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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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デス・フォール・ゲーム

「…………こりゃ、どういう事なんだ?」

「俺に聞くな。普通参加するって思うだろ」

 デスゲームの話題は学校で持ち切りだったが、俺達も紹介状がなければ手の出しようがなかった程だ。『口なしさん』と違って夜は何の関係もないからか教師達の動きも大した事じゃない。若者の流行りとして認識されているのかもしれない。

 もしかしてデスゲームの開催時間を昼にしたのは参加させやすくする為だろうか。それならこの主査者は随分とこの町に対する理解がある。昨日を除いて謎の攻撃に遭う被害者は忽然と姿を消した。あの攻撃が何だったのかは結局誰にも分からずじまいで、だから普通に一日を過ごしていたら、普通に一日が終わった。

 

 問題は、ここからだ。


 商店街前に集まったのは、俺、凛、サクモ、喜平、壱夏、椎乃、澪雨が居ないのは隠れているからだそうで、椎乃の言葉を信じるなら俺達を遠巻きに見ているらしい。

「……確かに俺も空振りだったけど、全員空振るなんて事あるか?」

「俺っちも誘ったけどな~なーんか断られたって言うか、間に合ってまーす的な感じ? セールス断るみたいな」

「やっぱ~怪しかったんじゃなーい? まー私はお金貰ってがっぽがっぽだけどー!」

「私も……バイトより短期的に稼げるし、やっぱ楽な方がいいわ。誰も死なないんでしょ。それって実質タダじゃないっ」

「なんて、頭空っぽな感じで参加してくれたら良かったんだっけ? でももう待てないでしょ。行かないと」

 三時とは言ったが学校教育の賜物か十分前に集合してしまった。誘って空振りだったのだからこれ以上待っても無駄なだけだ。澪雨の存在は周知されていないがこれで七名。とりあえず行ってみるしかない。満員にしないといけないというのは所詮推測に過ぎないのだから、もしかしたら七人でも大丈夫かもしれない。

 かも。かも。かも。

 仮定を絞るには実践あるのみだ。要は行かないと、全てが妄想なのだ。

「んじゃ、六名様ご案内か…………取り敢えず案内するけど、先に言っとくな。こんな場所にデスゲーム出来る様な場所はない」

「あん? 何があるんだ?」

「使われなくなったゴミ集積場だな」

 当然そんな場所に人通りはない。紹介状に書かれた地図を見ながら歩くのは事故がなくとも危ないので、先頭は凛に任せて俺は殿を務める。壱夏と話す為だ。

「デスゲーム。でたらめじゃなかったな」

「何? 嘘吐いたって言いたいんだ? 私知らなかっただけだし。良かったねって言えばいいの? 貴方、『輪切りねし』の事忘れたんだ」

「……何が忘れただよ。自分が助かりたくて俺に情報を教えたんだろうが」

 そしてあのページには教えられた人間が改めて目を付けられる事が書いてあった。三日後ではなく三日以内。ポスターとやらは未だに見た事がないが、その存在が確実であるならば今も俺は命の危機に晒されている事になる。

「すっかり追い詰められて、騙された。詐欺とかってあんな感じで判断力を奪うんだろうな」

「人聞きが悪い言い方はやめて。私は死にたくなかっただけ。何もかもうまく行かなかったんだから……少しくらい、いいでしょ」

「…………その考え方は、いつか酷い目に遭うぞ」

 気持ちは分かる。どん底の気分で誠実に生きようというのは、余程育ちが良いか悪意を知らないか、それかまだ心に余裕があるかの三択だ。絶望に堕ちた人間は何をした所で虚しさを覚えるばかり。その虚しさが自分でもどうにか出来ないかともがけば、大抵は碌な事をしない。

 少しくらいいい。相手は恵まれてるから。

 少しだけなので気にする方がおかしい。自分は恵まれてないから。

 被害者意識に由来する悪意は、俺にもある。問題は被害者意識には依存性があり、あくまで被害者を名乗るならそれだけで味方は生まれ、己自身も胸を張って擁護出来るという事だ。そうやって被害者意識に肩まで浸かった頃には事あるごとにそれを大義名分のように使って楽をしたがる。

 ただ少しばかり自分の気分を上げる為に嫌がらせをしていけば、同じ事を相手にもされる可能性が生まれる。そんな時の被害者意識には何の力もない。相手を逆撫でするだけだ。

「平常点が満点の貴方には分からない。私の苦労なんて」

「そうか……だから少しでも順位を上げる為に俺を殺そうとするんだな」

 壱夏が首だけを向けて表情を歪ませた。 

「………………恨まれたって、命には代えられないわ」

 何か言い返してやりたいが困った事に俺が正しかったという所だろう。壱夏には悪意を持って騙してきたヤバい奴だが、常識を持ち合わせていない訳ではない。というか根っからの常識知らずが今更生まれる方が考えにくい。騙しが悪い事と認識していなければ俺の糾弾だって相手からすれば何をそんなに怒っているのか訳が分からないだろう。


