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襲撃



 無人の後宮を散策するエステルたち。


 しっかりと手入れされ、美しい花々が咲き誇る庭園を彼女は心から楽しんでる。

 もしこの場にクレイがいたのならば「お前に花を愛でる感性があったなんて……」などど、失礼な事を言っただろう。



「広くて良いですね〜。キレイな花を見ながら鍛錬するのも楽しそう!」


 ……やはりエステルはエステルだった。

 きっとクレイも納得するはず。





「ふ……本当に剣術が好きなんだな、エステルは」


「はい!……でも、王都に来てから中々鍛錬が出来なくて。鈍ってないないか心配です」


 シモン村では毎日剣術の鍛練を欠かさなかったエステル。

 だが、ここ数日はそれを果たすことができずに焦りの気持ちが生じてるのだ。


「一度、宿の前でやろうとしたんですけど、クレイに止められたんです」


「あ〜……確かに奇異の目は向けられそうではあるな」



 因みに彼女は今、帯剣している。

 本来の得意武器である大剣ではなく、小振なショートソードではあるが。

 本来は、騎士や衛兵でも無い限り王城内での武装は特別な許可が必要なのだが、アランと一緒にいるため見咎めるものは居なかったのである。



「騎士になれば騎士団の訓練場で好きなだけ剣をふれるから、それまでは我慢することだ」


「う〜」


 我慢しろと言われ、ぷく〜……と頬を膨らませるエステル。


 その様子が可笑しくて、アランは笑いを抑えることができない。



「ははは!そんなにむくれるな。もう、あと数日だろう?」


「むう……まぁ、しょうがないか。でも騎士になったら取り戻さないと!!」


 もはや鍛練中毒とすら言えそうな彼女であった。









 そうやって……実態はともかく、傍から見ればまるで恋人同士のように仲睦まじく語らいながら二人は庭園を散策する。

 そして、次は宮殿の中も見学しようか……と、更に進もうとした時だった。




「……アランさん。誰かいます」


 突然、普段の脳天気とも言えるくらいに快活なエステルの雰囲気が一変する。


 アランは、その変わりように驚きをあらわにするが……直ぐに自身も不穏な空気を察知した。




「これは……殺気?」


「はい、誰かが私達を狙ってます。…………っ!!」


 何かが自分たちに向かって飛来するのを敏感に察知したエステルが、腰に下げていた剣を抜き放つ!!



 キィンッ!!


 キキィンッッ!!



 目にも止まらぬ速度で振るわれた彼女の剣は、猛スピードで飛来した何本もの矢を尽く打ち払った!!



 ヒュンッ!!ヒュヒュンッッ!!


 キンッ!!キキンッッ!!



 尚も鋭い矢がアランに向かって殺到するが、彼女は射線に立ちはだかって全て払い落とす!!


 いつ止むのか分からない攻撃に晒され、反撃もままならないと思われたが……



「……そこぉっ!!!」



 何と!!


 エステルは飛来する幾つもの矢を剣で打ち払いながら、そのうちの一本を空いている左手で掴み取って弓で射るのと変わらない威力で投げ返した!!




「!!??」



 矢が飛来する元、宮殿の周りの森に潜んでいたらしき何者かから動揺の気配が伝わってきた。


 矢の猛攻が中断し、エステルはその隙を逃さずに猛スピードで一気に駆け出した!!




「逃がすかっ!!」



 敵が逃げ出そうとする気配を敏感に察知したエステルは、させじとさらに加速する!!


 そして……!!



「せやあーーーっっっ!!!」



 気合一閃!!!



 大きく横薙ぎに振るわれた剣は凄まじい衝撃波を伴いながら、森の木々を纏めて薙ぎ払う!!!



 ………………


 …………


 ……



 ……何も起こらない。 




 いや、斬撃の跡に沿って木々が少しずつずれて(・・・)いって……



 ドドォーーーーンッッ!!!



 と、大きな声を地響きを立てて何本もの木が倒れてしまった!!



 何れも、大人の男が両腕で一抱え出来るかどうかという太さの幹を持っている。

 とても剣で斬る事など出来そうもないが……エステルの剣は造作もなくそれをやってのけた。



 だが……




「…………あ〜っ!!?逃げられちゃった!!!」



 そう。

 矢を放って攻撃してきた賊は取り逃がしてしまったのである。



「ごめんなさい!!アランさん!!逃しちゃいました!!!」


「あ、あぁ……いや。君のせいではないだろう。それよりも、怪我はしてないか?」


 凄い勢いで頭を下げて謝罪するエステルに、半ば呆然としながらもアランは彼女に怪我がないか?と心配の声をかけた。



「私は全然大丈夫です!!アランさんの方こそ大丈夫ですか?一応、全部叩き落したと思うんですけど」


「問題ない。助かったぞ」


「いえいえ〜。アランさんなら何とかしてたでしょうし……」


 アランが強者である事を疑っていないエステルは、彼なら自分が護らなくても自力で切り抜けていたと確信している。



「いや、そんなことはないぞ。俺は無手だったからな。無事なのはエステルのおかげだ。護ってくれてありがとう」


「えへへ〜…………でも、あいつ何だったんですか?」



 王城の中で襲われるなど尋常なことではない。

 流石のエステルもそれくらいは分かるので、訝しげな表情で訪ねた。



「さてな…………まぁ、『気にするな』」


「そうですか、分かりました!!」



 ……もはや魔法の言葉である。


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