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4.真実

更新が遅くなりましたが、これで完結します。

 リンディは震える体を抱きしめながらソファの上で体を丸めた。瞳に溜まっていた涙が頬を伝ってソファへと落ちる。幾粒もの涙でソファの淡いピンクのラインが濃く滲んでいく。

 今まで点でしかなかったものが全て繋がり、リンディが抱いていた疑問へと答えをくれた。「うっ。」と嗚咽を漏らしながら、先ほどから頭の中で何度も繰り返されてしまうアレン、ミスタの声にリンディはさらに涙を溢れさせた。


-------------------------------------


 「ひどい状況にはならなかったのではないかと思いますが?」


 「どうしようもなかったのだ。・・・・大恩ある先代のカスティナ子爵夫人、リンディのお祖母様とリンディとの婚姻に関して約束していたからな。そうでなければ、このような状況を受け入れることはなかった。」


 「恩義があるのであれば致し方なかったのかもしれませんが、リンディ様に取り繕いながら接するのは、旦那様もそうですが、私共もだいぶ厳しくなってきております。」


-------------------------------------


 「お祖母様への義理立てだったのね・・・」ぽつりとリンディは独り言ちる。そして、自嘲気味に「ふふふ」と笑う。

 -そうよね。アレン様にしてみたら、私のような何も持たず、それどころか負債まであるような身分の低い家の娘との婚姻なんて、本当にひどい状況だわ。・・・皆に無理をさせていることにも気が付かず、私だけ幸せを感じていたなんて。きっと、毎日取り繕った生活を強いられて、つらかったわよね。


 温かい飲み物をもらおうと部屋を出たリンディは、階段を下りて厨房へと行こうとした。その時、階段より奥にあるアレンの執務室にまだ明かりが灯っていることに気が付いたのだ。リンディは、「まだ仕事をされるのであれば、温かい飲み物をお持ちしてもいいのかしら。」と、アレンに尋ねようと執務室へと近付いたのだった。そして、くだんの話を耳にしてしまったのだが、途中で居たたまれなくなり、逃げるように部屋へと戻っていた。


 皆の優しさには理由があり、そして、リンディは皆の重荷になっていたのだ。アレンのことを好きだと気付く前であれば、寂しさはあるものの、ルンダール辺境伯領にいられなくなったとしても、何とか一人で立つことができたかもしれない。だが、今のリンディは、好きだと思う気持ち、そして、その幸せを知ってしまった。手放したくないと固執してしまう前にここを立ち去らなければ、一人で立つことさえできないほど、心が壊れてしまうかもしれない。しかし、リンディには、この幸せの手放し方が分からなかった、もしかしたら、分かりたくなかっただけかもしれない。


 -掴んだと思った幸せを手放すためには、勇気がいるのね。でも、今ならまだ、身を切られるようにつらいけど、アレン様を含めたこの家の方々の憂いを取り払うことができるわ。

 そうよ、私に悲しむ資格なんてないわ。この憂いの加害者が私で、ルンダール辺境伯家の皆様は被害者なのだから。


 どうすれば、ルンダール辺境伯の皆に気を遣わせないように、負債や結婚の話を償うことができるのかと、リンディはソファで丸まったまま考え続けていた。ルンダール辺境伯領の冷たい夜の闇がそんなリンディを包んでいった。

 東の空が白み始めたのか、カーテン越しにほんのりと明るさが入る。ソファで丸まったまま夜を明かしたリンディは、これから自分が為すべきことを反芻すると、きゅっと唇を引き結んだ。そろりとソファから足を下ろし、ゆっくりと立ち上がり、冷え切った体を抱きしめながら、寝台へと戻る。

 いつものように朝の身支度を手伝いに来たエルマは、先ほどまで寝台で寝ていたとは思えないようなヒヤリとしたリンディの体に違和感を覚えたのだった。

 その日の朝食の席にアレンはいなかった。急遽、領地の視察に行くことになったとのことで、朝早くに出かけたようだ。昼過ぎには戻るとのことで、午後のお茶を共にしましょうとの伝言をマルクが預かっていた。リンディは強張った顔でこくりと頷き、了承の意を示した。若干青ざめても見える顔色を隠すかのように俯くと、リンディは重い足取りで食堂を後にした。その体が、たまにフルリと震えたのをマルクは訝し気に見つめていた。


