5話「課題」
アヤカと魔物の間に割って入ってきた謎の男。正体不明だが味方と捉えていいのだろうか。
「あ~こいつこんなに成長しちゃってたんだ~。でもおかしいな、まだこの段階に至るには早すぎると思うんだけどな~」
何やらぶつぶつとつぶやいているがあの魔物のことを知っているのだろうか?
「あんたは誰だ?」
先ずは当然の疑問を投げさせてもらおう。幸い魔物は男に警戒して動きを止めているようだし。
「ああ、俺はシグ。魔王ちゃんに頼まれて助けに来ちゃったよ」
「魔王?一体なぜ......魔王とは何の接点もないはず......」
「それはほら、邪神ちゃんつながりでしょ」
そうか、魔王は何らかの方法で邪神からこの状況を伝えられて俺たちを助けてくれたということか。というかさっきから魔王や邪神をちゃん付けするこの男こそ最大の謎なのだが......
「ま、話は一旦置いといてさ、今はこいつをちゃちゃっと片付けちゃうよ」
シグと名乗る男は魔物に振り向き巨大な斧を構える。
魔物は攻撃の隙を与えんとばかりにすべての触手でシグを拘束しようと伸ばす。しかしその攻撃はシグに届く前にすべて一瞬にして断ち切られる。何が起きたのか目で追うことが出来なかったが、恐らくシグが斧ですべて切り落としただけだろう。ただ簡単なことをしているようだが、あの恐ろしくでかい斧をそんなに素早く触れるものだろうか。
その攻防でシグには敵わないと判断したのだろうか、魔物は液状の体を地面に沈め逃げようとする。
「逃がさないよ~」
シグが右手を前に突き出すと魔物の動きが不意に止まる。そしてそのまま魔物の体が空中へと浮き上がる。
「あ~よっこいしょ!」
身動きの取れなくなった魔物を斧で両断し、戦いは決した。凡そ戦いと呼べるか怪しいのもではあったのだが......
切断された魔物の体は空中に溶けていき完全にその姿を消した。
「よーし、みっしょんこんぷりーと」
魔物が消えたことにより拘束から解除された俺はアヤカの元へと駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「マスター、私は大した傷はございません......それよりお怪我はございませんか?」
こんな時まで自分の心配をされるとは......自分の力の弱さを情けなく思いつつ、これからはちゃんと戦える力を身に着けようと心に誓う。
アヤカの無事を確認出来たら今度はもう一つの問題だ。
「お前は一体何者なんだ?」
「俺ちゃんは魔王ちゃんの側近のシグっていうもんよ......て、あれ?それはさっき名乗ったっけ?」
どこまで行ってもこんな調子なのかこいつは......
あっけらかんと答えるのは大方俺の予想した通りの答えだった。アヤカでさえ苦戦する相手を圧倒するほどの腕は相当上の位に居てもおかしくはないからだ。側近とか幹部とかその辺を予想していた。
「とにかく助かったよ、ありがとう」
「いいってことよ~。ま、お礼は魔王ちゃんにそのうち直接いいな」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「じゃ、もう大丈夫そうだから帰還するぜ!ほいなら~」
相変わらず変なテンションで終始合わせづらかったが、凄まじい跳躍力で真上に飛んでいきそのまま姿を消してしまった。嵐のようなやつだったがその実力は本物だ。
「俺ももっと強くならないとな......よし、俺たちも帰ろう」
小さくうなだれているアヤカがはっとこちらを振り向く。そしてとんでもないことを口走った。
「申し訳ございませんマスター。私の実力不足で危険な目にあわせてしまいました。どうか、私のことは破棄し、次なるものにマスターを守る役目を任せてください」
どうやらアヤカは今回のことを相当ショックに思っているようだ。自分の実力不足が招いた結果だと。だが、それは違う。なによりアヤカを作ったのは俺なのだから、純粋にそれは俺の力不足と同義なのだ。だがアヤカはゴーレム、恐らくだが後天的に強くする方法があるかもしれない。それはまだ確証が持てないがいずれ試すことになるだろう。
「アヤカはまだまだ強くなれるし俺も一緒に強くなる。だから破棄しろだなんて言わないでくれ。それともアヤカには俺がそんな残忍な奴に見えるか?」
「......すみませんマスター。先ほどの発言を撤回させてください。今度こそマスターを守れるよう、この身を鍛え上げ二度とマスターを危険に晒さぬと誓います」
「それでこそアヤカだ」
アヤカの瞳から流れる一筋の雫。その涙は俺が与えた魂からくるものだが、その魂の根源は一体どこから来るのだろうか。
俺はレム子やアヤカを作るときに性格まではイメージしていない。あくまで外見的特徴と性能のイメージだけなのだ。だとしたらその魂は一体どこから来るのか。俺もこの能力についてもっと知る必要がありそうだ。