れば、他のグループも料理を作り終えて食べ始めようとしているところだった。
その多くは自分たちでやり遂げたことに満足そうな表情だ。
最初に文句を言っていた令嬢たちも、今は目を輝かせていた。
それを見たレジーナは、やはり嬉しそうに微笑みを浮かべる。
エステル達は自分たちが作った料理を口にすると……
「美味しい……」
「ええ、とても美味しいわ」
「やっぱり自分たちで作ったものは美味しいですよね〜」
それはプロの料理人が作ったものに比べれば不格好であるし、味も落ちるものだっただろう。
それでも、格別なものに思えたのは……エステルの言う通りだろう。
「でも、レジーナ様の仰ってたこの課題の意図……まだ分からないわ……」
「むぅ……私も」
ミレイユとエステルはそう言うが……レジーナは首を振ってそれを否定する。
「いいえ、二人はもう分かってると思いますよ。そうですよね、カテナさん?」
「はい、仰る通りかと」
「「……?」」
レジーナの言葉にカテナは同意するが、当の二人はよく分からずに疑問符を頭に浮かべるのだった。




