手続き
路地裏で助けた青年と少女に案内されて、エステルたちは騎士団詰め所に向かっていた。
なお、退治したゴロツキたちは、彼ら自身の服で縛り上げて放置している。
騎士団詰め所に着いたら騎士たちに引き取ってもらう予定だ。
そして……青年はアラン、少女はマリアと名乗った。
二人はやはり兄妹だという。
(……おそらくは偽名だろうが。まぁ、俺たちには関係ないか)
その立ち居振る舞いから、おそらくはお忍びの貴族子女と当たりをつけたクレイは思ったが、特にそれをわざわざ指摘するつもりは無い。
「お前たちは恋「違います」……そうか」
アランがエステルとクレイを恋人同士なのか?と聞こうとしたが、クレイは食い気味に否定した。
「こいつは幼馴染のくされ縁ってやつですよ。恋人なんて勘弁してください」
エステルからすれば甚だ失礼な男であるが……幸いにも彼女は、マリアと楽しそうにお喋りをしていて気が付かなかった。
「それにしても、エステルちゃんもクレイくんも、凄く強くてびっくりしたわ」
彼女はエステル達と同じ15歳ということで、口調もかなり親しげなものになっていた。
「いや〜、大した事ないよ〜。相手も弱すぎたし」
「確かに雑魚だったがな、お前たちが相当な手練なのはよく分かったぞ。あの実力なら、騎士登用試験も問題ないだろう」
「……あれ?私達、騎士登用試験を受けるなんて言いましたっけ?」
「ふ……自分で名乗ってたじゃないか。それに、この時期にお前たちのような実力ある若者が詰所に行く用事などそれくらいだろう。違ったか?」
「うわぁ、凄いよお兄さん!!合ってるよ!!」
ぴたりと言い当てられて、エステルは尊敬の眼差しでアランを見る。
(いや、誰でも分かるだろ……)
と、クレイは思ったが、水を差すような真似はしない。
彼はなんだかんだでエステルの笑顔が嫌いではないのだ。
(それにしてもこいつ……妙にエステルの事見てやがるな。まさか惚れたか?)
先程からマリアと楽しげに話すエステルのころころと表情が変わる横顔を、ずっと見ていることにクレイは気付いていた。
中身はアレでも見た目は美少女なので、そういうこともあるか……と彼は思う。
初対面では大雑把で面倒くさがりで適当な中身など分かりはしないだろうし……とも。
そして、彼自身はアランなどよりも……妹のマリアの方が気になっていた。
エステルに勝るとも劣らない美少女。
思春期の少年として彼女を意識するのは無理も無いことだろう。
だが、彼はマリアを貴族の娘はだと思ってるので、何がどうなるものでもない……と早々に気持ちを切り替える。
このあたり、彼は年の割には達観しているのだった。
「着いたぞ。ここが王国騎士団西街区派出所だ」
路地裏から表通りに出て暫く進むと、その建物はあった。
周辺は王都西側の商業地区で一際賑やかな場所である。
しかし近隣には歓楽街もあり、先程ゴロツキを退治したところのような治安の悪い場所も多々ある。
そんな場所だから、騎士たちの仕事はかなり多く、常時数十名から百名ほどの騎士・兵士が詰めている……
と言うようなことを、エステルたちはアランから聞いた。
建物は2階建て。
1階が事務所で2階は夜番のための宿泊場所になっている。
裏手にはそれほど広くないながらも、練兵場があるらしい。
時折、訓練の掛け声のようなものが表通りまで聞こえてくる。
入り口には兵士が立っていて、エステルたちが近づくと声をかけてきた。
「君たちは……何か騎士団に用事があるのかな……?」
軽鎧に槍を手にした中年男性だ。
兵士にしては温和な口調で話しやすい雰囲気である。
「この者たちは騎士登用試験受けたいらしい。手続きしてやってくれ」
「ああ、そういう事か……って!!?で、で、でん……」
アランを見た兵士は驚きをあらわにし、慌てて何事か言いかけるが……
エステルからは見えなかったが、アランが目配せをすると兵は落ち着きを取り戻した。
「ああ、すみません。わざわざ案内していただき、ありがとうございます」
「問題ない。それから……そこの路地裏でゴロツキたちが転がってるから回収を頼む。そいつらに俺とマリアが襲われそうになったんだが……この者たちが助けてくれた」
「なんと!!?早急に確保いたします!!」
「頼んだ。……では、俺たちはこれで失礼する。またな、エステル、クレイ。頑張れよ」
「頑張ってね、エステルちゃん、クレイくん!」
そう言って二人はエステルたちに別れを告げる。
「アランさん、マリアちゃん、案内してくれてありがとね〜!」
「ありがとうございました」
エステルたちも別れの挨拶をすると、兄妹は人混みの中へと消えていくのだった。
(……「またな」、か。さっきの兵士の態度から察するに……騎士団と繋がりがあるんだろうな。やはり貴族だったか。だとすれば、俺たちが騎士になれば、また合う機会がある……って事か)
先程の別れの言葉を思い出し、クレイは自分の目が間違っていなかった事を確信した。
「行ってしまわれたか……。よし、お前たち。登用試験を受けるという事だったな。手続きするから中に入ってくれ」
「はい!!よろしくお願いします!!」
こうして二人は無事に登用試験の手続きを行うことが出来た。
デニスから貰った推薦状を提出し、必要書類に記入したり、簡単な面談を行ったりした。
そして、試験本番は10日後となる。
アランは二人の実力なら問題ないと太鼓判を押してくれたが、果たして……




