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急転直下



 ジスタルとエドナが王都に到着し、レジーナに過去の話を聞かせていたころ。

 神殿の地下で囚われの身となっているエステルは、相変わらず暇を持て余していた。



「う〜、ひま〜……なんか暇すぎて何ヶ月も経った感じがする〜」


 それは全くもって彼女の気のせいである。

 作戦を開始してからまだ数日も経ってないのだから。



 ともかく。

 彼女はその場でできる自己鍛錬くらいしかやることがなく、少しずつ鬱憤が溜まってきていた。

 時折アルドと会話する事で気が紛れるのが唯一の救いか。



 だが。

 一気に事態が動き出す……その時が近いことを、彼女はまだ知らなかった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 エステルの両親が王都に来ているらしい事を知ったアルドは、どうやってエステルの後宮入りと潜入捜査のことを説明しようか……と、執務室で頭を悩ませていた。

 特に後宮入りに関しては、かつての『事件』の事もあって良い感情は持たれないと思われる。

 最終的にはエステルとの仲を認めてもらいたい彼としては、両親の心象というのは非常に重要だろう。

 せめて今回の事件を解決して、エステルが自分の側にいれば説明もしやすかったのだが……と、彼はタイミングの悪さを嘆きたくもなる。



 そんなふうに彼が頭を抱えていると、執務室の扉がノックされた。



「入れ」


「失礼します」


 やって来たのはディセフだった。

 捜査協力のため神殿に赴いていたはずの彼がここに来たということは……



「何か捜査に進展があったのか?」


「はい、実は…………」


 まるで誰かに聞かれるのを警戒するように、ディセフは声を落として報告する。



「……ふむ……ほう…………なに!?……それは確かなのか?」


「はい。ここに来る前に証言記録をフレイに聞かせました。『嘘は無い』と」


「そうか、でかしたぞ!よし、その情報をもとに作戦を練り直すぞ。ディセフ、今から騎士団員を呼集して……」


 ディセフがもたらした情報にアルドは歓喜し、より具体的な作戦を立てるために騎士団重鎮たちの招集を命じようとした。

 しかしその言葉は途中で止まる。


 なぜなら、ちょうどそのタイミングでエステルからの『念話』が届いたからだ。

 その声はこれまでののんびりしたものと異なり、緊迫したものだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 特に動きもなく、退屈を通り越して僅かに苛立ちさえ覚え始めていたエステル。

 ……彼女の辞書にある『忍耐』という文字は、やや掠れ気味である。



 しかし、そんな彼女にとっての朗報……という訳では無いが、少なくとも退屈な時間は突如として終わりを告げこととなった。


 攫われた少女たちが監禁されている大部屋に、新たな来訪者たち(・・)が現れたのである。

 彼らは、エステルが個別に呼び出された部屋で相対した者たちと同じように、やはり全員が白い仮面を被っていた。



 異様な集団の登場に少女たちは恐怖を覚え、緊張で身体が強張る。

 普段は緊張感の欠片もないエステルでさえも、流石に真剣な表情になって身構えた。


 そして、その一団の中の一人が告げる。



「これからお前たちをオークション会場に連れていく。お前たちは大事な商品ではあるが、少しでも抵抗するようなら……あとは分かるな?」


 抑揚のない淡々とした言葉は、むしろ少女たちの恐怖感を煽るものだ。

 もちろん、どのような目にあわされるのかは容易に想像がつくだろう。


 エステルが来てから少し和んでいた空気は一瞬のうちに再び悲壮感漂うものとなり、少女たちはいよいよ終わりの時がやって来たことを悟る。



「エステルちゃん……」


「大丈夫……大丈夫だよ」


 すがるようなクララの声に、エステルは安心させるように微笑みながら言う。


 そして、いよいよ事態が動き出したことを伝えるため、彼女はアルドに念話を飛ばすのだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





『へ〜か!!』


『エステル、どうした!?』


 突然のエステルからの念話にアルドは腰を浮かせかけながら応答する。

 これまでにない緊迫した声からすれば、何か起こったことは間違いないと彼は瞬時に悟る。



『場所を移動します!!捕らえられている全員がです!!オークション会場に連れてくって!!』


『なにっ!?もう動いたのか!?』


 ディセフからもたらされた情報をもとに、これから作戦を練り直そうとした矢先の出来事だ。

 事前情報から予想していたオークション開催の日よりもかなり早く起こった事態に、普段は冷静沈着なアルドも焦りの表情を見せる。


 しかしそれもほんの一瞬の事だ。

 かれは直ぐに落ち着き、ディセフに指示を出す。



「ディセフ、緊急招集だ。奴らが動いた」


「!!はっ!!」


 主の短い命令にディセフは余計な問答は差し挟まずに応答し、足早に執務室を出ていった。


 それからアルドもエステルとの念話を継続させて情報収集に努めながら、頭の中でこれからの行動方針を整理していく。



 こうして、人身売買組織壊滅作戦は新たな局面を迎えるのだった。



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