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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
三蟲 天上天下在す予言

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死月の宴

「個別?」

「話を聞いてる感じですが、予言の内容は違うようです。考えてもみれば、分かると思います。話を聞いてる感じですと、それぞれ日方君に頼もうとする内容が違うでしょう。人生が一人一人違うなら、幸せに導く方法も違うという事でしょうか」

「よく信じたな?」

「バレないものなの?」

「予言とは言いますが……妙だと思いませんか? これに従えばきっと良い事があると。実際良い事はあるのでしょう。聞いた限りではアイスの棒の一等が当たった、落とし物探すのに協力したら高級メロン貰ったみたいな話は聞きますが、予言の瞬間は具体性がない以上、占いとやってる事は変わらないと思いませんか? さそり座の人は今日良い事があるでしょう―――と一体何が違うのでしょうね」

「具体性がないって事?」

「問題はそれ自体というより、強制力がない事です。二人共お気づきになられましたか? 予言を信じる方々は決して無理やり動いてる訳ではないと」

「それはまあ……日方のを見てたら」

「妙な力に操られてるとかだったら俺はそもそも家まで帰ってこられてないと思う。で、それが何だ?」

「何故従ってるかと言えばその方がご利益があるからですね。つまり予言はとりあえず従わせたい……従わせる事にこそ重きがあるのではと考えました。予言など言ってしまえばついで……従わせるための方便なのではないかと」

「合ってるかどうかは大事じゃない? あんまり適当言うのも」

「予言ってのがどういう原理なのかは分からないが、アンカリング効果的なのが働いてるんじゃないか? 良い事が起きる良い方向に転がる……具体性はなくても、とりあえず予言の言う通りにすれば何かしら起こったとしよう。そしたらこれは予言のお陰だって思うだろ? しかも見てる感じだと予言のハードルはかなり低い。するしないの敷居が低すぎるから、やるだけやってみようって奴は多い筈だ。で、アンカリング効果っていうのは知識がない俺達みたいな奴に小さじ一杯でも欺瞞を混ぜたらそのせいで判断が歪むってものなんだよ」

「詳しいんだね」

「……オンラインゲームで他プレイヤーにディールするゲームがあるんだけど、よく使ってたからな。特に情報が出回りきってない新武器とか素材とかはぼったくりやすい」

 件の効果は今も俺達に適用されているという話は余談が過ぎるのでしなくてもいいか。流石に話が逸れ過ぎてしまう。難しい話ではないが、この痕が時限爆弾と知ってしまったせいで判断が歪んだ結果、俺達はこの町に異変が起きる度にコイツのせいに違いないと思って行動している。で、これを改めて例に挙げた所で何か変わるのかと。どうせ情報はないのだから『ヒキヒメサマ』はどうにかするしかない。歪んだ判断が必ずしも間違っている訳ではないという事だ。

「とにかく、従ってくれさえすれば良くて、影響下にある人間同士で不和を産むのも不都合なのでしょう。デタラメなお告げばかり口にして、実際に行動もしましたが疑われませんでした」

「……考えてもみれば、そっか。日方を何とか従わせようと色んな人が寄ってたけど、予言に統一性があったら同じ要求を繰り返す筈だものね」

「だから予言の中身なんてどうでも良くて、とりあえず従わせたいのかなと。しかし澪雨様はともかく、日方君で同じ戦法は難しいでしょうね。狂ったように拒絶していましたから」

「いや、だって気持ち悪いし……」

 しかも今日判明した事が何もない。これは一日の戦果としては最悪だ。今日の会議はあまり期待出来ない。この二人に話す事があるとすれば、俺の身の回りの事か、それとも。

「……疑問なのですが、『口なしさん』と同じタイプなのでしょうか?」

「どういう事?」

「何となく……ですが。同じ様な存在とも思えなくてー。『口なしさん』は噂というか、こちらに勝ち目を与えるかのような情報が散っていましたが、『ヒキヒメサマ』とやらにはそれがありません。また、『口なしさん』は条件を満たさなかった者を殺害していましたが……………………」

「……七愛?」

「申し訳ございません。死体を思い出してしまって…………『ヒキヒメサマ』は現状予言に従っていない日方君を殺害していません」

「だけど未知の存在ってのは共通してる…………」

 澪雨の表情を窺う。相も変わらぬ制服姿と、汗ばんで紅潮した頬。特別不審な点は見当たらない。視線が気になったのか、彼女の方も俺の方に首を向けて、ムっと睨んできた。

「何?」

「………………なあ澪雨。ちょっと小耳に挟んだから聞いておきたいんだけど。木ノ比良家がこの町で一番偉いんだよな」

「なんか、嫌味な言い方。お爺様が町内会を仕切っているという意味だけど、それが偉いならそうなんじゃない?」

「この町ってさ。怪我とか事故が異様に少ないらしいじゃん。それって……お前のお陰、なのか?」

「…………澪雨様」

「何ていえばいいんだろう。難しいな。表向きはそうなってるね。だから町の皆様は私に良くして下さるの。でも実際は……分からないんだ」

「分からないなんて話があるか? 秘密はなしだぞ」

「本当に分からないの! お父様もお母様も私を巫女だって言ってくれるけど、特別な事は何もしていません! 勉強、習い事、規則正しい生活……それ以外、何も」

 久しぶりにお嬢様の余所行き敬語を聞いた気がするが、どうも本当に心当たりはないようだ。本人に聞くのが手っ取り早いかと思ったが、全くのはずれ。真相は闇の中……というより、木ノ比良家の中か。

