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オークション会場




 国王アルド自らが率いる部隊は聖域の森を奥へ奥へと進んでいく。

 特に腕のたつ騎士たちで構成された、およそ30名ほどの小隊である。


 そんな精鋭部隊に組み込まれたクレイだったが、彼はある懸念を抱いていた。



「……陛下」


「ん?どうした、クレイ?」


 クレイの呼びかけに、アルドは進軍のペースはそのままに聞き返す。

 そしてクレイは、自らの懸念を口にした。


「いえ、その……今更なんですが、俺やギデオンはまだ入団したばかりで……部隊行動の訓練も受けてないわけですが」


 それには隣で聞いていたギデオンも頷いている。

 至極当たり前の懸念だろう。


「あぁ、なるほど。まあそうだな……お前たちはあまり連携などは気にせず、遊撃で各個撃破を狙ってくれればいい。お前たちの腕なら足を引っ張ることもないだろうしな。……しかし、クレイは自警団所属だったのだろう?集団戦闘もある程度は慣れてるのではないか?」


 シモン村自警団に所属していたというクレイの経歴を思い出し、アルドは逆に聞き返した。



「まあそうなんですけど……魔物相手とは勝手が違うかな、と」


「ふむ……確かにそうかもしれんが、お前たちの働きには期待している。しっかり頼むぞ」


「「はっ!」」


 王に期待されていると言われれば、それに応えられるよう力を尽くすのみ。

 クレイとギデオンは改めて気を引き締める。




 やがてアルドの部隊は、比較的形が残っている廃墟の前までやってきた。

 大部分が地中に埋もれ、苔むし、森の木々の根っこに覆われているが、何箇所か中に入れる場所があるようだ。



「ここからエステルたちのところに……?」


「この地図が正確なものであるならな」


 『情報提供者』とやらから入手したという地下遺跡の地図の写しは、更にその写し(コピー)が作られ、各部隊長に渡されていた。

 そのうちの一つ確認しながら、アルドはクレイの呟きに応える。


 その地図には王都や周辺部の主要施設との位置関係も記されていて、記載に誤りがなければ彼らが目の前にしている廃墟……古代の劇場跡の中に入れるはずである。


「斥候隊は内部を把握するために先行しろ。奴等と鉢合わせしないように慎重にな。エステルの報告を待って判断をするので、他の者たちはそれまでは待機だ。突入時は何人か後詰で地上に残す。今のうちに人員選定しておけ」


「「「はっ!!」」」


 アルドの指示を受けた騎士たちは声を抑えつつ応答し、突入の準備を始めた。

 おそらくは大規模な戦闘が行われることが予想され、彼らの集中力は増し緊張感が高まっていく。



 こうして、人身売買組織壊滅作戦はいよいよ大詰めを迎えようとしていた。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 アルドたちが地上で突入の準備を始めたころ。

 エステルや少女たち、仮面の男たちの一行は……



 長らく歩いてきた地下通路から大扉を潜った先。

 正面にはもう一つの大扉と、左右に分かれた道がある。

 仮面の男たちは少女たちを左側の道に誘導した。

 ゆるやかに弧を描く通路の様子からすると、円形の敷地を一周して元の場所に戻ってくるような作りになってるのだろうか。



(これは……結構大きな円だね。たくさん人が入れそうな)


 通路のカーブの度合いから大体の大きさを予測するエステル。

 もちろんアルドに念話で逐一報告することも忘れない。


 通路の所々には、円の中心に向かって幾つかの扉があったが、仮面の男たちはそれには目もくれずにどんどん進んでいく。

 そしてエステルの感覚的にはちょうど円の半周ほど、入口と反対側あたりまで来た。

 そこにはやはり円の中心側に扉があり、一行はその中へと入っていった。



 果たして、エステルが予想した通り……そこには円形の広い空間が広がっていた。


(これが……へ〜かが言っていた古代の劇場跡地?)


 エステルは念話でアルドから事前に、そこが目的地となるであろう事を聞いていた。

 そして今目の前に広がる風景は、その情報とも一致しているようだ。

 エステルたちが今入ってきた扉側が舞台となっていて、その向こう側に石段状の観客席が広がっている。


 観客席には既に多くの者達が座っていた。

 オークションの顧客や、組織の者たちだろうか。

 彼らは皆、仮面を被っている。

 エステルたちを連れてきた者たちと同じ白い仮面の者が数名、その他……数十人ほどの者たちは黒い仮面を被っていた。


(……たぶん、黒仮面の人がお客さんって事かな?まぁどっちにしろ、全員捕まえるのは変わらないね)


 人身売買など売る方も買う方も同罪だと、エステルは思った。

 実際、量刑に違いはあるかもしれないが、どちらも重罪である事に変わりはない。



 そして舞台の上に登場した少女たちに、一斉に値踏みするような視線が向けられる。

 それは『人』に向けるものではなく、まさしく『商品』を見る目。

 あるいは、欲にまみれた下卑た視線。


 そのようなものが自分に向けられるのは、少女たちにとって耐え難いものだろう。

 そして彼女たちの首に、番号札のようなものがかけられた。

 いよいよ恐怖と絶望が頂点に達し、少女たちはガクガクと震え始める。



(みんな、もう少しの辛抱だよ……!絶対、みんな助けるから!!)



 エステルは心の中で少女たちを激励しながら、闘志を燃やし始める。

 静かに……しかし熱く燃え盛る炎のような闘気を身体の中に無理やり抑え込みながら、それを爆発させる時を待つのだった。



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