 昼食後の時間をリンディは庭園で過ごしていた。祖母の愛したカスティナ家の庭園と趣が似ている庭園は、この1カ月でリンディの心落ち着く場所となり、時間があると庭園で時間を過ごすようになっていた。アレンがそんなリンディに心配りをしてくれたようで、それぞれの季節の名を冠する庭にはリンディ用の花壇を用意してくれた。

 ルンダール辺境伯領を訪れたのが秋の終わりであったため、冬の花壇は一部花が咲きだしていた。春の花壇は、その季節に花が咲き誇るように越冬が必要な球根の準備はしている。ただ、夏と秋は未だ手付かずの状態だ。

 「咲かせたいお花は決まっていたのだけど・・・その機会は巡ってこないわね。」とぽつりと漏らしたリンディは夏と秋の庭園へ寂し気な視線を向けた。



 視察から戻ったアレンはふと庭園に目を遣り、庭園に佇むリンディを見つけた。そのはかなげな様子に、知らず知らずのうちにアレンは蕩けるような目を向けていた。


 「可愛いが過ぎるではないか。あれは、妖精か?天使か?私をどこまで見悶えさせれば気が済むのだ。」と独り言ちるアレンを冷ややかな目で一瞥し、ミスタは溜息をついた。


 「妖精でも天使でもいいですが、そんないやらしい目で見つめられたら、私でしたら、どん引きしますね。顔がよくても中身がこれでは、100年の恋も冷めるというもの。まぁ、まだ恋すらされていないので、冷めるものがないのが救いかもしれません。完全にいかれてますから、リンディ様の前ではその素は見せないほうがよろしいかと。」


 丁寧だが、歯に衣着せぬ物言いに、アレンが顔をしかめて、「ひどい言いようではないか。」とぶつぶつ文句を言うと、悪びれる風もなくミスタが更に追い打ちをかけた。


 「ひどいのは私の発言ではなく、旦那様の中身です。残念が過ぎます。」


 アレンは、一瞬言葉に詰まりはしたが、「・・・初めて会った時のことを思い出すのだ。」とぽつりと漏らした。ミスタは、その当時のアレンを思い出し、納得の表情を浮かべた。



 アレンが忙しいときは、執務室でお茶をすることもあるのだが、今日はゆったりとした時間を過ごしたいとのアレンの希望でお茶会室に軽食と料理長渾身の作である季節の果物をふんだんに使ったお菓子をマルクとミスタが準備していた。エルマとともにお茶会室へとリンディが入ると、既に部屋にいたアレンが眦を下げて優しく微笑みながらリンディのそばへと来て、手を差し出した。リンディが躊躇いながらその手にそっと手をのせると、アレンはリンディをソファまでエスコートした。少し間をあけて隣にアレンが座ると、カーラが甘い香りの漂う紅茶をカップに注いでそれぞれの前にと置いた。エルマがリンディのカップにとろりと蜂蜜を入れ、オレンジを浮かべる。壁際にはすでに準備を終えたマルク、ミスタが控えていて、その隣にカーラ、エルマが控えた。


 今日の視察のことなどをアレンが話してくれている間もリンディは、いつ話を切り出そうかとそのことで頭がいっぱいだった。そんな中、アレンがコホンと咳払いをすると、体ごとリンディに向き合い話を切り出した。


 「こちらの暮らしにも慣れていただけたかな?それで、・・・そろそろ、結婚式について進めていこうかと思ってね。ドレスを仕立てるにしても時間がかかるだろうから、気候の良くなる3カ月後の春がよいのではないかと考えているのだ。」


 アレンは逸る気持ちを抑えながら、微笑みを絶やさず伝えた。疑問形で尋ねてリンディに断られることのないように、決定事項として伝えることとしたため、少しばかり後ろめたい気持ちもあり、瞳がわずかに震えた。ミスタにはアレンの裏の意図が透けて見えてしまい、心の中で「姑息な。」と独り言ちた。後ろめたい思いのあるリンディはアレンのそれを逃さず、「やはり無理をさせているのね。」と肩を落とし、昨夜の決意を切り出すことにした。


 「あの・・・・私、こちらをお暇しようと考えております・・・。」


 -これ以上、優しいアレン様に迷惑をかけるわけにはいかない、ルンダール辺境伯の皆さんにも我慢を強いることはダメだ。それに、これ以上長引けば、私が諦められなくなる。アレン様に好かれていると勘違いして、幸せをかみしめすぎて、手放せなくなる前に、ちゃんと身を弁えて、私から出ていかなければ。

