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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
蜈ュ陝イ縲?ホ」ホ釆」

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波園こゆるに恋萌ゆる

 波園こゆるというアイドルを見間違える筈がない。ちょっとしたファンでしかなかった俺でさえ自信を持っているのだからこれが重度のファンだったらどうなっていたか。男性ファンの多くは彼女に本気で恋をして、また同性ファンには憧れの人か或いは娘の様な感覚を。そんなトップアイドルを間違える? 切腹待ったなしだ。

「ああもう……お前が居る今なら確認できるのに! 何処行ったんだよこゆるちゃん……」

「本当にファンだったんだ……元カノはいいの?」

「どうでもよくないけどそれどころじゃないだろう! こゆるちゃんだぞこゆるちゃん! つーかぶっちゃけるなら里々子だってファンだったわ。いやいやいや……いやいやいやいやいや」

 自分の目を疑いたくなってしまうのが人間というもの。皆に愛されたアイドルは不慮の事故か何かで死んでしまった筈だ。あり得ないと理論的には思う反面、この眼が見間違える筈がないとも思っている。自分にここまで自信を持っているのは割と珍しい事だ。

「凛。お前は見てないのか?」

「見てない……かな。顔を隠してたって言っても夏場にそんな不審者がいたら気づくと思うけど。他の人は見てないって?」

「俺だけがって事は無いと思うんだけどな…………いや、俺も声を掛けられなかったら多分気づいてないけど」

「じゃあ解決だね。悠心以外声を掛けられなかったから気付かなかった。気は済んだ?」

「おい、そんな簡単に終わらせていい問題じゃないだろ。こゆるちゃんが死んだって言われてるのに生きてるかもしれないんだぞ?」

「じゃあ貴方の気のせいだね。終わり」

「簡単に終わらせるなって! 生き返ってたらからくりが気になるだろ! どういう理由があったのかとかさあ!」

 ただ好きだったアイドルに会いたいからという不埒な理由だけじゃない。一度死んだ人間が生き返る、そんなバカみたいな話だが俺は随分前に体験しているではないか。椎乃は、惹姫様のお陰で生き返った。彼女が生きてる限りその事実は覆らない。

 もしも。もしも、惹姫様を介さずして誰かを生き返らせる方法があるなら俺はそっちにシフトしたい。何故ならこのままだと足元を見られ続けて、仮に今回の一件が丸く収まったとしても俺はこれからも何らかの手段で死体を用意しないといけなくなりそうだからだ。

「少しは関心を持ってくれよ、気にならないのか?」

「…………気にはなるけど、気に喰わないかな」

「はあ?」

「誰だって目移りしてたら良い気分はしないよ。それがアイドルなら猶更ね。まあでも、今度は注意しておこうかな。一つだけ聞いておきたいんだけど、元カノとアイドルと同時に遭遇したら私はどうすればいいの?」

「……どうもこうも多分里々子の方が盛り上がっちゃうから普通に逃げられる気がする。アイツ、こゆるちゃんになりきりたくて可愛くなったみたいな節があるからな」

 身長も胸の大きさも腰のくびれもお尻の小ささも、或いはそれ以前のオーラさえも何一つ似ていないが、憧れて、アイツなりに努力した結果だ。里々子は自分を世界で一番可愛いと信じて疑っていないだろうが、こゆるちゃんだけは例外に入っていると思う。

「ほら、そろそろ行こうよ。もうお土産は買ったんでしょ? こんなに探していないならもう暫定こゆるさんは居なくなってるよ。早い所回っちゃえば一足早くホテルに戻れるし、籠城さえしてれば会う事もないだろうから」

「……この町に居る間にもう一回くらい会えないかな……」

「どれだけ好きなんだか……」

 元カノに対する不安みたいな物が一瞬で無くなって、もうこゆるちゃんの事しか考えられないのは俺も相当舞い上がっているのだろう。やっぱり考えれば考える程本人な気がしている。願わくはもう一度だけでも顔が見られれば思い残す事は無いというか……こゆるちゃんが生きていても、それを世間に公表するつもりはない。死んだ事にして生きているのだから何か理由があるのだろう。俺は分別のあるファンだからそれくらいは弁える。

 ただどうしても、握手くらいは。

 凛に連れられてお店を後にする。里々子とは遭遇しなかったので結果的には助かったか。歩いていてふと気になったので信号待ちの最中、SNSにて『波園こゆる』と検索してみる。彼女の死後も人気は多少衰えたが根強いファンは未だに彼女のアカウントに恋文を送っている。人はこれを現実が見えていないと言うのだが、あまりにも突然の死だったので無理もないと俺は擁護したい。

