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4話「不穏」

 アヤカを作ったことにより冒険者としての収入が入るようになった。この稼ぎのおかげで安定して生活できるくらいにはなっただろう。多少の余裕が出来てきたのでキッチンや家具などを取りそろえてみた。まだ小屋の増築までは出来ないが生活も幾分か充実したといえるだろう。

 この世界の文明レベルは俺がいたころの日本よりはかなり劣るが、魔法文化があるため意外と便利だったりする。例えば調理をするときも火の魔石に魔力を通せば火魔法を使えないものでも火が付けられるといった具合だ。この魔石が結構な値段なのであまり手は出せないが、俺はこれをゴーレムにも応用できるのではないかと考えている。作成する段階で魔石を埋め込めば、その魔石の効果を持ったゴーレムが誕生するとかロマンがある。

 さて、キッチンを取り付けたことによりご飯が華やかになったわけだが、それは調理をする者がいなくてはならない。俺は料理なんてあまりしたことがないしアヤカは戦いにしか興味がないしピックは小さいから調理器具は扱えない。すると消去法でレム子が調理をすることになったのだがこれが思いのほか嵌ったらしく、人数分以上の料理を毎回提供してくれる。人数分といってもゴーレムは食事しないから俺とピックの二人分......というより1.2人分といったところか。おいしいのだがこう料理が多いと胃がもたれてしまう。


「ご主人様!ご飯の用意が出来ましたよ!」


「あ、ありがとう......」


「ピックの分もあるからね!」


「あ、ありがとうございます......」


 目の前に出された明らかに量の多い料理に面を食らう。ピックが何かを訴えるようにこちらを凝視してくる。そうだ今日こそは言おう。「こんなに作ってくれるのはありがたいけど流石に量が多すぎて食べれないな。次回はもう少し量を減らそうか」

 頭の中で何回も反復した言葉を今日こそ言うのだ。俺ならできる。

 意を決して異を唱える!


「あの、レム子さん!」


「はい、何でしょう、ご主人様」


 純粋無垢な吸い込まれそうな瞳、だが俺はひるまない!


「こんなに作ってくれるのはありがたいけど流石に量が多すぎて食べきれないから......」


 その刹那俺の目は捉えた。いや、捉えてしまった。レム子の僅かな表情の変化を。それはほんの些細な、眉の角度が数ミリ下がる程度の、しかしそれほどの変化。俺は、レム子にこんな顔をしてほしくない!

 俺の葛藤に気付いたのか、横ではピックが今日もダメかと諦めた表情へと変化する。こっちの変化は別にいいや。


「ご主人様、どうかしましたか?」


 俺の様子がおかしいことに気付きレム子が心配してくれている。


「いや、何でもないよレム子の料理はおいしいなと思っただけさ!HAHAHA」


 最近のピックの中での俺の評価すっごい低いんだろうなー。




 そんなこんなで最近は忙しくも充実した日々を送っている。しかし、不穏なことはこんな幸せな時に水を差すようにやってくるもので......。

 それは俺とアヤカが冒険者としての依頼をこなしている時だった。

 今回の依頼は森の奥地に潜む魔物の討伐だった。なんでも最近魔物の活性化が激しいらしくそれが森の奥地から来ているとのことだったので調査も兼ねての依頼だ。

 

「マスター、大丈夫ですか?」


「ああ、俺は殆ど何もしてないからな。それよりアヤカは平気なのか?連戦だったろう」


 俺たちは奥地へと進軍しているさなかだが、奥に進めば進むほど魔物の数が多くなっている気がする。俺は殆ど戦えないからアヤカに戦闘は任せてしまっている。いくら魔物の殆どを一太刀で葬っているとはいえ魔力の消費もあるだろうから少しばかり不安だ。


「私は大丈夫です。魔力も昨晩注入していただいたので当分は持つでしょう」


「そうか、それならいいがあまり無理はするなよ」


「はい、この体が動けなくなったらマスターの御身が守れませんので」


 非常に頼もしいことを言ってくれるが、先ほどから魔物の増え方がからさらに増えた気がする。これ以上は引き返した方がいいのではと俺の勘が警鐘を鳴らしている。


「アヤカ、これ以上進むのは辞めておこう。魔物の数が増えすぎている」


 少し進むたび魔物に遭遇し、数も多いときたもんだ。いくらアヤカが強いとはいえ一人で俺を守りながら捌き切るのは限界があるだろう。俺という荷物がいるせいでアヤカへの被弾が目立ち始めている。