「……習い事と言えば、明日は休日ですね。澪雨様にその暇は無いでしょうが」

「明日っていうか、今日ね。ごめんなさい、何の役にも立てなくて」

「お前はいつも通りの生活を送るのが一番怪しまれないんだから仕方ないな。それよりも凛、今日の朝からでも調査に出ないか?」

「―――朝からですか?」

「ああ。何にも分かってないのに夜歩くのはリスクが高すぎる。幸い、今日明日明後日くらいは家に居たくない。そういう自己都合も込みで誘ってる。お前が居れば動きやすそうだ」

「……ふふ。デートですね。構いませんよ。行きましょうか。『澪雨様』抜きで」

 ああ、これはスイッチが入ったに違いない。普段無愛想な凛がこれでもかというくらい悪戯っぽい笑顔で主人を見ている。わざわざ強調された事が気に入らないのか、澪雨は澪雨で、俺の方を睨んでいる。

 

 え、俺?



「………………デート」

「俺を睨むのかっ? いや、だって仕方ないだろ。お前は行けないし」

「ええ、そうですね。澪雨様はたいっへんお忙しいので、参加出来ません。いや~申し訳ございません。澪雨様が頑張っている内に私達は少しでも情報を集めてまいりますので」

「………………お休みします」

「おい待て早まるな! お前に不自然な行動されたら一番困るんだよ!」

「………………ぃきたぃ」

「面倒くさい?」

「何でもない! 行ってくれば! 何にも成果がなかったら覚悟しておく事ですね!」

 悪ノリも早々にやめてフォローに回ったつもりが怒らせてしまった。夜更かし同盟であるにも拘らず自分だけが仲間外れなのが気に食わないのだ。気持ちはわかるが、この町で一番偉いお嬢様に好き勝手な行動をされては本当に困る。

「―――今日はこの辺りで終了ですか?」

「ゲームする?」

「………………そう、だな。でも俺はちょっと疲れたから二人でやっててくれ。帰る時は適当でいいから」

 今はそんな気分になれない。楽しい事も楽しめない状態は最悪なので、リセットするに限る。包まっていた布団をそのまま全身に巻き付けて、視界を閉ざした。

「日方君。何時に迎えに上がればよろしいでしょうか」

「ん…………六時とか」

「承知しました。では今夜は早めに切り上げて、お迎えに上がりますね」

「日方、疲れてるの?」

「彼は――――――左――――――事で―――」














 夢だけが、俺を守ってくれる。

 偽りの温もりが、俺を支えてくれる。



 元々騒音には耐性があるものの、この意識は嘘の様に溶けて、微睡みの中へ。深い深い眠りの底へ。何もかもが楽しかった、あの頃へ。

「………………すみません。日方君。起きてください。眠り始めた所申し訳ございませんが、十秒だけでも」

「―――何だ?」




「外が騒がしいのです」




 その言葉を聞いたからには、眠気も覚めるという物だ。何故騒がしいかなどたった今寝ようとした人間には分からないが、カーテンも引かずにそのままにしておくのはリスクが高すぎる。慌てて閉めたものの、間に合ったかどうか。壁に耳を当てると、確かに騒がしい。楽器とか物音というより、大勢が蠢いている感じ。

「…………もしかして、絶賛最悪のシナリオを歩いてるのか。俺達は」

「最悪のシナリオ?」

「今確認するのは危ないから全部憶測だが……予言のせいで大勢が夜に外へ出たんだとしたら、いよいよこの町全体で何か対処してくるんじゃないかって事だよ。夜に外へ出ない決まりを遵守させる何かを」

「しかし決まりを唱えた側だけが特別という訳でもないでしょう。澪雨様の許可制という訳でもございません」

「そうね。守らせる側だけは破ってもいいとは思わない。そんな風にグニャグニャ解釈が揺れるんだったら誰も守らないし」

「まあそれは俺も思いつかないが、なんにせよ夜について口に出す事も憚られる状態になるかもな。ただもっと最悪なのは、外の騒がしさと予言が無関係だった場合か。その時は」

「その時は?」





「お手上げだ。もう何が何だかさっぱり分からん。対処しきれん」





 元々手いっぱいだったのでこれ以上おかしなものを増やさないで欲しいという切実な願いは届くだろうか。外が騒がしい手前、二人は気が変わって帰ろうにも帰れない。仕方なくという割には乗り気な様子で、改めてゲームを起動していた。

 俺は布団に包まりながら、眠りにつくまでずっとその様子を眺めていた―――。








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― 新着の感想 ―
[一言] いろいろ使って従わせるのは天玖村を思い出します。まあでも流石にあそこまで手が混んではいないようですが。
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