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尾行の果て



 一連の少女誘拐事件の捜査過程において、過去にエル=ノイア神殿で起きた聖女行方不明事件を連想させる出来事があった。

 すなわち、少女誘拐・人身売買は隠れ蓑であり、真の目的は神殿が把握していない聖女を探し出すことにある……と。

 当然、騎士団としては神殿にも捜査の手を伸ばしたいところだったが……例え国王と言えど神殿内部には権限が及ばない。

 だが、国王と大神官の交渉により、騎士団が神殿主導の捜査に協力するという体裁をとって実質的な共同捜査を行うことになった。


 国王アルドの命により騎士団から派遣されたディセフは、かつての事件の事を知る者達に聞き取り調査を行っていたが、その結果はあまり芳しいものではなかった。

 得られる情報は既知のものばかりで、現在進行で起きている事件との関わりを示すような決定的な手がかりは得られなかったのである。


 そんな中、神殿側の捜査責任者に指名された大神官補佐のモーゼスが、かつての事件の際に集めたという様々な情報や資料を秘密裏に提供してきた。

 なぜ捜査開始時すぐにそうしなかったのか?

 彼が言うには、神殿内部に裏組織の間者が紛れている事を懸念した……ということらしい。



 そして、それらの情報によって今度は神殿側が王国に捜査協力するため、モーゼスは騎士団本部に赴いたのだが……彼はそこで事態が急転したことを知る。

 急ぎ作戦行動を開始することになった騎士たちを尻目に、彼は単身で別行動を取ろうとするのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 誰にも何も告げず、一人である場所に向かっていたモーゼス。

 彼は王都の外壁の外に出ると早々に街道から外れ、小高い丘に向かう小径へと入っていった。


 後を追うレジーナも、気付かれないように木立の陰に隠れながら付いていく。


(この道は……お父様の屋敷の近くを通るわね)


 数時間ほど前にも通った道である。

 もしかするとモーゼスは、父に会いに行くのだろうか……彼女はそんな疑問を抱いた。


 しかし彼は更に進むと、バルドの屋敷に向かう道からも逸れていく。

 道は段々と細くなり、辺りは薄暗い森となった。

 もはやほとんど獣道といった風情。

 いったいこんな場所に何の用があるのか……と、レジーナのモーゼスに対する疑念はますます深まった。


 

 やがて森を抜け……両側が断崖となっているゴツゴツとした岩場に到達する。

 すると、モーゼスはしばらくそこを進んでから立ち止まった。

 そこにあったのは……

 相当に古い時代のものと思しき遺跡であった。


 原型を留めないほどに崩れ去り、ほとんど瓦礫の山と化しているが……僅かに残された太い石造りの柱や、その意匠からは古代の神殿跡地のようにも見えた。


(……遺跡?そういえば……『聖域の森』をはじめとして、王都周辺地域の遺跡群の多くは神殿の管理下にあるって聞いたことがあるわ)


 モーゼスは、エル=ノイア神殿の大神官補佐である。

 ならば、彼は遺跡の管理者としてここに用事があったのだろうか……それがどのようなものかは分からなかったが、レジーナはそんなふうに予想した。


 だが、モーゼスは特に何をするでもなくその場に立ち尽くす。

 岩陰に隠れて様子を見ているレジーナの目には、誰かを待っているようにも見えた。


 そして暫くしてから、その見立ては正しいことが証明される。

 何者かが遺跡の方からやってきたのだ。


 レジーナが隠れている場所からは見えにくいが、どうやら数名の男たちのようだ。

 彼らがモーゼスの姿に驚き、息を呑むような気配が伝わってきた。



「!!……貴様、なぜこんなところに!?」


「それは私のセリフですよ。なぜ、エルネア王国を追放された貴方がこんなところにいるのです?義父(ちち)上……いえ、前大神官ミゲル(・・・・・・・)殿」


 そう言いながらモーゼスは外套を脱ぎ去り、腰に佩いていた剣を抜き放った。

 それに伴いミゲル配下の護衛と思しき男たちも抜剣し、不穏な空気が漂い始めた。




(前大神官……!!?な、なぜ!?…………ど、どうしたら)


 全く想定していなかった事態にレジーナは混乱し、自分はいったいどうするべきか直ぐに判断が下せない。

 こんなことなら誰かに声をかけていれば……と、後悔するももはや後の祭りである。


 今からでも街に戻って誰かを呼んで来るべきか……とも彼女は思ったが、時間がかかり過ぎる。

 比較的近場にバルドの屋敷があるものの、そんな余裕があるものか……



 レジーナの焦る気持ちとは裏腹に、モーゼスとミゲルの会話は進む。




 エステルやアルド、ディセフたちが与り知らぬところで……事態は別の局面を迎えるのであった。




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