「私はまだ平気ですがマスターがそう判断するのであれば従います」


 では、今来た道を引き返そうと踵を返した瞬間後ろから、俺たちが進もうとしていた先から俺でも分かるほど歪な気配を放つ何かが近づいてくる。

 早く逃げなくてはいけないのに足が地面に縫い付けられたかのように動かない。アヤカも同様に動けないらしい。何が起きているのか分からずただただ背後から何かが近づいてくるのを待つしかない。時折魔物の悲鳴が聞こえてくるが、それが次第に近づいていることを知らせていた。

 不意にゴトンという鈍い音が聞こえ、そちらを振り向くと大型の熊の魔物の胴体が近くに転がってきていた。森の奥から何かが這いずるような音を立ててこちらに近づいてくるのを凝視しているとその全貌が露になる。

 それは今まであったどの魔物よりも似つかわしくない風貌をしていた。透明感のある水色の液体が人の形を保っているような姿。顔には不気味に輝く赤い瞳が二つ並び髪と呼べる部分は触手のようなものが10本ほど生えていてそれら一つ一つが意思を持っているかのように動いている。

 その不気味な魔物は触手で熊野胴体をつかむとあまりにも不釣り合いな対格差にも関わらず自らの体内へと押し込んでいった。熊の胴体は蒸発するように順次溶かされ、最後の部分が体内に押し込まれると魔物の体内が泡で満たされていた。捕食されたということか。


「なんだよあれ......」


 あまりにも不気味な光景をまじまじと眺めていたが、今度はお前たちの番だといわんばかりにこちらを見つめる魔物。


「マスター、お逃げください!」


「足が動かないんだ!」


「くっ......」


 アヤカも俺と同様に足が動かないのだろう。そんな状況でも俺を優先しなくてもいいというのに。

 俺が動けないならまだしもアヤカが動けないのは単純な恐怖ではないだろう。恐らくあの魔物のスキルか何かで動けないのだとしたらもはやどうすることも出来ない。眼前に迫りくる触手に今まさにとらわれようとしているのだから。


「ならばせめてマスターだけでも!魔力をすべて開放します!」


 アヤカの体がブチブチと嫌な音を立てながら足を踏み出す。その瞬間拘束が解けたかのように触手へと突き進み、薙ぎ払う。切られた触手は地面へ落ちると空気中に蒸発して消えていった。しかし斬られた先からは新たな触手が生えてくる。

 依然として俺の硬直は解けない。

 アヤカもそれが分かっていながら触手をただ防ぐことしかできず、攻めに転じることが出来ない。

 一体どれだけの時間この攻防が続いただろうか。あるいはほんの数分かもしれない。

 魔物はどれだけアヤカが抵抗できるか遊び感覚で攻撃しているようにも見える。

 もういい......お前だけでも逃げてほしい。そういう思いが何度こみ上げてきたことか。命令すればアヤカはきっと逆らえず逃げることが出来るだろう。だがそれを言ってしまえばアヤカの雄姿を踏みにじることになる。だから俺は心の中で祈る事しか出来ない。

 しかしやがてアヤカの魔力が尽きてしまったのか、とうとう触手に腕を捉えられてしまう。ジュウと焼けるような音を出しながら腕をつかむ魔物。そのままアヤカを自らの体内へと取り込むように運んでいく。その間悲鳴などは一切漏らさずただ、己の死を覚悟したアヤカは最後に俺の方へと振り返ると僅かな笑みと涙をこぼしそっとその目を閉じた。まるでそんな顔をしないで下さいと言わんばかりの表情。過ごした時間は数週間と長くはないかもしれないが、共に冒険をしにぎやかな家で過ごした日々は簡単に割り切れるものではない。今どうすることも出来ない自分の非力さを呪いながらも必死に足を前に出しアヤカの手を握ろうと藻掻く姿は傍から見たら滑稽かもしれない。だがそうせずにはいられない。今にも捕食されそうなアヤカを黙ってみていることなど到底出来ないのだから。

 しかしその抵抗空しく、アヤカの体がいよいよ取り込まれそうなその時、視界の端から黒い影が飛来して、アヤカと魔物の間を割って入るように地面を揺らしながら着地する。


「あれ?もしかして間一髪だった?あっぶなー間に合ってよかったー」


 一瞬邪神が助けに来てくれたのかと思ったがどうやらそうではないようだ。かの邪神はこんな軟派な口調ではなかったし何より姿も恐らく違う。恐らくといったのは飛来してきた男が頭を覆い隠すような仮面をかぶっているからだ。だが邪神の筋骨隆々なたくましい肉体を有しているとは思えない体格。しかしその手には自分の背丈ほどにもあるでかい斧を片手で持っている。

 すべてが謎に包まれた男は俺たちを助けに来てくれたことは分かった。

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