 ―――これ自体は、あんまり責められないよな。


 ターゲットをすり替えられた事は俺も怒りを覚えているが、命には代えられない論理には少しだけ共感してしまう。俺の場合は夜に外へ出る禁忌を同じ理由で破っている。破り続けている。どんなに絶対的な決まりでも、この呪いを放置すれば死ぬ。それが嫌だから続けている。呪いが続く限り。

「見えてきたけど、やっぱ会場感はゼロだな」

 サクモの独り言に促されて視線を上げると、遠くの方に縦長の廃墟が見えた。大きな塀に囲まれているせいかその下部は明らかになっていない。デスゲームの会場と呼ぶには貧相な気もするが、人通りは少ないのでもしやろうと思えば誰にもバレずに……出来るだろうか。塀が高いから見えないとか。

「ん。オッケー。ねえみんな、現状参加者は六名だけど、一人参加してくれるってさ。目的地はあそこだよね、もう向かってるそうよ」

「緒切は今も募集してたんか~根性すげえなー」

「バイト何か月分かって話。百万でしょ? 宝くじより確実に貰えるならやるっきゃなしっ」

「余計に犠牲者増やしたりする可能性は考えなかったのか? 例えば、総額が百万円で生存者の数に割り振られるとか」

「だとしても最大八人で十二万ちょっとくらいでしょ。それに、誰も死なないならそれをタダでもらえるのと一緒だし、やっぱりお得よね~」

「もっち私もおんなじノリ~。っぱ女子って買いたいモノが結構あるんよね~」

「おー! 凛、分かってるねー!」

 ギャル凛と椎乃は楽観的な性格がかみ合っているからか意気投合している。表向きでも親密になれるならそれに越した事はない。夜の話をしていてもごまかしが利くからだ。この手のノリには喜平も会いそうだが、珍しく彼は無言を貫いている。これも殿だから見える状況であり、サクモや凛は気付いていないのだろう。

「…………」

 人通りが、不自然にも、完全に消えてしまった。


 紹介状に書かれていた場所に到着したのだ。


 こう間近で見るとゴミ集積場は立派な物で、廃墟になったのは維持費のせいではないかという邪推がこみあげてくる。しかし廃墟の癖に異臭がするのはどういう訳だろう。サクモを先頭に中に入ると、そこには未だゴミが捨てられており、コンテナを割ったような箱に詰め込まれていた。

「…………一応、三時か。二分くらいオーバーはしたけど。デスゲームをやってる様子は影も形もないか……ちょっと待ってろ。建物の中見てくる」

「サクモ、一人で行くなよ。危ないぞ」

「誰も死なないのに危ないもクソもないと思うがな……そこまで言うならついてこいよ悠。男二人のが気軽だろ」

 澪雨を待つつもりだったが、一々断る理由もない。夜更かし同盟のラインがこれ以上明らかになるのは気まずすぎる。何もないなら単に二人で行くだけなので、やはり不安に思う事はない。廃墟の集積場は立ち入りを禁止する為かどこもかしこも閉まっており、一見立ち入る隙間がないように思える。しかし裏側に掘られた地下に続く階段と扉。ここだけは鍵が開いており、いつでも入って欲しいと言わんばかりだ。硝子越しには暗闇しか見えない。

「…………ここ、か?」

「足元のゴミ袋とか見るに、俺にはゴミをなんやかんやする場所にしか見えないがな」

「取り敢えず同時に入るか。どっちか先に入って何かあっても困るし」

 扉の大きさとしても問題はない。二人が半身になって入れば十分に入室は可能だ。ゆっくり扉を開けると、まず直線が続いていた。携帯のライトで道を多少照らした所で通路の底は見えない。壁に電気のスイッチでもあるかと思ったがそれもない。

「……誰も死なないのに、何で俺達はこんな慎重なんだ?」

「俺に聞くなって。なんだサクモ、実はお前も怖いのか?」

「…………まあ、少しはな」

 二人してライトを付けながら直線を進んでいく。扉はいざという時逃げられるように開けっ放しだ。雰囲気を重視して閉じておこうとか言っている場合ではない。集積場の広場で溜まってる彼らにはまだ実感がないかもしれないが、俺達は言いようのない不安に駆られている。


 ガチャン!


「「えっ」」


 二人して振り返ると、開けっ放しのドアを誰かが閉じた。それだけでなく、扉が閉じた瞬間に携帯のライトも自動的に落ちた。

「「は?」」

 これ以上進むのは危険だと判断した俺達は即座に踵を返したものの、光源のなくなった世界では方向感覚もままならない。直線を歩いてきたのだとしても、見えるのは暗闇ばかり。






 だから意識を失った事にも、最後まで気づかなかった。


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