第1話 デーモンの至高の選択
「あれはデーモンだ」
一人の老人は逃げ惑う人々の中、足を止め息をのんだ。
それは、砦の街の頑強さすら圧倒する小さな魔物。
人の皮を被った悪魔であり、悪魔の中の悪魔族なのである。
だがその見た目は人型ではあれど、人とは程遠く片手を振るっただけで石で作られた壁を、家を、すべてを破壊する。
アイツは街の中心に突然と現れた。
民家は焼かれ炎が上がりオレンジの光を照り返すアイツが仮に外壁の外からこの街を襲ってきたならば、ある程度は防げただろうか?
大型の魔物の襲撃に匹敵するほどの破壊力は対人のために造られた石壁など簡単に破壊するかもしれないし、戦争の準備のために集まりつつある兵士たちが装備を整えていたとしても何百人が犠牲になるのか想像もできない。
だが、この状況はただの襲撃ではない。
誰も武装をしていない、する暇もない突然起きた、爆発のような襲撃なのだ。
逃げ惑う街の人たちの逃げる方向はバラバラで逃げる場所もわからない。
「ヤツの狙いはなんじゃ?」
デーモンから離れればいいといっても、アイツがどこへ向かうのかもわからないのだからこの石壁の中はまさにカマド、鍋の下の業火と同じなのだ。
「あれは・・男と少女?」
足を引きづる男が少女の手を引いて逃げている。
年齢は30歳に近いだろうか?
だとするなら、連れているのは8歳くらいの父親の子供と言ったところだろう。
昔戦争に出た事のあるこの老人は、当時はまだ独身であったが、今は一人きりの人生を経て命の尊さを知っている年になった。
「逃げろ・・ 逃げてくれ・・頼む」
必死に親子に祈りをささげるが足取りが軽くなる様子はない。
そして 無差別に攻撃をしていたはずのデーモンが親子を見つけると大笑いをしながら空中浮遊をして親子の前に回り込んだ。
「がははは さて質問! お前たちのどちらか一方を助けてやる。
我にお前たちの心を見せて見よ」
見下ろした親子にデーモンはニヤリと笑みを浮かべる。
困惑の表情を浮かべる父親に状況の分かっていない娘か。
父親が何を考えているために顔が困惑をしているのか?
これから父親に何をされようとしているのかさへ、理解が出来ない無能な娘。
「がははは」
笑いが止まらない。何なら娘に教えてやろうか?
恐怖にひきつる顔を浮かべるだろうか?
いいや、それ以上に傑作の瞬間がやってくるかと思うと待ち遠しくて心臓の高鳴りを抑えなくてはいけなくなる。
父親はしゃがむと娘の耳元に口を近づけて語り掛ける。
「リコリスよ。お父さんとやくそく。。3つのやくそくをしてくれるかい?」
「パンパカパ~ン 3つのおやくそく。リコできるよ」
「そうか。そうか。では・・・だよ。そして 最後に・・お父さんはリコを愛せたことが一番幸せだったぞ。
デーモン! うああぁぁぁぁ」
父親は声を上げるとコブシを振りかぶってデーモンに突進をしていった。
体の大きさの差?
少しだけ浮いている浮遊の差?
人とは異質の肉体の差?
そんな逆境を乗り越えて人のコブシがデーモンを捕らえた
「娘を! リコリスを助けてくれ!!!!!」
「我はウソつきは嫌いじゃ。なぜ娘を差し出さぬ?
愛する者のために逃げることを諦めてお前は何の力を得たのじゃ?
おっと。。つい興奮をして、頭蓋骨を握りつぶしてしまったわい。
娘も逃げたか? まあよい。」
するとデーモンはふあふあと浮かび出し、次の人たちを見つけると笑いながら追い詰めていった。
老人は命拾いをした。
恐らく逃げたあの子も無事だろう。
なぜなら デーモンが狙って殺している人間たちは、共に助け合い愛と友情をもって逃げる人たちだからだ。
時間を掛けてまで質問を与えたところがその証拠だろう。
「まあ デーモンの思考は理解ができん じゃが 逃げ切れそうだわい」
こうして老人と少女は逃げ切ったのでした。
次の日になり朝日が昇り始めた頃には砦の街はおもちゃ箱をひっくり返したような有様になっていた。
昨晩はここで 昨日の様な尋問がなされていたと考えるとゾッとする者もいるだろう。
朝日が昇るのと主に街の人たちが中央へと集まりつつあった。
壊れた家を見ただけですべてを察したもの。
あの日あのときから涙が枯れない人。
運よく再会を果たすことが出来た人達。
全ての人生が街の広間に集まっていた。
数日が経ってこの街は一旦放棄をすることになった。
復旧をするよりも移民となって各町々を旅したほうが生活のすべを見つけやすい。
実力のあるものならば王都まで行って今よりもいい暮らしを見つけることのできる者もいるだろうし、そうでなくても街を点々と移動している間に自分たちが暮らしやすいと思う場所があって
一人、また一人と定住をしていくことになるだろう。
ガレキの中から大きな馬車が引きづり出された。
大きいといっても砦の街の人たちが全員乗るには何十台も必要になるのだろうが、ここに集まった人たちならこの馬車二台に全員を乗せることが出来そうだった。
馬車には老若男女から小さな子たちまで様々だ。
あのとき父親に助けてもらった子はどうなっているだろう?
馬車の荷台の席に30歳ぐらいの女性と二人で乗っていた。
一人じゃなかった。
確か死ぬ間際にお父さんと三つの約束をしたけれど、それが少女の人生を彩りのあるものに変えてくれることを祈らずにはいられない。
馬車が出発をすると 二人は疲れ切ったように眠ってしまった。
・・・・・
「おはようございます。おはようございます」
「チャッピー ストップ! うあぁ~ 眠い。朝の状況教えて」
部屋の片隅にランプのような形の精霊石が白や緑色に光る。
淡い色で落ち着いた光なのだが、照明と言う機能よりも光るときには音声を発しているのでどうやら通信機の類のようだ。
そして俺の住んでいる家を管理してくれている便利な石だ。
「ギルドマスターのクレマス様よりメッセージでえす。
支度が終わったら速やかにギルドの前に集まる様に!
続いてランク報告:あなたの道具屋レベルA 95点。王宮への納品資格を満たすランクです」
「ああ チャッピー 今日の占い」
「今日の占いは いいことをすればいいことが帰って来る日になるでしょう」
早く仕度をしたほうがいいかな?
親友の錬金術師のリードの野郎にだけは後れを取りたくないところだ。
まあ 今日のアイツは何人で来るのかは知らないがまた 兄に・・いいや ギルマスのクレマスに怒られるといいさ。




