総力戦
「「エステル!!」」
「えっ……お父さん!?お母さんも!?なんで!?」
「師匠!?」
巨大な竜との戦いの場面。
そこに、全く予想もしていなかった人物……ジスタルとエドナが突然現れたことに、エステルやディラックは思わず攻撃の手を止めて驚愕した。
最も果敢に攻めていた強者のうち二人が一瞬でも立ち止まってしまったため、竜の反撃が苛烈さを増す。
「「「うわぁーーーっっ!!?」」」
振り下ろされる脚、薙ぎ払われる尾、襲い来る顎……常人には抗いがたい猛威が騎士たちを襲い、まるで羽虫のように彼らを追い散らす。
「話をするのは後だ!!今は攻撃の手を止めるんじゃない!!」
即座に状況を察したジスタルは二人にそう叫びながら自らも戦線に加わる。
いま何とか竜をこの場に留めていられるのは、ごく数人の強者の力があってこそ。
ならば、自分やバルドが加われば、劣勢を覆すことも可能……と、彼は考えた。
「お前たちは下がって支援に徹しろ!!」
ジスタルとバルド……更なる強者の参戦によって状況が変化するであろう事を受け、アルドは即座に指示を飛ばした。
(まさか……義父上や義母上だけでなく、伯父上まで来られるとは……しかし、これで僅かにでも勝ち筋が見えてきたか?)
エステルやディラックと違い、新たな協力者の登場にも表向きは冷静さを保っていたアルドであったが、内心ではバルドの参戦にかなり驚いていた。
彼に対しては色々と思うところはあるものの、いまこの場における助力については素直に感謝する。
なお、ジスタルとエドナの事はやはり義父母呼びである。
そして、エステルやアルドなどの力ある者たちが前衛の要となり、他の騎士たちは足手まといにならないように支援に徹する事となった。
負傷した者はエドナの力によって既に治療を施されている。
王城からの支援部隊も少しずつ集まってきた。
対する竜も、出現直後は目覚めたばかりだったからなのか比較的動きが緩慢だったが、今は攻撃速度と頻度が格段に増している。
騎士たちを下げたのは正解だろう。
エステルたち強者であっても一瞬たりとも油断できず、まともに被弾すればただでは済まないのは彼らも同様だ。
否が応でも多大な緊張感を強いられる戦い。
しかし人間たちも竜も互いに決定打には欠け、戦いは長期戦にもつれ込むと思われたのだが……
「グオォーーーッッ!!!」
しつこく纏わりつく人間たちに業を煮やしたのか、竜は天に向かって咆哮を上げ、翼を大きく広げた。
そして竜の身体全体が燐光を纏い始める。
「いかん!!翔ぶつもりだ!!翼を狙え!!」
ジスタルが叫び声を上げ、それよりも前にエステルとクレイが左右の翼を狙って動く。
二人は竜の身体そのものを足場にしてもう少しで翼に届くところまで駆け上るが……
「あっ!?」
「しまった……!!」
竜は二人を振り落とすように身体を揺らしながら跳躍、そのまま飛翔してしまった。
竜が悠然と空を舞う。
その巨体故に、ただでさえ有効な攻撃を当てることすら困難な相手が、更に手の届かないところに行ってしまった。
その事実に誰もが絶望の表情を浮かべる。
突き抜けたポジティブ思考のエステルでさえも、悔しそうに顔をしかめていた。
……決して「お肉取り逃した……」とか思ってるわけではない。
そして、天空を統べる覇者は地上を睥睨し……鬱陶しく纏わりついてきた人間たちを一掃しようと、その本来の力を行使しようとする。
「まずい……ブレス攻撃が来るぞ……」
誰かが呆然と呟く。
それは誰もが思った事だ。
竜は地上最強の種族とされている。
それは巨体から繰り出される物理攻撃力や堅牢な竜鱗による防御力もさることながら、圧倒的火力を誇るブレス攻撃こそが最大の理由だろう。
竜の顎に光が集まる。
大気をビリビリと震わせるほどの力の波動が地上にまで伝わる。
もはや誰にもどうすることも出来ず、今から安全圏に退避する事も不可能。
「「「総員退避しろ!!!」」」
それでもアルドやディラック、バルドは、そう叫ばずにはいられなかった。
そして、竜の力が臨界に達した時……
破滅の光が地上に向かって放たれた……!!




