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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
蜈ュ陝イ縲?ホ」ホ釆」

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籠を揺らして童のように

 そう考えれば全て納得が行く。だからあの町だけが特別になる。現実に隣した非現実は何処かで固定して入り口を開いている訳じゃない。大体そんなスポットがあるんだったらもっと質感非世界は大々的に公表されている筈だ。ネエネの組織だけが把握している世界なら、それくらい気まぐれでないと説明がつかない。 

 だがあの町の、あの場所。澪雨は非世界にアクセス出来る。この仮説だと巫女の力こと『蟲毒』による恩恵の実態は非世界と現実を繋ぐ力……だと思うのだが。

「ネエネ。非世界の入り口が時たま出る理由ってさ。何なの? 位置が近いからとかそんな理由?」

「世界その物が近い理由は……まだ研究中だけど。有力な仮説は現実の位置に取って代わろうとしてる説だね。非世界の存在は敵対的って話をしたと思うけど、それが何故かって、襲う人は全員『現実』の存在だから。これは……私が直接聞いたから間違いない。コミュニケーション出来る奴限定だけど」

「なら一種の共生みたいな可能性もあるのかな。非世界の恩恵を与える代わりに夜を明け渡すみたいな……ムシカゴは夜発動してないんだったよね。澪雨、お前はいつからあれが出来るようになった?」

「え…………と。いつからっていうか。私、その話何も分からないんだよ。具体的なエピソードとかなくて、強いて言うと私が巫女になった時から……なんだけど」

 ここまで詰められて何かを隠し通せる程の人間とは思わない。信用とか信頼とかそれ以前に、澪雨は何も知らされないままでいる事に価値があった女性だ。巫女の何たるかを知らず、この町の歴史を知らず、夜を知らず、己が短命を知らず。愛情の有無は分からないが、客観的にはただ道具として使い潰されるところだった。

 だから隠す根性も、そんな度胸も育たない。俺の知る澪雨はそういう女性。

「……辛い時とか、いつも逃げてたの。でもそれだけだよ! 私は何も知らないから……疑ってる?」

「疑いたいけど、お前が何も知らないのは今までを見てると明らかだ。人を騙せるって感じもしないしな。でも…………知ってそうな奴は居る。お前の事を言ってるんだぞ―――凛」

 澪雨に隠し事は出来ないが、その護衛たる彼女はというとまた別の話だ。この件に限らず、彼女は隠し事ばかりする。澪雨からの信用を失いたくないと言いつつ、平然と情報を隠そうとする。それは澪雨と彼女が対等で居る為に必要な情報操作なのかもしれないが、対等で居たいなら隠し事はない方が良い筈だ。


 俺は、彼女がまだ何か隠していると思っている。


 聞かれたから、隠せそうになくなったら答えるというスタンスは、繰り返すとそれだけで疑念を持たせるのだ。そういう事情を抜きにしても、七愛はどうやら代々の巫女に仕えるらしいから、本人が何も知らないならその側近の方が知っていると考えるのは自然な流れだ。

「…………はあ。はい。そうですねー。厳密なタイミングは指定しかねますが、巫女としての役目を受け継いだ時から、ではないでしょうか。非世界とやらはいうなれば巫女が代々管理する土地の様な状態で、澪雨様は普段あの場所には行きませんから、把握していないのも当然だと思います」

「……このまま全員で話を詰めても良いが、それは脱出してからの方が良いだろうな。あの町の正体について分かるのは良い事だ、私も報告が出来るからな。ただ、ここを出ない事には始まらない。私には関係ないが……シンは、出られないでしょ?」

 そういえばその通りだ。ネエネは住人として認識されているから、非世界を用いた閉じ込めは意味をなさないが―――裏を返すとそれ以外には効果覿面だ。何せ俺達もネエネが居なければ非世界の知識なんて持ち合わせていないのだ。『質感非世界』の存在を知らされて、じゃあどうすればいいのかと言われても知らない。

