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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
蜈ュ陝イ縲?ホ」ホ釆」

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代償の修学

 うちの学校は、修学旅行は秋に行われるのが普通とされている。それも毎学年というよりは三学年に一度きり。要するに二年生。三年生は将来の為に忙しく、一年生はまだ課題が多いと。まあそんな感じの理由で、修学旅行は貴重な機会と言える。

 妃季比良祭りを台無しにした影響か、夏休みも終わりに差し掛かった頃、学校ではなく町内会からのお達しで、急遽修学旅行が組まれる事になった。本来の予定が前倒しになったのではない。新規で生えてきたのだ。

 これには当然、クラスも大盛り上がり。SNSがいつになく活気に満ち溢れている。どうもあんな事があって緊張感に欠ける奴らだが、そもそもディースが取り残された原因は無関係な人間を速やかに家まで誘導していたのが原因だそうだ。何か大変な事があったのは分かっても、実感が伴わなければ真面目にはなれない。テレビの中で事件を見るようなものだ。

 ただし、この修学旅行はただの修学旅行じゃない。平常点が四〇〇点以下の人間は例外なく切られる。俺の知り合いで言うと……サクモなんかは、ギリギリ超えていない。壱夏なんて論外だ。俺は別に口利きなんてしていないし、仮にしていても四〇〇点に行くかどうかは別の話。

 先んじて修学旅行に行ける人数は非常に少なくなる影響からか、全学年合同という特殊な形式も見逃せない。




 何より見逃せないのは、この町の外に出てもいいという事だ。




 ここは別に牢獄なんかじゃない。社会人はその気になればいつでも出られるかもしれないが、夜に散々息苦しい思いをしてきた身では、合法的に出られるだけでも非常に有難い。久々に羽を伸ばそうじゃないか。この町の外の夜は、出ても死ぬ事はないし、妙な事も起きないし、暑苦しくもない。熱帯夜とはおさらばだ。


『ん。家の前で待ってるから早く出てきてよね』


 電話を切って、荷物を持ち上げる。時刻は朝五時。修学旅行の朝はとにかく早い。椎乃の家から出発したかったが、俺の家に取りに行きたい物があった。分かるだろう、持て余した一千万円だ。平常点満点の特権により荷物としてそのまま持っていけるだろう。

「悠心。お前、親の許可なしに行くつもりか?」

 階段を下りてそのまま玄関へ向かう最中、一足早く起きていた父親が俺を睨みつけて待っていた。

「行くな悠心。お前に話がある」

「こっちにはない。親の許可なんか要らないよ。俺は行けるんだ。平常点トップだから」

「少しは親の言う事を聞いたらどうだ? お前の願いを聞いてやった恩を忘れたのか?」 

「忘れてないよ。その事は今も有難く思ってる。それとこれとは話が別だ。何かにつけてその恩を持ち出されちゃ段々鬱陶しくなるよ。言いたい事があるなら今言えよ」



「お前、祭りの日は何処に行ってた?」


 

 デスゲームの後なんかはディース達の組織の方で誤魔化した(記憶をどうにかする薬を使ったのだろう)らしいが、祭りの日に起きた出来事は、どうあっても誤魔化せない。この町は蟲毒に守られ生きてきた。その蟲毒がある意味で終わりを告げた日だ。表向きには何も起きていないが、澪雨は巫女ではなくなった。

 そして俺が知る限りでは、それ以来目を覚まさない。

「俺達は家から出るなと言われていたが、お前は帰ってこなかった。友達の家に泊まってたのか? それなら友達の名前を教えろ。確認する」

「あの時は会場全体がおかしかっただろ。夕方なのに外は真っ暗だった。それで咎められる謂れはない。何人いたと思ってるんだ」

「だから何処に居たかと聞いてるんだ。外の状況くらい家に居ても分かる。お前が外に居たなら……町内会に突き出すつもりだ。お前と澪雨様は同級生だからな。関係性があるかもしれん」

