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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
蜈ュ陝イ縲?ホ」ホ釆」

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選択を断つ

「ふううううううう…………はあああああああ」

 目的地まではまだ遠い。ここはパーキングエリアの一つであり、ここを通り過ぎたとてまだ到着する訳じゃない。だが確実に、俺は町を出た。久しぶりに出られた。蟲毒の町には加護があるかもしれないが、それは決してバリアじゃない。バスが物理的に邪魔される事はないし、町を出たからと言ってありとあらゆる不運に見舞われる訳でもない。

 さて、バスが度々ここに立ち寄る理由だがトイレ休憩しかない。旅行する側にとってはそれだけだ。トイレが大丈夫なら暇でも潰していればいい。だから俺も少し外れた場所で存分に空気を吸っている。

「はあああああああ……」

 懐かしい空気だ。蟲毒は目に見えないから多分この違いは気持ちの問題。思えば俺は過去のトラウマを忘れる為に引っ越した。親に頭が上がらなくなってもいいからとにかく逃げたかった。かつて好きだった人の顔など微塵も思い出さないように。

 暫くの間は―――サクモや喜平と遊んでる間は、それも成功した。決定的に全てが変わったのは澪雨に脅されてからだ。今更どうこう言うつもりはない。アイツが誘ってくれたから得たものもたくさんある。夜更かし同盟という特別な関係は、あれがなければ築けなかった。椎乃ともっと親密になる事もなかったし、ネエネと再会する事も。

 夜に外へ出ただけ。それもたった一度。ただそれだけで今後全てが狂ってしまって。もうどうにもならない。夜に外へ出てみたいという好奇心は、いつしか命の危機を解決する為の手段へと変わってしまった。暑苦しい夜中を探検していた時が遠い昔の様だ。まだ一年も経っていないのに。いや、こんな状況が一年も続くのは困るが。

「………………」

 俺の周りでちらほら見えているのは別の学校か。こんな時期に修学旅行する学校が他にもあったとは驚きだ。だが他校の生徒に絡む物好きはいまい。俺がどんな奇行を取っても彼らは関わらない筈だ。深呼吸くらいは自由にさせて欲しい。


 ―――ん?


 携帯の音量をいつの間にかゼロにしていたので着信に気づくのには時間がかかった。サクモから着信が何度かかかっていた。


『もしもし』

『……もしもし。そっちはもう着いたか?』

『全然だわ。そっちは何してるんだ? 修学旅行は無理だから夏休み継続中?』

『あー。まあそんな感じだ。平常点が少ないだけでこんな損をするとは知らなかった。こんな事ならもっと真面目に生きるんだったな』

『お前でもやっぱり行きたいんだな。こういうのは』

『…………』


 ほんの軽口のつもりが、黙らせてしまった。


『サクモ?』

『ん?』

『黙るなよ。不安になるだろ』

『すまん。実は寝起きでな。ちょっとボーっとしてるんだ。邪魔して悪かったな。もう切る。お前は精々楽しんでこいよな』

『言われなくてもお土産話を沢山用意してやるよ。何してんのか知らないけど、戻ってくるまで体調崩すなよ』

『この町でそれを言うなよ』

『俺はいねえんだよ』

『そうか』

 

 やや強引に通話が切れる。トイレからの流れを見るにそろそろバスが出発するか。俺も行かないと。トイレに行っていた人間よりも誰よりも俺は遅れていた。車内から多くの視線を浴びて反射的に頭を下げてしまう。


「おい平常点満点!」

「おそーい!」

「一つ借りよね!」

「カラオケへたくそー」


「うるせー! 今カラオケ関係ないだろ!」

 

 椎乃を超えて、窓側へ。程なくバスがエリアを出発し、また長い道のりが始まる。

「遅かったわね」

「久しぶりに外に出たもんでな……カラオケで疲れたし、少し寝るわ。リクライニング使えないから寝づらいか。次のパーキングで起こしてくれ」

「はいはい。毛布でも貸してあげよっか? 枕代わりに」

「いいよ悪いから。はあ……声出すのって疲れるんだな」

  

























「は?」

 ここが夢の中というのは、特に証拠を提示されなくとも一瞬で理解出来た。これが俗にいう明晰夢という奴か。いやしかし、操作は出来ない。ただここが夢の世界なのは確かで、その舞台は離れたばかりの町である事か。


 ―――雨が降ってる。


 そう言えば、この町に来てからあまり雨に見舞われていない。全く降らない訳でもないが大して気にする程でもないというか、降ったとしてもまず風邪は引かないから警戒心がない。夢の中は対象外なのか、土砂降りの雨だ。俺はバス停の屋根に守られて、これから海にでも沈みそうな道路をじっと眺めている。

「やあやあやあ。日方悠心君。調子はどう?」

「ディース?」

 適当な調子で挨拶も程々に隣に座ったのは黒いスーツを着たディースだった。幾ら女性っぽい見た目と言ってもスーツを着ると格好良さに切り替わる。男装の麗人というか、男の俺から見ても惚れそうなくらいクールだ。

「何でスーツ?」

「夢だからその辺り気にしないで」

「喋るのかよ!」

「そりゃ、この夢に導いたのは僕だしねえ」

 俺が普通の暮らしをしていたなら夢の住人が戯言を言っているだけで終わるのだが、ディースは何やら特殊な立場にあるらしい。変にひねくれるよりは言葉通りをそのまま信じたい。この人はネエネの同僚なのだから。

「蟲毒の件はお疲れ様。最悪のシナリオだったが、取り返しはつくかもしれない。君は僕に色々聞きたい事があるかもしれないが、ここじゃ話せない。もったいぶってる訳じゃないよ、まだ許可が下りてないもんで、勝手な行動をしたら僕が殺されてしまうんだ」

「…………何処でなら話せるんだ?」

「僕の家」

 ディースは夢の中で青い傘を差すと、力任せに俺をバス停から引きずり出して、腕を組んだ。

「現実の方でも同じ場所だ。旅行から帰ってきたら、立ち寄ってくれ。こっちではまた違う話をしよう」

「現実の方でも……って。随分分析された夢だな。どういう能力だよ」




「死体から生前の視点を抽出する技術……って言っても分からないか。最先端技術だって思ってくれ。裏組織にオーバーテクノロジーは付き物だ。ロマンがあるだろ?」



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[一言] 最先端技術、、、。
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