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【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ  作者: O.T.I
剣聖と聖女の帰還

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相見える



 ジスタルはその歩みを止めない。

 そして周りにいた騎士たちも……彼の言葉に心を揺さぶられ未だ迷いながらも、ジスタルの移動に合わせつつ囲みは解かない。

 そんな奇妙な集団が、後宮の方へと向かっていくのだ。




「……さっきの言葉は俺の本心には違いないですけど、こんなバカな真似をする奴は俺だけで十分ですよ」


 思い出したように、そしてまるで釘を刺すように彼は言う。

 実際のところ彼は他の誰かを巻き込む事は本意ではない。



「師匠が犠牲になるってんですか!?」


「師匠はやめろって、ディラック。……犠牲なんてそんな大層なもんじゃないさ。さっきは偉そうに騎士の矜持なんて語ったけどな……まあそれも嘘じゃないが、結局のところ俺も自分の感情を優先させただけの話だ」


 最初に王に進言したときも、彼は努めて冷静であった。

 しかし、エドナが後宮に連れてこられたかもしれないと聞いたとき……彼は無意識の内に行動していた。

 そして遅ればせながら、彼女が自分にとってどれほど大きな存在なのかを自覚したのだ。



 やがて彼ら奇妙な集団は後宮の手前までやって来た。


 警備の騎士たちが厳重に人の出入りに目を光らせていたが、いったい何事かと驚きをあらわにする。

 しかしそれも一瞬のことで、優秀な彼らは直ぐに自分たちの職務を思い出しジスタルの行く手を阻もうとする。


 だが、それよりも先に……



「これは何事か?……ジスタル、なぜお前がここにいる?」


 後宮の方から、その主であるバルド王がジスタルの前に現れた。

 咎めるような言葉だが、やはりそこには感情の色が見られない。

 あくまでも淡々と語りかけるのみ。


 そして王の登場により、一部の騎士たちは素早く王の護衛に付き、そうでない者は膝をついて頭を垂れ臣下の礼を取る。

 だが、ジスタルは膝をついたものの、視線は真っ直ぐに王に向ける。



「答えよ。なぜ俺の許しもなしに出てきたのだ。次は投獄だけでは済まされぬぞ」


 王はやはり淡々と……しかし有無を言わせぬような鋭い言葉をジスタルに浴びせる。


 ジスタルはそれに対して何事かを答えようとした。

 だが……もう口にしかけていたそれをいったん飲み込んで、暫し考える素振りを見せてから……その場の誰もが予想しなかった言葉を返す。



「陛下、最近身体を動かされてますか?」


「……は?」


 最近のバルドにしては非常に珍しいことに、一瞬何を言われたのか理解できなかった彼はキョトンとした表情で気の抜けた声を漏らした。

 周りにいた騎士たちも唖然としている。



「お前は何を言ってるんだ……」


「いえ、かつては最強の騎士としても名を馳せた陛下が……最近は何かとお忙しくて(・・・・・)めっきり腕が(なま)ってるんじゃないかと思いまして」


「ほぅ……」


 挑発のようにも聞こえるジスタルの言葉に、バルドはピクリと片方の眉を上げる。

 そしてジスタルはなおも続ける。



「たまには思い切り身体を動かして、何やら溜まったものを吐き出さないと。どうです?俺でよければお付き合いしますよ、手合わせ」


 腰に下げた剣の柄に手を当てながら、彼はそう言い放った。



 それを聞いたバルドは……ほんの少しだけ口角を上げた。

 それは笑みを浮かべるというほどではない。

 しかし凍りついたはずの彼の心が、僅かにでも動いたということ。

 剣聖の言葉は確かに王の琴線に触れたのだ。



「……よかろう。『剣聖』などと持て囃され自惚れているようだが、身の程を思い知らせてやろう」



 周囲の騎士たちからどよめきの声が上がる。

 全く予想だにしなかった展開に誰もがついていけない。


 否。

 一人だけ目を輝かせている者がいる。



「凄え……さすが師匠だぜ……!やっぱ男同士が分かり合うにはソレっきゃねえよな!」


 自称『剣聖の弟子』は、感動で打ち震えていた。

 しかし周りの先輩騎士たちは、『いや、展開おかしいだろ……』と内心で突っ込みを入れるのだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 王と剣聖が再び対峙したその時より、時は少しだけ遡る。





 とにかく無理矢理にでも姉を連れて後宮を脱出する。

 そう決意したエドナだったが……

 しかしその前に、自分たちのために動いた結果として投獄されてしまったジスタルも救い出さなければ……と、彼女は考えていた。


 そして、そう決めたからには即行動の彼女である。

 エドナは部屋を出てジスタルを探しに行こうとするのだが……その前に。



「荒事になるかもしれないし、この格好じゃあね……」


 今の彼女は後宮の寵姫に相応しいようなドレス姿である。

 基本的には人目を忍んで行動するつもりの彼女だが、もし見咎められたときにその格好では確かに立ち回りはしにくいだろう。


 そして彼女はクローゼットを物色し始める。



「う〜ん……どれもヒラヒラして動きにくそうね……」


 当然ながらそこにあるのは、今彼女が着ているような裾の長いドレスばかりだ。

 それでも多少はマシなものが無いかと掻き分けながら探してみると……


「あ、これなら……」


 そう言って彼女が手に取ったのは短衣(チュニック)とハーフパンツの組み合わせ。

 もちろん、いかにも高級品らしく手触りの良い上等な布地で、他のドレスにも劣らない上品なデザインのものだ。


 エドナは早速それに着替える。

 そして……

 


「よし!今から助けに行くからね!ジスタル!…………って、何だか外が騒がしいわね……?」


 気合を入れて意気込んだ彼女だったが、何やら遠くから伝わってくるようや騒がしい気配を感じて怪訝そうな表情をした。


 しかし直ぐに気を取り直す。

 何か騒動が起きているのなら丁度いい……と、彼女は部屋から出ていくのだった。



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