錯綜する良心
(内) (外)
凛 椎乃 生存
桜庭 ディース 生存
壱夏 ディース 生存
ディース 日方 生存
喜平 澪雨 生存
柊木 ディース 生存
以降は死亡者もなく、二回戦終了の条件を満たし、終了した。
「うう…………あああぁぁあ…………! サクモ…………」
「ユウシン君…………大丈夫だよ。まだ、君は生きてるじゃないか。彼が死んだなら、せめて君が生き残らないと」
「日方……だいじょぶ?」
「…………男子が泣かないでよ」
高井や鏑木は俺と同じ様に友達を失っているから掛ける言葉もなくただ見つめてくれている。諸悪の根源である喜平がこの部屋に居なかったのは不幸中の幸いというか何というか。誰が言い出した訳でもないが、これ以上死体を見るのはごめんだという認識が広がり、残りは波乱もなく無事に終了した。
「三回戦…………どうなるかな」
「ど、どうにもなってほしくないよな……む、向こうはどう思ってるんだろう」
「それだけどさあ。私、この部屋の人だけ生き残ればそれでいい気がしてきたのよね……」
桜庭が震えた声を響かせる。三回戦は主催者曰く合流するとの事だが、どの様に合流するかはさておき、合流すればこんな話し合いも出来ない。団結力を生かすのは今しかないのだ。
「も、もし外に出ても夜でしょ。バレない様にするには……秘密を抱えるしかない訳で」
「ま、待てよ。澪雨が居るんだぞ。俺達だけ生き残ってもバレるって!」
「アイツ偽物だろ。本物の澪雨が参加する訳ない!」
「どっちでもいいわよ、どうするの? 私は……自分が死ななきゃ、それでいいんだけど」
全員生存の夢は随分前に絶たれている。後は何人生き残らせるか、誰を殺すかという思考に移るのは無理もない。俺でさえ、今は喜平を殺したくて仕方ない。死んでしまった者は仕方ないから残る全員で生きていこうという考えがどんなに甘かったかを理解する。
「………………ッ」
「どうかしたの?」
「目が。ちょっと……不味いかも」
俺の左目は理解不能な生物を通して視界を手に入れている。こいつは腹が減るようで、早く何か食べないと宿主である俺の身体を食い荒らすそうだ。その真偽など確認したくもない。人間は脆いのだ。刃物で多少皮膚を切っただけでも死ぬほど痛いのに、勝手に内臓を食われるなんてどんな想像を絶する痛みがあるか。
ディースは事情を理解したようだが、しかしここには食べ物がない。デスゲーム以上にどうする事も出来ない問題だ。俺達に出来るのは可能な限り早く終わらせる事だけ。
「…………もし痛みが耐えられなくなるくらいだったら僕に言ってくれ。その時は助けられると思う」
「今じゃ駄目なのか?」
「加減が分からないからさ。今その手段を使うと多分、君を殺してしまう」
―――?
空腹を解決する手段で結果的に殺害が発生とはどういう意味だろうか。不審者といいディースといい変わった事を言う人間ばかりだ。
「…………方針だけど。俺も。全員赤を選べとは―――言わないよ。それでずっと裏切られてたらキリがない。さっきのディースの提案を続けた方が良い。まず俺がディースの条件を解決させたら、後はこの人に赤を選んでもらえばいい。向こうは……知らない。誘われても行かない方が良い。外側につかれた時点で殺される危険性がある。特に喜平には注意してくれ」
平常点が満点であるだけで、特に理由もなくリーダーのような振る舞いを求められる。サクモが居れば少しは補佐してくれたかもしれないが、彼はもういない。確かにアイツも人を殺したが、だからってこんな事は…………よりにもよって、何故喜平が。
『三回戦を始める為に、ステージを移動します。大きな揺れに備えてください』
ガコンッ。
控室全体が大きく揺れて、重力が床に向けて強まっていく。似たような感覚は日常生活で誰でも味わった事があるだろう。エレベーターだ。扉がスムーズに繋がっていて気づかなかったがここはエレベーターの箱の中だったらしい。初動の揺れで壁に設置されていた剥製が一斉に離れて、床に転げ落ちる。
「…………げっ! ひ、ひいいいい!」
「どうしたの!?」
「ちょ、ま―――いやいやいやいや!」
高井が剥製をそこら中に蹴っ飛ばしながら部屋の隅まで後退する。俺の方に転がってきた鹿の剥製を何となく手に取ってみると、剥製とは思えない黒い断面が見えた。
「…………え」
「あー…………この剥製、剥製っぽい被り物だね」
ディースが鹿の剥製を手に取って、無造作に表の皮を剥ぎ取る。
「げっ……!」
「…………もう。もうもうもうもうもうもうもう。何なのよおおおおお!」
それは、人の顔。悍ましい物を見たかの様な顔もあれば、サクモみたいに歪んだ顔もある。顔の表面を賽の目に切られた顔もあれば、顔全体に穴が開いた顔もある。俺達はこの夥しい数の生首に囲まれながらデスゲームをしていたのだ。あまり考えたくないし外れていたならそれでいいが。もしかしてこの生首はデスゲームにおける死人の……。
「…………僕はどういう反応をすればいいのかなあ。どうしよう」
ディースだけは、ただ反応に困った様子で淡々と生首を奥に蹴飛ばしていた。
三回戦を行うステージには、中央に大きな長机と人数分のパイプ椅子があった。天井はそこまで高くないが無数の風船が遮っており、実際以上に窮屈に感じる。側面の壁には目的を感じられないパイプが不規則に通っていた。
「共用の控室って訳か。億にちゃんと同じ部屋があるね」
「…………ここで話した事は内緒だ。皆、いいな?」
全員の承諾を見てから先頭へ。なし崩し的にリーダーっぽくなってしまったので振る舞いも多少変えた。控え室に出て真っ先に真横を一瞥すると、不審者と目が合った。遅れて椎乃、凛、澪雨と続いてきて、全員と目が合う。
「………………フン。そうだな」
「日方っ!」
両陣営の思惑とは無関係に、澪雨が飛びついてきた。
「日方……私…………私のせいだ……みんなしんじゃう………………しんじゃうよおぉ」
「澪雨様のせいでは……」
「ごめん……ごめんなさい! 日方のお友達を……ぅ、ううううう」
「…………お前のせいじゃないし、勝手に責任を感じるなよ。お前を恨む筋合いが何処にあるんだ。木ノ比良の巫女だからって関係ない。俺は転校生だからな」
自由を求む勝ち気なお嬢様も、こんな状況には心が随分やられているらしい。椎乃と凛を見て、伝わるかどうかも分からないアイコンタクトを見せた。
――――――自分が生き残る事だけ考えろ。全員生存は無理だ。
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