お料理対決
後宮審査会第二の課題。
その実施場所として案内されたのは後宮の厨房だった。
果たして、ここで行われる課題とはいったい何なのか?
戸惑う令嬢たちをよそに、ドリスは説明を始めた。
「皆様方には何名かのグループになっていただき……お料理を一品作って頂きます」
戸惑いの空気がどよめきに変わる。
それも無理からぬ事だろう。
彼女たちはみな貴族……それも名家の出だ(1名除く)。
毎日の料理は専属の料理人が作るのが常であり、自らの厨房に立つことは無いのである。
「私達に使用人の真似事をさせるというの!!馬鹿にしているわ!!」
その時、怒りをあらわにした令嬢の一人がドリスに食ってかかった。
他にも何人か彼女に同調して詰め寄る。
「馬鹿になどしてはおりません。これはれっきとした審査なのです。ご了承頂けないようでしたら、残念ですがこれ以上はお引取り頂くことになります」
怒れる貴族令嬢たちに詰め寄られても、萎縮することなくドリスは淡々と言う。
使用人の立場では貴族に強く出られれば、そうそう抗うことなど出来そうもないが……彼女は中々の胆力を持っているようだ。
「くっ…………だけど、私……料理なんてした事ないわ!!」
「私もよ!!」
「こんな審査……意味がないわよ!!」
審査終了をチラつかされて幾分かトーンは落ちたものの、尚も言い寄る令嬢たち。
その様子を見て、ため息をつきながら小さな声で呟く者が。
「ふぅ…………彼女たちは、この試験の意図が分かって無いようね……」
「え?レジーナ様はお分かりに……?」
呟いたのはレジーナ、それを聞いて問うたのはミレイユ。
二人は王都の社交界で面識があり友人と言っても良い間柄だ。
「推測ではありますけど。後宮に住まうのが、どういう者なのか……それを考えれば自ずと答えはでます」
「えっとえっと……みんなで力を合わせて頑張ろう!!って事ですよね!!」
二人が話しているところに、エステルも加わった。
エステル的にはミレイユはもう友達だから。
「あ、あなた……人の話に勝手に入って……」
「あなたはエステルさんでしたわね。先程のダンスはとても見事でした」
ミレイユは突然話に入ってきたエステルに文句を言おうとするが、レジーナは気にした様子もなくエステルに話しかけた。
「ありがとうございます!!え〜と、あなたは……」
「私はレジーナ・エルネアと申します」
「よろしくお願いします!……あれ?国と同じ名前……」
いくら世の常識に疎いエステルであっても、流石にそれには気が付いた。
この国の名はエルネア王国。
その名と同じ家名、それはつまり……
「ええ、私はエルネア王家に縁のある者です。とは言っても……」
「レジーナ様は今この場にいる誰よりも高貴なお方なのよ。あなたが気軽に話しかけられるものではないのよ!」
「王家に縁の方……(え〜と、王様の親戚って事だよね、すごいんだぁ……)」
取り敢えず、何だか凄く偉い人だと理解したエステル。
「それで……レジーナ様は、先程のお話はどうお考えでござるか?」
……そんな謎敬語 (?)が飛び出した。
偉い人相手ということで、彼女なりに敬意を示したのだろうか?
そして、その言葉は一体誰に教わったのか……
「ご、ござる……?慣れない話し方をするくらいなら、別に変えなくてもいいですよ。……先程の話なら、エステルさんが仰った通りです」
「え……?力を合わせて……という?」
レジーナがエステルの先の言葉を肯定し、ミレイユがキョトンとした表情で言う。
「ええ。ほら、まだ説明の続きがあるみたいですよ」
「皆様がご心配されるのはもっともでございますが……ご安心ください。皆様のサポート要員として、王城の専属料理人を各チームにお付けいたします。ただし彼女たちは助言を行うのみ……あくまで手を動かすのは皆様方であることはご承知おきください」
ドリスのその説明で、最後まで抗議していた令嬢たちも渋々ながら押し黙る。
口調は丁寧だが、雰囲気から最後通告だと察したのだろう。
それに、料理のプロがアドバイスしてくれるなら何とかなる……と思ったのもあるかもしれない。
「ご理解いただけたようで何よりです。……では、グループ分けを発表させていただきます」
一悶着あったが、どうやら第二の課題がようやく始まるようだ。
そして、ドリスが発表したグループ分け……エステルがどうなったかと言えば。
「よろしくお願いしますね、レジーナさん!ミレイユさん!!」
「ええ、よろしくね」
「……ふんっ!足を引っ張らないでよね!」
先程から一緒に話をしていたレジーナとミレイユが同じグループとなるのだった。
果たして彼女たちは、力を合わせて見事に課題を乗り切ることは出来るのだろうか?