 昨夜はそう強く決意したリンディだが、現実にアレンに伝える段になると、声が震えてしまい、最後の方は聞き取れないようなか細い声となってしまった。

 アレンはリンディの言葉の意味をすぐには理解できず、呆然としてリンディを見つめていた。「ちょっと待って欲しい」と言われることやイヤそうな顔をされてしまうことは可能性として考えてはいたが、まさか、出ていきたいという結婚自体を断られるような答えがくることはアレンの予想を超えてしまい、動揺が隠しきれなかった。動揺しすぎたためか、とっさに出たのは情けない言葉だけだった。


 「貴方に出ていかれては・・・・こ、困るのだ。」


 アレンの一言に、ミスタ、マルクは心の中で盛大な溜息をついた。エルマ、カーラは、主人たちの会話に入ることのできないもどかしさにやきもきしていた。ただ、表情は取り繕ったまま、耳を限りなく澄まし、二人の会話を聞き逃さないようにするのは皆同じだった。

 アレンの「困る」の言葉を誤解したままリンディの話が続いた。


 「そ、そうですよね。負債の形代がいなくては、信用できないのはごもっともだと思います。ただ、私が長々とこちらにいてはお目汚しになりますし。・・・あ、あの、我が家の負債は、私が働いて、必ずお返しいたしますのでご心配なさらないで下さいませ。」


 胸元で両手をぎゅっと握り、潤んだ瞳でリンディはアレンを見つめた。このような時にもかかわらず、アレンの目には、リンディがはかなくも可憐に映り、直視できず、その目が泳いでしまった。そのアレンの様子に、リンディは「あぁ、やはりご負担をかけていたのね。」と誤解を募らせ、エルマは「なぜそこで目を泳がすのですか!?ヘタレ。」と心の中で罵っていた。


 「負債?え、それに、働く・・・?」その言葉でリンディが働くことを想像してしまったアレンは一瞬固まってしまったが、はっと意識を戻すと、慌てて言い募った。


「リンディに負債などないですよね?なぜそのような誤解をされているのでしょうか?・・・いや、そんなことは問題ではなくてですね・・・。そう!負債なんてないので、働くことも必要ではなく、・・・・つまり、ここを出ていく必要もないはずですよね?」


 悲し気に目を伏せたリンディは、震えながら言葉を紡ぎだす。


 「カスティナ家に過分な金銭を頂いたことは兄より聞き及んでおります。こちらに参りましたのも、何らかのお返しができたらと思ってのことでしたが・・・・」


 そこで一旦言葉を切ると、リンディはルンダール辺境伯家の皆が気に病まないように伝えなければという思いを込めた瞳でしっかりとアレンを見つめた。。


 「私、分かっております。アレン様・・・・いえ、ルンダール辺境伯様が隠されていることも。先日の夜、はしたなくも、執務室での話を漏れ聞いてしまいました。・・・ですので、このままこちらに留まるのは居たたまれなくて・・・」


 リンディは「これ以上ご迷惑をおかけするのは。」という言葉を紡ぎ続けることができなかった。自身の感じた幸せを迷惑という言葉にしてしまうことがどうしてもできなかったのだ。

 マルク、カーラ、エルマは、今まで恐れていたことが現実となったことを実感し、青ざめた。「どの執務室の夜だ!?ただ、どの執務室の夜だとしても、旦那様が残念な変態であることには変わりなく、それを聞かれたということは、リンディ様はドン引きして、そんな旦那様と一緒にいることに居たたまれなくなったということか!!!」ミスタは今にも声を出しそうになったが、ぐっと堪えた。

 リンディはアレンと壁際に控えている皆を見遣り、「あぁ、やはり。祖母の恩義で、皆は我慢していたのね。」と納得し、肩を落とした。


 「何を聞いたというのだ。・・・執務室での話は、その誤解などもあるやもしれぬ。」


 語尾を少し震えさせながらアレンがリンディに問う。ミスタは心の中で「変態なのは間違いないので、誤解では全くないですけどね。」と考えられるほどには落ち着きを取り戻していた。


 「・・・気を使っていただかなくても大丈夫です。私、自分がさほど器量よしではないことも分かっておりますし、祖母への恩義で、仕方なくこの婚姻を進めていただいたことも理解しております。」


