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【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ  作者: O.T.I
剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?
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女騎士……?



 後宮の敷地に再びやって来たエステル。

 前回訪れたときは宮殿には入らなかったが、今回は中に案内される。



 美しい彫刻が施されたきらびやかな宮殿。

 その入り口の大きな扉は開け放たれ、広大な玄関ホールが彼女たちを出迎える。


 幾つもの魔法の明かりが灯されたシャンデリアが高い天井に吊るされ、玄関ホールを光と影で彩っていた。

 その暖かな光は新たに訪れた、二人分のぼんやりとした影を大理石の床に落とす。



「ふぁ……キラキラだぁ……!」


 物語の中で見たような光景に、エステルの口から感嘆のため息が漏れた。


「さあエステル様、こちらでございます。もうあまり時間もありませんので、早く支度をいたしましょう」


「……支度?」


「はい。先ずはお着替えを。それから…………まあ、私がお手伝いさせていただきますので、ご心配無用です」


「ん〜……分かりました……??」


(着替……?あぁ、騎士団が支給する鎧とかかな?ん〜……私、あまりゴテゴテした鎧は好きじゃないんだけど……これからは慣れなきゃだね〜)


 エステル・ブレーンは基本的にシンプル思考だが、無駄に回転が速い時がある。

 全く見当違いの答えを出すのが玉に瑕だ。




 彼女たちは玄関ホールの両側に設けられた、緩やかな曲線を描く階段の一つを登っていく。

 その先はホールの吹き抜けをぐるりと囲むような回廊があり、各部屋に通じる扉が並んでいた。


 クレハはそのうちの一つを開け、エステルに入室を促す。


「さあ、こちらの部屋にお入りください」


「は〜い」


 エステルが部屋に入るとクレハも続いて中に入って扉を閉める。


 部屋の中はブラウン基調の落ち着きのある雰囲気。

 広さはそれほどでもないが、シックな調度品の数々がいかにも高級そうだ。

 審美眼など持ち合わせていないエステルでさえも、その部屋のセンスの良さに感心する。


 大きな三面鏡を備えたドレッサーの前にエステルを座らせると、クレハは続きの部屋に向かい、暫くすると幾つかのドレスを手にして戻ってきた。



「私の方で幾つか見繕わせて頂きました。お気に召さなければ他のご用意も御座いますが……先ずはこちらをお試しいただければと思います」


「……え?着替えって……これ……?」


 流石のエステルも、ようやくおかしい事に気がついて戸惑いの声を上げる。



(え?どういう事?……何でこんな動きにくそうな服を着るんだろ?…………そうか!!わかったよ!!)


 しばらく考えて、エステルは一つの答えを導き出した。


 ……重ねて言うが、エステル・ブレーンはポンコツだ。

 いったいどんな答えを出したのやら……



(これは女騎士としての任務のためだ!!高貴なお姫様を密かに守るためにドレスを纏い……いざとなれば、その格好のまま戦わなければならない。だからそれを試験で試すんだ!!間違いないね!!)


 大間違いである。

 いや、確かに女性騎士ならそんな任務もあるかもしれないが……


 ともかく。

 一度疑念を抱いたものの、エステルは自分の都合のいいように解釈してそれを信じてしまった。



 そして壁際にハンガーで吊るされた美しいドレスを確認する。

 彼女は普通 (?)の村娘なので、当然こんな豪華なドレスを着たことは無い。

 精々が、祭りの時にちょっとお洒落な服を着るくらいか。

 それとて母エドナが世話しなければ自分から着飾る事などしなかった。


 なので、エステルはどのドレスが自分に似合うのか……なんてサッパリ分からない。

 特に取り繕う必要もないので、エステルは素直にクレハに聞いてみる。


「えっと、どのドレスが良いのか、よく分からないです」


「かしこまりました。では、僭越ながら私めが選ばせて頂きますね」


 もともとクレハが持ってきたドレスは、彼女自身の目でエステルに似合いそうなものを見繕っている。



「そうですね……どれもお似合いになるかと思いますが……こちらなど如何でしょうか」


 そう言ってクレハが手に取ったのは、エステルの髪色よりも少し沈んだ色調の赤いドレス。


「エステル様の鮮やかな赤を際立たせるのに別の色でも良いのですが……同系色の方がより上品に見えるかと。抑えた色調なので御髪の赤もよく映えると思います」


 特別な手入れなどしなくても艷やかでサラサラなエステルの赤い髪は、誰からも褒められるので彼女のご自慢である。

 クレハの説明はそんなエステルの琴線に触れるものであった。


 そして……


「うん!!じゃあ、これにします!!」


 と、即座に決断するのだった。



「承知しました。ではお着替えいたしましょう」





 こうしてエステルは、人生で初のドレスを着ることになるのであった。



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