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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
蜈ュ陝イ縲?ホ」ホ釆」

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未確認惚惚アイドル   ~KOYURU


「こゆるううううううううううううううう!」


「こゆるちゃああん!」


「大好きだあああああああああああ!」

「ちょっと~ユーシン!」

 急遽作られた『波園こゆるを愛し隊』は行動力の化身だったが、足を引っ張る存在が俺にだけ居た。凛が終始乗り気じゃないのは把握していたが、まさか邪魔をするとは。俄然やる気な後輩三人に比べたら彼女のやる気なんて比べるまでもない。

「大好きだはないでしょ~? 人探すならもっといいワードがあるんじゃない?」

「恥ずかしがって出てくるかもしれないだろ!」

「国民的アイドルだったのに、愛の告白に今更恥ずかしがるかな~。こゆるちゃんが本当に好きな人からの告白だったら違うかもしれないけど~?」

「こゆるちゃんが俺の事好きだったって言う可能性は…………ないよな。俺も重度のファンには負けてるし」

「そ。現実に戻って来いな~。ユーシン。アンタを見てくれる子は意外と近くに居るかもよ~女の子の勘なめんな? ああん?」

「日方先輩! こゆるちゃんの目撃情報ありました!」

「よくやった晴! 偉いぞ~!」

 凛の説得は波園こゆる熱の前には無力だった。勢いで晴を―――仮にも十六歳の高校生を撫でてしまったが、純真無垢な後輩はそんな事気にも留めない。細かい事を気にしていたのは俺の方だったようだ。少し恥ずかしそうにしている様にも見えるが、今更引き返せない。

「よし、みんな行くぞ!」

「あーもうほんと……だっる」

 俺達が騒ぎ立てているせいかもしれないが、この近所に住むSNSユーザーもこゆる捜索に乗り出したらしい。まるで指名手配犯を追っているみたいだが、実際に追っているのはかつて一世を風靡したアイドル。ここまで来たからには探す義務というか、運命を感じている。


 ―――何かしてほしい訳じゃない。


 俺はただ、もう一度握手とか。話すとか。それくらいでいいからしたいだけだ。元カノの恐怖なんて一切合切忘れてしまった。今はもうなんでもいい。気にならない。

「ちょっとみんな! これどんどん離れてるよ~! いいの!?」

「言うて町中だからな! 大丈夫だ!」

「パンフレットも地図代わりになってるんで控えめに言って余裕っすね!」

「…………あーもう。何なのこゆるって……けるじゃん」

 目撃情報が出る度に近づいている様な気がする。気がしている。気がしていた。乗り気じゃなくとも同じチームである以上凛は最後までついてくる。大丈夫損はさせない。そんな気持ちで始めた捜索も、気づけば一時間。




 何の成果も得られない。




 果たして実感の全てが錯覚だった。

「見つから…………居ない……!」

「日方先輩、疲れたんですね。お水いかがですか?」

「ああ、有難う…………陸上部ってつえーなー!」

「有難うございます!」

 修学旅行の予定が頭からすっぽ抜けた訳ではないが、今から間に合わせようと思うと超高速で巡らないといけない。感傷に浸る事も楽しむ事も許されず、チェックポイントよろしく通過するだけに過ぎない代物となる。監視の目を考えると、わざとスキップすればバレるだろう。

 凛の言う通りに行動するつもりはあるが、監視の目があるのを一年ズは知らない。どうやってその気にさせるか……晴はまだまだ体力が有り余っている様だから、適当に理由を付ければついてきそうだ。田山君も、こゆるちゃん絡みの嘘を吐けば何とかなる。

 問題はここまでただ二人に無言で付き合っている女子こと園田だ。同じ『園』の字があるというだけでこゆるちゃんを推していた、言うなれば同性のファンだが、この無駄足骨折りの一時間に文句一つ言わず付き合ってきたなんて信じられない。多少不満を抱えていてもおかしくないだろう。だが俺には彼女の性格が分からないので、どうすれば順序通りに巡る気になるかという事を考えた場合、名案はてんで出てこない。

