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決死の覚悟



 地下の古代劇場跡地から地上に出たエステルたちは、そこで信じがたい光景に遭遇した。



「……こういうことか」


 アルドは呆然と呟く。

 アロンが『逃げろ』と言った意味が、今はっきりと分かった。

 他の者たちもあまりの事態に立ち尽くしている。


 彼らの視線の先には、森の木々を優に超える巨大なドラゴンの姿。

 王都に現れる事などないが、それがドラゴン……魔物の頂点に君臨する存在であることは誰もが一目で理解していた。

 その威容は見る者に畏怖の念を抱かせ、矮小な人間ごときが抗えるものではないと否が応でも理解させる。


 ドラゴンの全身はうっすらと光りに包まれていたが、やがてそれも消えて……閉じられていた瞳が開く。

 そして天に向かって首を伸ばした、高らかに咆哮を上げた。



 エステルとクレイも、辺境で見るよりもはるかに巨大なドラゴンを前にして驚きを露わにしていたが……


「……クレイ、王都にもドラゴン出るんだね。それも、あんなにでっかいのが」


「……いや。そんなはずはないんだが……」


 王都周辺に出没する魔物は辺境よりも弱い。

 彼はそう聞いていたし、それは事実のはずだ。

 ギデオンと魔物狩りに行って実地で経験もしてる。

 当のギデオンもクレイの言葉にしきりに頷いていた。


 だが、あれは明らかに彼らの認識と矛盾する存在だ。

 ならば、あれこそがアロンが言っていた『やつの仕掛け』なのだろう……アルドと同じくクレイもそう理解した。



「でも、あれだけ大っきいと……お肉たくさん食べられるよね。じゅるり……」


 エステルのそのセリフは、彼女の母とほとんど同じものだった。

 あの母にしてこの娘ありだ。


(こいつ……ドラゴンを食材としか見てねぇ……)


 そしてそのセリフに、同郷のクレイですら若干引いているが、気を取り直して彼女に現実を突きつける。



「シモン村に出てくるのは精々が中位竜まで。上位竜も一度だけ現れたことがあったが……あれはどう見ても、それを超えている。下手すると、食われるのはこっちだぞ」


 エステルとともに竜狩りの経験がある彼にとっても、今回ばかりは分が悪いと考えているのだ。

 かつて一度だけシモン村近傍に上位竜が現れたときは、自警団員はもちろん戦える村人総出で事にあたり何とか撃破することが出来た。

 その時よりも厳しい戦いになるのは間違いないだろう。


「でも、あんなの放っておいたら王都に被害が出ちゃうよ!私たちが何とかしないと!……ですよね、陛下!」


 巨大な竜はまだ目覚めたばかりで動き出してはいないが、あれが王都に向かえば甚大な被害が生じるのは間違いない。

 アルドはエステルの言葉に頷き、騎士たちを見渡す。

 すると、彼らは既に覚悟を決めた表情で王の言葉を待っていた。

 アルドはそれに満足そうに頷いて……


「エステルの言う通りだ。我々があれを何とかしなければ……多くの民が犠牲になってしまう。……皆!覚悟を決め奮い立て!!これより我らはあのドラゴンを討伐する!!」


 決然と言い放つ。


 そして王の命を受け止めた騎士たちは一斉に敬礼を返した。



(か、カッコいい!!)


 エステルはその勇姿に感激して、自分も見様見真似で敬礼した。

 ……なかなか様になっている。



「しかし、まともに相手をしても勝てん。先ずはこちらに注意を引き付けて王都に向かわせないようにするぞ。数名は少女たちを安全な場所へ避難させろ。それから王城に伝令。待機中の騎士と魔導士を総動員させろ。移動式の投石機(カタパルト)弩砲(バリスタ)もありったけ持って来い」


 矢継ぎ早にアルドは指示を出し、そして……


「行くぞ!!皆!!俺に続け!!」


「「「「おぉーーーっっ!!!」」」」


 自ら先頭に立ち、竜に向かって駆け出した。




陛下(へ〜か)……カッコいい……」


「おい、ぼ〜っとしてないで俺たちも行くぞ!!」


 王の勇姿に見惚れていたエステルだったが、クレイが檄を飛ばすと力強く頷く。


「うん!!今日の晩ごはんはドラゴンシチューで決まりだよ!!」


「……まあ、やる気があるのは良いことだな」


 ここに至ってもマイペースなエステルに呆れながらも彼は頼もしさを覚え、「きっと何とかなる」と思った。


 そして、彼らと共に駆け出したギデオンに目を向け、苦笑しながら言う。


「俺たち新人騎士なのに、初任務がコレとか……な」


「全くだぜ。だが、まあ……陛下やお前たちと一緒なら、きっと何とかなる……って思うぜ!」


 その言葉通り彼の目に恐怖の色は無く、今はただしっかりと前を見つめ、主君と先輩騎士たちの背中を追っていた。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 聖域の森に入ってしばらくしてから、ディラックの部隊は馬を降りて自らの脚で全力で駆け抜ける。

 その先にはドラゴンの巨大な姿が目前に迫っていた。


 間近に見るそれはまるで城塞のようで、本当にこれからそいつの相手をするのか……と、騎士たちの間に緊張感が走る。

 そんな部下たちの雰囲気を察したディラックは、彼らを鼓舞するように大声で叫ぶ。


「気をしっかり持て!!真正面から相手をする必要はない!!先ずは注意をこちらに向けるんだ!!その後は本隊が来るまで時間稼ぎに徹しろ!!」


 彼とてこの少人数で古竜クラスのドラゴンを倒せるなどとは到底思っていない。

 何とかこの場に留めて時間稼ぎをすれば、あとからやって来るはずの騎士団本隊と合流して総力戦に持ち込む、という算段だった。


 それでも勝算の見通しは立たない。

 主君のアルドや自分と同クラスの強さを持つ者があともう何人かいれば……と、ディラックは思ったが、無い物ねだりしても仕方がないと、その考えを頭の隅に追いやった。



 そして彼らは森を駆け抜け、広く開けた場所に出た。

 そこは古代の街の跡地らしく、殆どの建物は崩れ去って瓦礫と化していたが、往時の賑わいを想像させるような遺跡だった。


 そこに、巨大な竜が山のように泰然と佇んでいた。


 ただそこにいるだけで、その内に秘める絶大な力が波動となって周囲に放たれている。



「こいつは……ビリビリ来やがるぜ……」


 流石のディラックも圧倒的な力を前にして総毛立つ。

 しかし彼は弱気を吹き飛ばすようにニヤリと笑い、部下だけでなく自身をも鼓舞するように叫ぶ。



「行くぞ!!!エルネアの騎士の力、存分に見せつけてやれ!!!」


「「「応っっ!!!!」」」



 王都を守るため、彼らの壮絶な戦いが始まる……!



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