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竜人/情報提供者


 異形の者から不可視の波動が放たれる。

 それは真の強者のみが持ち得るもの。

 力なき者は、それを浴びただけで恐れ慄くほど。


 白仮面の手練れの男……人間だったはずの彼の姿は、全く別のものに変じていた。

 身体の大きさこそそれ程変わってないが……

 その相貌は竜種のように。

 頭には二本の長い角が生え、口の中には無数の鋭い牙。

 同様に、硬質の鱗がびっしりと体表を覆い尽くし、更には長く太い尻尾まで生えている。

 一言でそれを表すなら……『竜人』とでも言うべきか。



 あまりにも非現実的な光景に、誰もが立ち尽くしていた。


 ……いや、エステルやクレイ、アルドは、最初こそ人間が異形に成り果てた事に驚いたものの、今は冷静さを取り戻して『竜人』と対峙する。



「……エステル、どうだ?」


 クレイが短く問う。

 どれほどの強さを持っているのか、エステル評を確認するためだ。


「……『強い』よ。でも、人間じゃないから底が読めない」


 先程までのどこか余裕がある態度とは異なり、厳しい表情で彼女は答えた。

 それを聞いたクレイとアルドは、更に気を引き締めた。

 彼女が『強い』と評する……それも、未知数と言うほどの相手なのだから当然だろう。



「……稽古なら一対一で手合わせしたいところなんだけど」


「そうも言ってられんだろ。遊びじゃないんだから」


「分かってるよ。これは『極秘任務』なんだからね!」


 正々堂々を好むエステルではあるが、流石に優先順位を取り違えたりはしない。

 今この場で一番大事なのは、攫われた少女たちと味方の被害を出さないこと。

 強さが未知数の敵に対してリスクを取る必要など何もない。



「ヤツとの戦いは俺たち3人に任せろ!!ギデオン!!お前は戦いが始まったら、巻き添えをくらう前に隙を見て少女たちを外に逃がせ!!」


「は、はっ!!」


 アルドがギデオンに指示を出すと、その叫びが引き金となったのか『竜人』は腰に佩いていた長剣を抜き放ち構えをとった。

 その姿は人間の剣士のように見えるが……果たして理性は残っているのだろうか?



 そして、激戦の幕が上がる……!





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 同刻。


 アルドの部隊とは別行動をとっていたディセフ率いる小隊は、『情報提供者』からもたらされた地図を頼りに王都内のとある場所にいた。


 神殿から程近い立地の、表向きはとある商会が所有する屋敷。

 しかし、『地図』上では地下遺跡への出入口が記されている場所だったことから急ぎ調査したところ……その商会は名義だけで、取引実績のない幽霊商会であることが判明したのである。


 当然ながら裏組織との関わりが強い……ともすれば組織の本拠地である可能性が高いと思われ、ディセフたちはそこを制圧しようとしていたのだが……



「ディセフ様、やはり誰もいません。ここはもぬけの殻です」


 屋敷内の捜索を行っていた部下の騎士がディセフに報告する。

 彼らは屋敷を囲むように配置されたあと、一斉に突入したのだが、結局は誰とも遭遇することがなかった。


 ただ、更なる報告によれば……組織に繋がるような直接的な証拠は見つかっていないが、つい最近まで人が暮らしていたような痕跡はあったとのこと。

 であるならば、ここが組織の拠点となっていたのは間違いないだろうとディセフは考える。



「……商会のセンは?」


「そちらも……登記内容は全て偽装らしく、有益な情報は何も……。代表者への連絡手段も不明です」


「はぁ〜……そこは担当部署がしっかり確認しない事にはなぁ……」


 重要な手続きにも関わらず、チェックが雑であったことを彼は嘆く。

 この作戦が終わったあと、文官の長であるフレイは彼から苦情を聞かされる事になるだろう。



(……オークションが想定より早く開催された事からすれば、こちらの動きが察知されていたと言う事か。考えたくはないが、騎士団に内通者がいるのか?……いや、それよりも神殿の方が怪しいか。こうなると、あの『情報提供者』……モーゼス殿も逆に怪しく見えるが……)


 (おとがい)に手を当てて考え込むディセフ。


 地下遺跡の地図を提供してくれたのは、大神官補佐のモーゼスだった。

 ディセフの聞き取り調査によれば、彼はかつての『事件』の際に前大神官ミゲルの部下として行動する傍ら、彼の悪事を告発する準備をしていたという。

 今回提供された『地図』は、その時にこっそり写したものらしい。

 それら証言の音声記録をフレイにも確認してもらったが、嘘は含まれていないとの事だった。



(嘘はつかずとも人を騙すことはできる。だが、地図自体は本物のようであるし……仮に彼が組織の者だとして、それをわざわざ我々に提供するメリットなど無いように思える。そうすると、やはり彼はシロということになのか……?)


 ディセフは考えてみるものの、今ある情報だけでは答えは出そうにない。

 ならば、直接本人に確認しよう……と、彼は部下に指示を出す。


「モーゼス殿の所在を確認してくれ。おそらく神殿に戻ってるはずだと思うのだが……もう一度話をしたい」


「はっ!!直ちに!!」


 部下の騎士はディセフの指示を受け、急ぎ神殿に向かった。



(今のところ、こっちは空振りに終わったが……陛下の部隊が幹部の誰かを押さえてくれる事に期待するか)




 それからしばらくして……

 神殿に向かった部下が戻ってきたのだが、モーゼスの行方は分からなかったという。



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