「ねえユーシン! ちょっとこっち来て~!」

「ああ? どうした?」

 不自然に後輩から距離を取って俺を呼びつける凛。これは何か相談があるのだろうと思い部用意に近づくと、不意打ち気味に首を脇で締められた。

「ぐ…………何を!」

「勝手な行動しないで。どうすんの、このままじゃ全員怪しまれるけど」

「いやほんと……なんていうか。すみませんでした」

「謝ってどうにかなるならもう許してる。謝罪はいいの、問題はどうやって今を切り抜けるか。監視役は多分、私達が来てない事を把握してる。このままじゃ絶対に間に合わない。何か策は考えてる?」

「えーと…………後輩三人を説得して全力ダッシュ?」

「そう。それは名案ね―――真っ先に貴方がダウンしそうだけど」

「…………」

 帰宅部と運動部とでは地力が違う。太っていないだけで体力その物は一般的だ。小中高とスポーツ一貫でやってきた後輩と俺とでは土台からして違う。威厳を見せようにも、全力疾走なんて恥も外聞もなさそうな行為はクソ雑魚先輩をさらけ出すだけだ。

 一応晴の為に補足しておくと全力疾走が格好悪い訳じゃない。ただ自分の不備を補う為に後輩を付き合わせてまでやる全力疾走はとてつもなくダサいというだけだ。

「すみません、凛さん。もう生意気言わないんで―――名案とか、ありませんでしょうか……?」

「急に物腰低くなった。まあ、無い事も無いよ。ちょっと無茶になるけど……じゃあ一つだけ約束。一直線にホテルまで帰る事。どうせ誰も疑わない。分かった?」

「……すまん。こゆるって聞いたらテンション上がった。マジでごめん」

「いいよ、気にしないで。それより後輩三人は頼んだよ……」

 凛に肩をポンと叩かれる。流石にそのやり取りは後輩達からも奇妙に映ったらしい。特に晴は真っ先に近づいてきて尋ねて来た。

「何を話してたんですか?」

「あーえっとな。アイツはちょっと別行動したいみたいだ。あーそれよりも、名案を思い付いたんだ! どうせ引率の先生は居ないし、こんだけグループ分けされてるんだから一々確認してるとも思わない。でな? 先輩から率先してこういう規則違反を持ち掛けるのもどうかと思うんだが、もう全部回った事にして帰らないか?」

「ええー!」

「や、晴。俺の事は嫌いになってくれてもいい。ただ平常点が下がると今後大変な事になるかもしれない。今後一切俺に関わらなくても良いから、今だけは言う事を聞いてくれると助かるなあって。勿論、口裏は合わせよう! 万が一疑われたらな?」

「ん~普通だったらお断りするんですけど……こうなった事に私の責任があるのも事実ですから……分かりましたっ。その代わり、あ、後で自由行動の時、会いましょうね!」

「おっけおっけ。任せとけ楽勝だよ」

 因みにこういうちょっとした悪事すら嫌がるのは晴だけで、残る二人は怒られたくないからと喜んで不正に手を染めるのだった。

 さて、どちらが正しいのだろう。













 


 











「うあー…………」

 夕方までには何とかホテルに帰る事が出来た。思いついたら即実行とばかりに走り出しても体力は解決しない。隣から晴に『日方先輩! 頑張りましょうね!』と励まされなければ危なかった。男のプライドも捨てたもんじゃない。少なくとも後輩の前ではいい恰好したくて、今度は見栄を張った。結果的に体力は全て消費して自由行動どころではなくなったが、その時間はまだたっぷりある。


 夕方と言っても夏だから、夜になるまでの時間は長いのだ。


 四時くらいだったらまだ昼と言い張る事も出来る。パンフレットによる厳密な自由時間はまだもう少しだけ先だ。シャワーを浴びて簡易的に疲れを取ったが、どうだこれは。筋肉痛で遊べない可能性とか、考慮しなければならないか?

「いや、俺には行かないといけない理由があるんだ」

 口で言って、分からせる。己の身体に刻み込む。姿は見えないが澪雨も参加していて、ちょっと前には凛も椎乃も気合を入れて買い物していた。目的が下劣でも何でもいい。修学旅行を楽しまないと怪しまれてしまうじゃないか。だからそのための理由として。見たくない男子が果たしているのだろうか。

 澪雨にだって言ったんだ。もう隠す必要なんてない。



 俺は。水着姿が見たいんだ!





 

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