 そのリンディの言葉に一同、「えっ!?」という声が漏れてしまった。マルク、カーラ、ミスタ、エルマは既に表情を取り繕えなくなっていた。


 「ご主人様同士のお話に差し出口をするなど、身を弁えていないことは重々承知しておりますが、旦那様があまりの衝撃にぽんこつ・・ゴホン、思考が固まってしまっておいでですので、私から質問させていただきたいのですが、リンディ様は何を聞かれたのでしょうか?」


アレンよりも早く通常通りに戻ったミスタがリンディに尋ねた。


 「このようなひどい状況、・・・私との婚姻となったのは、恩義のある私の祖母との約束を違えることができなかったと。・・・あの、昨夜、温かい飲み物を頂けないかと部屋を出た時に、執務室にまだ明かりが見えたので、アレ・・・ルンダール辺境伯様も何かお飲みになればお疲れも癒されるかと・・・。」


 その瞬間、マルク、カーラ、エルマはがくりと崩れ落ちた。「そ、そんなところだけでしたか・・・。」

 ミスタは、「旦那様の数々の変態行動が一切聞かれなかったとは奇跡としか言いようがない。旦那様は恐ろしいほど運がいい。」とアレンの強運に感動すら覚えていた。


 「リンディが私を気遣って!!いや、もう、飲み物なんかなくても、リンディの顔を見れば癒されますよ。本当に。」とアレンは目元をほんのり赤らめながら、口元を手で覆い、呟いていた。ミスタの生ぬるい視線は気にも留めていなかった。


 「リンディ。私の話を聞いてはいただけませんか?隠し立てせず、最初から全てを話します。

 覚えておられないかもしれませんが、貴方が幼い頃、一度会っているのです、貴方と私は。私は今でこそ、魔法士であり精霊士でもありますが、当時は、魔力が強すぎてね、精霊たちが恐れてしまい、召喚が上手くいかなかったのです。精霊の愛し子である貴方のお祖母上、先のカスティナ子爵夫人からご助言を頂きたくて、相談に伺ったのです。」


 「精霊の愛し子?」


 「そうです。精霊士は精霊を召喚し、契約して使役しますが、精霊の愛し子は、その存在だけで精霊は愛を捧げ、その望みを叶えると言われています。ただ、非常に稀有な存在ですし、利用されてしまうことも多く、存在自体を秘することが多いですね。・・・貴方のように。」


 「わ、わた・・くし・・ですか?私は、精霊の愛し子?ではないです。精霊も幼い頃に一度だけ、お祖母様と一緒の時に会っただけで、その後は全く何も見えませんし。」


 「それが、貴方のお祖母上の願いだからです。貴方のお祖母上は、愛し子故に、他者の悪意に晒されたりとかなりつらい経験をなされたそうです。同じ愛し子である、貴方にはそのような思いをさせたくなかったのでしょうね。精霊たちに『本人が心から会いたいと願うまでは、姿を見せず見守ってほしい。』と望んでおられたようですよ。」


 リンディはアレンをじっと見つめていた。アレンは優しく微笑みながら、話を続けた。


 「・・・貴方が一度だけあったという精霊は、私のことだと思います。・・・貴方は、私のことを精霊さんと呼ばれていたので。」


 「ルンダール辺境伯様が精霊さん?」


 話が呑み込めずきょとんとしているリンディに対し、アレンは寂し気に瞳を伏せた。


 「もう、名前では呼んでいただけないのでしょうか?」


 「・・・アレン様。」


 ほんのり頬を染めながら、か細い声で自分の名前を呼ぶリンディにアレンは喜びに堪えなかったがぐっと心の中に押し留め、話を続けることに集中した。


 「愛し子がお願いしてしまっては、精霊の心に反しても私の召喚に応じてしまいます。それは私の本意とすることではないことをお祖母上はご理解された上で、私に精霊に寄り添いなさいと言われたのです。全く意味が分からなくてね。庭園の隅で呆然としていたのですよ。そんな私を見つけてくれたのが、貴方です。客としてきたわけではなく、庭園でこっそりお祖母上と話していたのを見かけたみたいで、私を精霊だと勘違いされて、精霊さんと呼んでました、・・・とても可愛らしかった。小さな手で私の手をぎゅっと握って、精霊さんはとってもきれいな赤い瞳だと、心がきれいだから皆が精霊さんを好きになる、と寂しそうにしている私を一生懸命励ましてくれました。

