剣聖の娘、爆発する!
ついに始まってしまった闇オークション。
しかし、アルド率いる王国騎士団の精鋭たちも、少女の救出と裏組織壊滅のため既に突入の準備を終えている。
あとはアルドの合図があれば、一斉に事態は動き出すはずだ。
オークションは粛々と進行し、少女たちの何人かは既に買い手が決まっていた。
それも、騎士たちが動けば全てご破産である。
『では、そろそろ突入を……』
『あ、陛下、ちょっと待ってもらえますか?』
アルドがこれから号令をかけるため、エステルに念話を飛ばしたところ、何故か彼女はそれに待ったをかけた。
『どうした?』
『いえ、ちょっと会場の雰囲気が変わって……』
彼女がそう感じたのは、観客席の隅の方にいた白仮面の男が、おそらくは何らかの合図のため右手を上げた時から。
(あいつ……あの時の……やっぱり幹部っぽいね)
その人物の気配に、エステルは覚えがあった。
彼女が聖女であることを確認するため、監禁場所から連れ出した男だ。
その強さは『そこそこ』というエステル評を得るほどの、一般的には相当な手練れと思われる。
そして、その男の合図を受けた司会役は一つ頷いて……
「……さて、あまり引っ張っても皆様も痺れを切らしてしまうと思いますので、そろそろ目玉商品を出品いたしましょう。32番、前に出ろ」
(32番……って、私!?)
ここまで順番に少女たちを登場させていたのだが、ここにきて番号を飛ばしてエステルが出品される事に。
彼女は少し驚きつつも、言われた通りに前に進み出た。
これまで、オークションで競っている間でさえも会場内は不気味なほど静かだったが……一際目立つ美貌の少女の登場に、観客たちから感嘆のため息が漏れた。
「事前に告知しておりました通り、彼女は見ての通りの美貌だけでなく、なんと『聖女』の資質を持ってます。これほどの出物はなかなかございません。みなさま奮ってご入札ください」
司会役の男は淡々とした口調は変わらないものの、そんな煽り文句でバイヤーたちの購入意欲を刺激した。
前王バルドが娘に語った話によれば、『聖女』はエルネア王国でしか生まれることがないという。
そんな貴重な存在を奴隷として手に入れられるならば、どれだけ金を積んでも良いと思う者は多いはずだ。
それも、他国の者であれば尚のこと。
まさしくエステルは『目玉商品』であった。
(……どれくらいの値段が付くのか、ちょっとだけ興味あるかも。なんてったって、私ってば『せくすぃ〜おねぃさん』だからね!)
当の本人は、そんな呑気なことを思ってたりするのだが。
ただ、確かに彼女の美貌は類稀ではあるが、本人が言うようなセクシー路線ではないだろう。
クレイが聞けば「寝言は寝てから言え」と言うに違いない。
そうして彼女に対して入札が始まろうとしたのだが……
黒仮面のバイヤーの男が手を上げた。
「どうされましたか?」
「いや……その娘、見目は確かに抜きん出てはいるが、随分と身体つきが貧相に見える。いかに聖女と言えど、高い買い物になるなら中身を確認したい」
「なるほど、かしこまりました。……では32番、服を脱いで裸になれ」
それを聞いたエステルの表情がストン……と、抜け落ちた。
僅かな間の沈黙……しかしそれは火山が噴火する前の予兆のようなもの。
大地が鳴動するかのように、少しずつ闘気が漏れ出し始め……
そして次の瞬間……!!
(……ブチ殺スっ!!)
「ひぃっ!?」
これまで溜に溜め込んでいたエステルの闘気が爆発し、それを至近でまともに浴びた司会役の男が恐怖のあまり思わずへたり込んだ。
そして……
『へ〜かっ!!あいつら私のこと『色気のかけらもないチンチクリンのお子様』って言いました!!確認するから服を脱いで裸になれって言いましたっ!!』
ブチ切れながらも、即座にアルドに念話するのを彼女は忘れてなかった。
……かなり被害妄想が著しいようではあるが。
そして仮面の男たちは、竜の逆鱗に触れればどうなるのか身を以て知る事になる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方、エステルの怒りの念話を受けたアルドと言えば、もちろん……
「彼女の麗しき玉体を拝もうとする輩など、全員両の目を抉ってやれっ!!」
……と、ブチ切れていた。
クレイやギデオン、周りの騎士たちはアルドのセリフにドン引きしながらも、一斉にオークション会場の中へと突入を開始するのだった。