「ながら見げんきーん。信号青だよ」

「あっちと違って信号早いな。都会よりは最高だ」

 まああの町はあの町で信号を無視した所でまず事故なんか起きないし、起きても軽傷か無傷か。そう考えるとあの町は普通にしてもズレている。久しぶりに外に出るまで俺も感覚が狂っていた。

「なあ凛、俺以外にも目撃者居るみたいだぞ。しかもこの町で。半年くらい前から確認されてる。一回会ったら二度と会えないみたいだから殆ど怪談話みたいな状態になってる」

「変なの。悠心が少しくらいのファンであれなら、過激なファンならすぐ正体確認するでしょ」

「いやー現実見えてないって言うけど死んだ事はみんな知ってるからさ。流石にそんな頭おかしい行動をするとは思えないんだよな……でもやっぱり考えれば考えるほど本人な気がしてさあ……」

「記憶って案外当てにならないもんだよ。ほら、喧嘩してるうちに何で喧嘩してたか忘れたとか。好きな人を好きになった理由が、今は思い出せないとか。記憶記憶って言うけど、まあ自分勝手に改ざんし放題な物だし。次見かけたら全然顔が違って見えるんじゃない?」

「うーん、そうかなあ…………」

 



「おい、今のってこゆるちゃんじゃね?」





 反対側の道から聞こえた言葉を、今の俺は見逃さなかった。だが俺一人だけ行くというのもグループ行動としてどうなのか。監視が居るなら俺の行動は怪しすぎる。帰って来た時に何を言われるやら。

 凛の顔色を窺うと、彼女はやれやれと首を振って進路を変えた。

「そんなに気になるなら、ハッキリさせようか。死人が生き返るなんて……到底信じられないけど。だから悠心が勝手にがっかりしても私は慰めたりしないからね」

「凛! 有難うっ!」

「死んでまでこんなに関心持たれるとか…………羨ましい、かな」








 















 

 波園こゆるの目撃情報は確かにそこら中に散らばっていた。こゆらーでなければ気づかない様な物ばかり、かくいう俺もこゆらーには間違いないのでそんじょそこらの野次馬とは根性が違う。度重なる情報共有の元、本来の目的を蔑ろにしてまで俺達は目撃情報通りの道筋を辿る。

「これ、逃げてないか?」

「逃げてるって言うか……大通りを避けてるから気付かれたくはないって感じだね。騒ぎになってきたらいよいよ本格的に逃げ出すかも」

 元カノから逃げていた筈がいつの間にか追う側に。そして今の所近づいてる感覚はしない。修学旅行が終わるまでには、何とかもう一度だけでも拝めれば俺はもうそれだけで満足で…………

「あ、日方せんぱーいッ!」

 十メートル程先の道からぴょんぴょん跳ねて手を振っているのは誰だろう……と言いたいが、俺を先輩と慕ってくれる人間は一人しか居ない。凛は即座にギャルモードに入った。俺は安心して近づいて、その正体を確認する。

「日方先輩ッ! 先輩ッッ! 会えましたね! 嬉しいです!」

「おおお~晴。こんな所で会うなんて思わなかったな……何してるんだこんな所で」

「こゆるちゃんですよこゆるちゃん! あ、すみません。日方先輩は波園こゆるってご存じ」

「ご存じだよ超ご存じ! え、お前も会ったのか!? 何処で!?」

「一時間くらい前の話ですよっ? 私が携帯落としてたみたいで……拾ってくれたんですッ。は、はぐれてたんですけど! そしたら入れ違いでみんなが戻ってきて、田山君が今のがこゆるちゃんじゃないかって……」

「田山君!? どうなんだマジなのか!?」

「いやーもう間違いないっすね! こゆるちゃんの事に関しちゃ俺の右に出る者はいないくらいっす! 付き合うならこゆるちゃん以外ありえないってくらいなんで!」

「おお、それはマジだな! よし、ここで会ったのも何かの縁だ! 一緒に探そう!」

「ユーシン~それはいいけどさー。大丈夫? 予定にない行動始めたら結構時間カツカツだよ?」

「こんな機会は二度とないんだ! 行くぞお前等ー!」


「「「おー!」」」
















「あはは~…………馬鹿みたい」

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― 新着の感想 ―
[一言] 悠心、これはちょっといただけないですね。
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