 精霊の愛し子である貴方が私に寄り添ってくれたことで、精霊たちも私に歩み寄ってくれるようになり、精霊士となることができました。」


 リンディは頬だけではなく、耳まで赤くなっていったが、すぐにさぁっと青ざめた。


 「あの、では、お祖母様と私の婚姻について約束されていたっていうのは、やはりその時の恩返しということですよね。お祖母様が無理やり私をアレン様に押し付けたのではないのですか??」


 「ち、違いますよ、リンディ。

 お祖母上との約束というのは、・・・・その、私は貴方との婚約をお祖母上に打診したのですが、お祖母上からは貴方が16歳になって、そして、貴方の心を頂けたらと言われたことです。ただ、すみません。16歳という年齢については約束を守れたのですが、貴方の気持ちを待つことができませんでした。他の方のもとに嫁がれてしまってはと、金銭で解決するようなことをしたことは後悔しています。ちゃんとした出会いをしたかったのですが、その・・・デビュタントでも会う機会をもてず・・・。」


 壁際で指折り年を数えていたエルマは、「当時、旦那様は17歳だから、リンディ様は4歳!?それで婚約の打診??」と息をのんだ。

 ミスタは、「会ってないときも、先の子爵夫人がご存命の頃はこっそり覗きに行ってたじゃないですか。特に、デビュタントの時なんて、わざわざ辺境領からそのためだけに王都まで来たにもかかわらず、声もかけなかったただのヘタレですからね。」と心の中で毒づいていた。


 「でも、私のために莫大なお金を遣わせてしまったことには変わりはありませんよね。本当に申し訳なくて。」


 しょんぼりと肩を落とすリンディの手にそっとアレンが手を添えた。


 「リンディ様。そちらに関しましては、全く気にかける必要等ございません。ルンダール辺境伯は精霊士である旦那様の能力のおかげで貴重な石が採掘される鉱山を多数保有しており、財政は非常に潤っております。リンディ様がいらっしゃらなければ、旦那様は精霊士になれなかったのですから、これは、もう、リンディ様のものと言っても過言ではございません。ですので、気にされるべきは、先代の子爵夫人とのお約束を旦那様が違えてしまったことだけであり、リンディ様が気に病まれることは何一つございません。」


 リンディは驚きに目を見張りながらミスタの話を聞いていた。ちらりとアレンを見遣り、頬を染めながら伝えた。


 「アレン様は約束を違えてなどいないです。」


 リンディの言葉の意味を理解したアレンが添えていた手でリンディの手をぎゅっと握り、「リンディ、愛しています。必ず幸せにします。」と幸せを噛みしめるように声を絞り出した。


 「いつも優しくして頂いて、ありがとうございます。こちらに来てから、私はずっと幸せを頂いています。」


 リンディは幸せを湛えてふわりと花がほころぶように微笑んだ。

 「辺境の地に花が咲いた。」とアレンも心からの微笑みを返すのであった。



 「え・・・リンディ様ってもしかして、天然?」


 「へんた・・・ゴホン、旦那様の数々の所業がちょいちょい漏れていたのですが、優しいの一言で終わるというのは、大物かもしれませんね。まぁ、これで、辺境伯領も安泰です。」


 「いやぁ、よかった、よかった。」という壁際の会話は幸せな二人には届いていない。


マルク 「これで完結なのでしょうか・・・・。」

エルマ 「お二人幸せになったのですから、完結でしょう?何か問題でも。」

ミスタ 「旦那様のへんた・・・ゴホン、溺愛の激しさでリンディ様にひかれて破局とかなければいいのですが。」

エルマ 「私ががっちりフォローするので大丈夫!」

マルク 「・・・・」

ミスタ 「まだ何かありますか?」

カーラ 「本話中で一度も発言がなかったことが悲しいのじゃないかしら・・・。」

エルマ 「え!?なかったっけ?あったよね。ほらほら、4人がそれぞれ発言しているところとか。」

ミスタ 「あるといえばありますが、消去法でしか分からないですよね。おそらく、これはエルマ、これはミスタ、これはカーラ、となるとこのあまりがマルク?みたいな。」

エルマ 「ほら、小さなことは気にしないの、父さん。これから忙しくなるわよぉ。結婚式の準備!!!」


という会話がきっとあったでしょうね。

最後までお読みいただきました方、ありがとうございます。

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