 しかも相手はネエネを爪弾きにする念入りっぷりだ。非世界という圧倒的有利で以て殺そうとしている。

「ネエネ、どうしたら出られる?」





「世界の核を壊せば、非世界は維持できないと思うよ」






 ネエネは徐に部屋のドアを開けると、廊下を覗き込んだ。そこには俺達が通ってきた薄暗い暗闇ではなく、電気のついた明るい空間が広がっていた。

「あれ?」

「元の部屋……だよね?」

 気になって近づこうとした澪雨を、ネエネが押しのける。

「お前達が入った瞬間にあっち側に行く。成程な、私をどうしても入れたくないらしい」

「ネエネ、俺達を助けられない?」

「シンがどうしてもって言うなら、方法はあるよ。今から普通にあっち側に落ちて、虱潰しにこの世界への入り口を探せばいい。私に助けて欲しい?」

「そりゃ勿論―――」

「待って日方! それはリスクがあると思う!」

 澪雨が扉を開けると、やっぱり外には光を吸い込む薄暗い空間が広がっている。早速ネエネの発言が現れた形だ。当然外には出られない。ネエネが居る限りこの部屋は安全地帯だが、いつでも外に出られる安全地帯というよりは、ただ周りが地雷原なだけというか。

 しかしリスクがあるならやっぱりこの部屋に戻ればいいと思うのだが。

「何がだ?」

「日方のお姉さんのお陰で……この部屋安全なんでしょ? お姉さんが行っちゃったらここも直ぐに危険になっちゃうんじゃない?」

「……あー」

 その考えはなかった。

 ネエネは所謂楔だったか。干渉させようとすると俺達は身の危険を一身に背負うが、リスクを嫌うと助けを期待出来ない。『蟲』はそこまで便利じゃないらしいし、まさかこれをやった人物はここまで織り込み済みだったのか。

「…………ネエネ、核を見つけるのにどれくらい時間かかる?」

「非世界の大きさによるのと、何処が何処と繋がっているかまでは私も把握してないから、時間が掛かるかもしれない。一瞬で終わるなら終わるけどね。だからそこは運だ。シンの為だもん、出来るだけ早く探してみるけど……」

「私達で探した方がいいのでは? 安全地帯があるとないとでは心の余裕が違うと思います。ネエネさんが離れた瞬間に殺す……もしかしたらそれが狙いかもしれません」

「私もそれに賛成! いざとなったら逃げ込むが出来ないの、結構大変だと思う。日方はどう? 反対?」

「―――まだ決めかねる。核ってのは何? 本当になんか、丸っこい感じで置いてあるの?」

「核はこの非世界を構成してる人物。癌みたいな物だね。多くは巻き込まれた存在に擬態してて、気づかれない様にしてるの。逆に言うとこの状態でまだ生きてる人は全員怪しい。私にも見分ける術はないけど、流石に隣まで来たら幾らでも調べられるから、この場に居る人も大丈夫かな」


『我が憑巫も問題ないナ。我が偽りの器に戻る事はなイ。もし騙りが居ればすぐに分かる』


「………………」

 晴は―――どうしても外れないのか。

 心配だから迎えに行きたいと思っていたのにまさか殺す必要があるかもしれないなんて。いや、殺したとしてもそれが偽物ならいいが、見分ける術がないならイチかバチかになる。俺にあの純真な後輩が殺せるのか?

 もう散々、人を殺すのに嫌な思いをしているのに。

「一応、助けは呼んでおくよ。この程度の非世界だったら私じゃなくても大丈夫だと思う。危なくなったらこっちに戻ってきて。現実世界でも出来る事はしておくから」

「警察は呼んでくれないのですか?」

「呼んで役に立つなら呼ぶが、下手すればただ巻き込まれるか悪戯だと思われるか、だな。これも博打だからおすすめしない。自分達の手で解決しようと思うなら尊重する。もしも、どうしても見つからないという事なら、その時も戻って来い」

「どうしてですか?」





「非世界じゃなくて、このホテル自体から脱出する。巫女を殺せば影響力はそこで終わりだ。あの町に戻って、探すんだよ」


 次回は更新を早めます。

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