「ない。クラスに聞いてみろよ。アイツは一人ぼっちだ」

「…………ほう」




「ならばそれは、何だ?」




 父親が駆け寄ってきて俺の左腕(良く分からないが生えてきた)を掴む。その指には、ムカデの指輪がはめ込まれており、それについて尋ねているのは明らかだった。

「それは木ノ比良家に伝わる秘宝だ。何故お前が持ってる?」

「………………」

「答えろ! 悠心! 昔からお前は駄目な奴だと思ってきたが、せめて正直であれ! お前のお姉ちゃんも今のお前を見たらどう思うだろうな!」

 昔の俺なら、その言葉がウィークポイントだった。ネエネとの比較はぐうの音も出ない正論であり、黙る事しか出来ない。だが今は違う。どういう状況であっても俺はネエネと再会したし、これまでの行動も知っている。

 親の語るネエネは、俺を叱るのに都合の良い人物という事くらい分かってしまう。

「―――アンタもお母さんもずっと俺を出来損ないたの駄目だの怒ってきたのは知ってるけどさ。じゃあ何で、ネエネを引き払ったの?」

「あ?」

「ネエネが知人から一時的に預かったのは知ってるよ。でもさ、一緒に暮らしてる時こうも言ってたよね。このままお姉ちゃんを家族として迎えるのも悪くないって。何でしなかったの?」

「…………そんな事は、お前に関係ない」

「関係ない? そんな事言うなら金輪際ネエネを比較になんか出すなよ! 俺を叱りたいからって一々名前を出されるだけでも不愉快なんだよ!」

「それが親に対する口の利き方か!」

 愛という名の拳を受け入れる。反応出来なかっただけだ。俺は喧嘩の素人だし、そこまで動体視力にも自信はない。

「俺達だってずっと思ってた事だ……お前なんかよりお姉ちゃんの方が子供だったらって。引っ越しに感謝してるなら、少しは親の為に心を入れ替えようと思わないのか?」

「答えに…………なってない。何でネエネを……そこまで大切だったなら、家族にすりゃよかったのに!」



「お姉ちゃんは…………自分から離れていったんだ。俺達にはどうしようもない。クソ」



 























 俺を引き止めるのは諦めてくれたらしい。

 家の前で椎乃がただならぬ様子でそわそわしていた。

「だ、大丈夫ユージン!? 明らかに殴られた痕があるけど」

「……気にするな。行こう」

「―――私、割り込めば良かったかしら。良く分からないの。人様の事情に首を突っ込むのもどうかなって思ってた」

「いや、正しい。バスに行こう」

 荷物の中で一番重いのが金だ。こんな大金を持ち運ぶなんて正気の沙汰とは思えない。もしくは収納されているケースが重いのか。椎乃の方は持ってきていないらしく、『将来に使うかも』との事。宵越しの金は持たない主義と俺が誤解されそうだ。

「―――腕さ、無くなったって聞いてたんだけど、大丈夫なの?」

「…………俺にも分からん」

「握って、いいかしら。アンタの左手……や、やらしい意味じゃないわよ! それは反省してるから……」

 無言で左手を差し出すと、彼女の手が割れ物でも触るみたいに撫でてきた。違和感もなければ、正常な感覚もある。左腕が無くなっていたのは嘘みたいだ。確認の為とは思えないが、彼女は手をぎゅっと握って、そのままバスまでの徒歩を再開する。

「……お、お姫様曰くなんだけど。『大事な身体だから大切にしろ』ってね!? 私がこうしたいとかじゃなくて! お姫様がアンタを心配してるだけっていうか……か、勘違いしないでよ!」

「……有難う、二人共。最近契約をガン無視してお祈りとかしてないけど、その辺り文句言われてないのか?」

「飢えをしのげたからいいんだって。私に似て聞き分けの良いお姫様で良かったわねっ」

「聞き分けが……良い……?」

「あん! 文句あるのか~?」

 他愛もない雑談を繰り返している内にバスが見えて来た。今回の修学旅行は全学年合同だが、流石にバスは学年別になる。澪雨も、乗っているといいが。






「お~ みんなーVIPのご到着だー!」

「よっす日方! 二日間よろしくなあ!」

「日方……ど、どう? 隣座っちゃう?」






 出迎えてくれたのは平常点に目が眩んだクラスメイトの面々。澪雨の姿は何処にも見えない。

  

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[一言] 毒親だぁ。
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