ティナと【召魔リリス】
突如現れた美女に骨と化した哀れなリザードマン。
その異質な光景に女生徒は、驚きで声を出せずにいた。
そんな女生徒を気づかい、俺は何もなかったかのように近づく。
「すまない女生徒。武器は持っているか?」
「私はティナよ!」
「え?」
「ティナっていう名前なの!」
「そうか。じゃあティナ。武器を持っているか?例えば剣やナイフ、鋭利なものならなんでもいい」
「カーズくんはホントに武器を持ってきてないの!?」
女生徒もといティナは再び驚いたようにツッこむ。
「こんなふうになるとは思わなかったんだよ。ほら早く」
「使ってない護身用のナイフならあるけど…」
「どうも」
ティナは落ち着きのない様子で俺にナイフを手渡す。
突如現れた美女が気になってしょうがない様子だった。
「ティナか。良い名前だな」
「あ、ありがとう」
「ではその名とともに…死ね!」
「ええええええええ!?」
俺はナイフをもらうなりティナの心臓めがけて貫いた。
ナイフ…というか武器全般の扱いはよくわからんが、心臓を狙えば俺でも確実に殺せるだろう。
なぜならティナは雑魚だからだ。
「殺すなよ!」
その時、沈黙を守っていた謎の美女が声をあげた。
その言葉に俺は固まり、即座にナイフを止める。
ティナは信じられない、といった様子で俺を指さした。
「カーズくん!今、私のこと殺そうとしたよね!?」
「…チッ」
「チッって言った!?自己紹介したばかりなのに!?」
たった今、俺に殺されそうになった割にはイマイチ緊張感がないというか。
ティナはツッコミ風のノリで俺を指さし、さらにまくしたてた。
「さっきまで普通のやり取りだったよね!?」
「あ…ああ」
「それを問答無用で!?信じらんない鬼畜!」
「いや…悪かったよ」
ティナは『納得いかない』といった様子で俺に食ってかかる。
殺そうとした俺にここまでギャグテイストで詰め寄るティナもたいしたものだ。
陽気なバカで、余り深く考えないバカなのだろう。
しかし実際、俺はティナを殺そうとした。
俺はその後ろめたさから、言い訳し始めた。
「いや、見られたら色々まずかったんだよ」
「何が?」
「この女だよ!こいつが出てくるから」
俺は金髪の美女を指さした。
ティナからしたら、リザードマンの窮地を救ってくれた恩人に映るだろうが俺にとってはそうではない。
「あ…ありがとうございます」
「んー?」
ティナは金髪の美女にお礼をいった。
俺にキレたかと思えば、何かと忙しいヤツだ。
金髪の美女は不敵な笑みを浮かべながらティナに応えた。
「リリス、という」
「リリスさんですね!助かりました」
「お前、面白い『ステータス』をしているな?弱い…余りに弱すぎる」
金髪の美女リリスは、挨拶もそこそこに興味深そうにまじまじとティナを見つめる。
「え…あの…」
「レベル…雑魚。スキル…雑魚。魔法…雑魚。恩恵<<ギフト>>…なし。属性…」
「あの…リリスさん?」
リリスはブツブツと嬉しそうに独り言をいい続けた。
ティナは戸惑いを隠せないといった様子だ。
「それなのに寿命は『残り1000年』ときた。お前、エルフじゃなくて人間だよな?そもそも、このステータスでどうやって生き残るんだ?」
「えっえっ?」
「結論、面白過ぎる」
リリスはその場でキャキャキャと笑い始めた。
そして、俺のほうを向き、
「あるじ、殺すなよ!こいつは『研究対象』だ」
「チッ…」
「またチッって言った!?」
ティナは俺にツッコミをいれる。
俺からしたらリリスの存在をティナに知られてしまうのはリスク以外の何物でもないのだが。
「大体なんで私を殺そうとしたの」
「それはまあ…」
リリスに気に入られた以上、ティナを殺すのは不可能だ。
そこで俺は下手に隠すよりは、真実を話したほうがマシと判断した。
「正直にいうよ、俺は召喚騎士だ」
「召喚騎士??」
「そして、この女リリスは召魔だ。俺が召喚した」
「召魔?召喚?」
「つまり召喚騎士だってことは、知られたくなかったんだよ」
「…」
正体を打ち明けるのも勇気がいるが、これでティナもわかってくれるはずだ。
「なっ分かるだろ?」
「全然わからない」