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さらに集う強者たち



 王都外壁から外に出たジスタルとエドナは、ドラゴンが見える方角に向かって道なき道を一直線に走る。

 獣道すら無いような森の中は相当な悪路であるが、ジスタルが剣で藪を切り払い、エドナがその後ろに続く。

 そのスピードは平地でのそれよりは若干落ちる程度だ。

 彼らは辺境の開拓村での暮らしも長いので慣れたものである。



「もう戦いが始まってるみたいね」


「ああ。あそこから動いてないところを見ると、結構善戦してるようだ」


 まだもう少し距離はあるが、二人とも既に戦いの気配を感じ取っていた。

 そして竜をその場に留めているくらいには騎士団が頑張ってくれているのだろう……と、ジスタルは感心する。



「もしかして……あの子たちもあそこで戦ってるのかしら?」


 ジスタルの言葉を聞いてエドナはその可能性を考えた。

 エステルとクレイならば、ある程度は竜との戦いにも慣れているから、二人の存在が善戦の理由なのでは……と思ったのだ。



「裏組織の壊滅作戦……だったか?あれ(・・)がその組織とやらに関係してるってんなら、可能性はあるな。……まあ、そうでなくても首をつっこむだろうが」


「そうよね……あの娘、ドラゴン(の肉)が大好きだし。はぁ……」


 思わずため息をつくエドナ。

 それは娘のトラブル気質に呆れるというよりは、どちらかと言うと心配する気持ちから出たものだった。




 そして、戦闘の音が間近に聞こえるくらい目前まで二人が迫ったとき。

 ジスタルは何者かの気配が横合いから近づいて来るのに気付いた。



「誰か来る……?」


 走るスピードはそのままに、警戒してそちらの方を見ると……ある男が走り寄ってきて合流してきた。

 彼は記憶にある姿よりも歳をとっていたが、ジスタルもエドナも知る人物だった。

 


「「バルド陛下!?」」


「誰かと思えば……ジスタルだったか。それに……今日は懐かしい顔を見る日なのだな」


 そう言う彼の表情は穏やかだ。

 同じ『懐かしい顔』でも、ミゲルに対する反応とはかなり異なる。



「陛下……まさか、アレ(・・)と戦うつもりですか?」


「無論だ。そう言うお前たちもだろう?」


 かつての王が自ら死地に向かっている事にジスタルは眉をひそめて言うが、バルドは「それがどうした?」と言わんばかりだ。



「……あの時以来、鍛錬は欠かしておらぬ。最後にお前と手合わせした時よりも、今の俺は強い。むしろ今が全盛期かも知れぬな」


「しかし……」


 バルドの言葉に、ジスタルはなおも渋い顔をする。

 かつて袂を分かつとも、彼にとっては今も敬愛する主君には違いないのであろう。

 そんなジスタルの想いを察したバルドは、柔らかな表情になって言う。


「今の俺は、お前が剣を捧げてくれた王ではない。かつて過ちを犯した愚かな男だ。だが……民を守りたいと言う気持ちを捨てたわけではない」


 そう言ったあと、しかし彼は自分の言葉に苦笑して続けた。


「……いや、そこまで大層な志ではないか。俺はただ……娘と、娘が暮らす場所を守りたいだけだ」


「「…………」」


 ジスタルとエドナは、バルドの言葉に沈黙する。

 二人とも彼の娘……レジーナとは、つい数時間ほど前に出会った。

 まだ少し話をしただけだが、美しく聡明で良い子に育ってくれた……と思っていた。

 彼女が父を慕っているであろう事も、言葉の端々に感じる事ができた。


 エドナの表情には様々な複雑な想いが見られたが、ことレジーナの事に関しては自分は口出しする資格はない……と、特に何も言わない。


 そしてジスタルは……


「……分かりました。では、共に戦いましょう」


 前王の想いを汲み取って、そう答える。

 その表情はどこか晴れやかであった。




 そして彼らは森の中を駆け抜け、戦いの場に辿り着いた。

 そこで三人が目にしたものは……












「ええ〜〜〜いっ!!暴れてないで大人しくお肉になりなさいっ!!」


 エステルが欲望ダダ漏れの叫びを上げながら、竜の頭に大剣を叩きつけるところだった。



「…………」


 想像していた緊迫した戦いとはかけ離れた、彼女のゆるいセリフに、バルドは目が点になる。



「「なんかうちの娘がすみません」」


 ある意味では予想通りの光景に、ジスタルとエドナは恥ずかしそうに謝罪した。




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