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王城見学



 騎士団登用試験まで、あと数日となったある日。

 ここ数日、エステルとクレイは王都を散策して土地勘を養っていた。


 そして、本日は……



「……本当に大丈夫か?」


「大丈夫だって!!私は一度通った道は忘れないよ!」


「……お前、一度行った場所なんか興味無いだろ」


「シモンの民たる者、常に開拓者の精神を持たないと!」


「言ってる事が矛盾してるのに気付いてくれ……」



 二人が何を話しているかといえば……


 クレイが今日は図書館に行ってみたい、と最初提案したのだが、全く興味がわかないエステルが「だったらそれぞれ単独行動にしよう!」……言い出したのだ。


 何かと小姑のようにうるさいクレイの目から離れて伸び伸びしたい……と思ったわけではない。

 ……はず。



「迷子になったら適当に彷徨くんじゃなくて、巡回の兵士とかに聞くんだぞ。宿の名前は分かってるな?」


 まるで小さな子供に言い聞かせる母親のように何度も確認するクレイ。


「も〜う、分かってるって!!うるさいなぁ〜」


 ……やはり、少しうるさいと思っていたようだった。



















「ん〜……のびのび〜!ふ〜ふふんふん〜ふ〜……」


 クレイと別れたエステルは、賑わいを見せる街路をひとり歩いて行く。

 調子外れな鼻歌すら飛び出すほど開放感を感じているようだ。


 ……散々クレイにおんぶに抱っこだった癖に、随分現金なものである。




「さぁ〜て、どこに行こうかな〜。まだ行ってないのは……あっちの方かな?」


 早速、開拓者精神とやらを発揮することにしたらしい。

 複雑に入り組んだ街の街路を迷いなく進んでいくエステル。

 完全に直感で道を選んでいるが、エステル・シックスセンスがポンコツであることを彼女は自覚していない。

 果たしてどうなる事か……










「あれ〜?随分人が少なくなったね……」


 暫く街を適当に歩いてたエステルだったが、あれほど賑やかだった喧騒がいつのまにか遠ざかっていた。

 周囲の建物も一つ一つが大きく、閑静な住宅街といった雰囲気だ。



「何か、デニス様のお屋敷みたいなのがたくさんある……あんまり面白そうな場所じゃないかな?……ん?」



 キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたエステル。

 ふと、彼女はある一点を見つめる。

 どうやら何か彼女の興味を惹くものがあったようだ。



「あれってもしかして……お城かな?」



 エルネ城は宿泊している宿からも遠目に見えていたが、随分近くまでやって来たらしく、その威容がはっきりと確認できた。



「あそこに王様がすんでるのか〜……よし、近くで見てみよう!!」



 自分が住む国の王様など、彼女はいまいちピンと来ていない。

 ただ、彼女が騎士に興味を持つきっかけとなったのは、デニスから『若き王はかなりの実力者』だと聞いたからだ。

 父やデニスは呆れていたが、いつか手合わせしてみたい……と、彼女は本気で思っていた。



 俄然興味が湧いてきた彼女は、逸る気持ちのままに足早になって王城を目指すのだった。














 そしてやって来たのは王城前の大広場。

 先程までの閑散とした雰囲気から一転、観光客らしき多くの人々により再び賑わいが見られるようになった。



「おぉ〜……さすが王様が住んでるところだね〜。凄く大きい!!この前見た神殿よりも大きいな〜」


 間近に王城を見たエステルは目を輝かせる。


 大広場から王城に続く城門には門番の兵が立っているが、門は大きく開け放たれていて自由に出入り出来るようだ。


 その先、前庭を挟んで優美かつ壮大な城が建っていた。

 ここまで間近に来ると、その全容を全て視界に収めきれないくらいに大きな城だ。



「へぇ……中に入れるんだ〜。折角だから見学してこうっと」



 エルネ城は王の居城というだけでなく、国政の中心であり、行政手続きの場でもある。

 そのため、一般に開放されている区画までは自由に出入りすることができ、多くの観光客も訪れているのだった。




「こんにちは〜!!お疲れ様です!!」


 元気な挨拶をしながら城門をくぐるエステル。

 門番の兵士たちは、美少女に声をかけられ満更でもない様子でにこやかに手を振って応える。



 人の流れに乗って進むと、まず道の両側に綺麗に整えられた庭園が出迎えてくれる。

 そこも自由に入ることが出来るようで、そこかしこに休憩用のベンチや四阿(ガゼボ)が設けられて憩いの場となっている。



 さらに進むと、いよいよ城の中に入っていく。



 高いアーチ状の天井をもつ広い廊下が真っ直ぐ続き、暫くすると広大な玄関ホールに辿り着く。


 ここは市民の行政上の各種手続きを行う場所となっていて、観光客に混じって一般市民らしき人たちもちらほらと確認できた。



「ふぅん……お城の中ってこんななんだ〜……」


 感心した様子でキョロキョロと辺りを見回しながら、さらに奥に進もうとする。



 その時……




「……ん?君は……エステルじゃないか?」



 突然、エステルに声をかけてくる者がいた。


 彼女が声がした方を振り向くと、そこにいたのは……



「あ……アランさんじゃないですか!!こんにちは〜!!」


「あぁ、こんにちは。……どうしたんだ、こんなところで?一人か?」


「はい!!今日はクレイとは別行動です!!」


 思いがけず知り合いと出会ったエステルは、嬉しそうに答える。



「そうなのか。……ふむ、だったら俺がこの城の中を案内しようか?」


 少し考えてから、アランはそんな提案をする。

 ……彼の目が一瞬、怪しげな色を見せた事に、エステルは気が付かなかった。



「え、いいんですか?ぜひお願いします!!」


 アランの提案に、エステルは悩むこともなく即座に返事をする。

 彼女の中に遠慮という言葉はない。



「よし、それじゃあ案内しよう」



 こうして、エステルはアランの案内のもと、王城見学を行うことになるのだった。



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