1話「ゴーレムを作る」
目が覚めて最初に見たのは知らない天井だった。首を左右に振り辺りを見渡すと木製の屋内であることが分かる。まだ眠っていたくもあるがここが異世界かどうか確認しないと、という衝動に駆られ体を起こそうとすると、腹のあたりに何か乗っていることに気が付く。
軽く上体を起こしてそれを確認すると、翅の生えた小さな人間がすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
「なんだこいつ?」
妖精......だな、これ。
なぜ自分の腹で妖精が寝ているのか良く分からないが、とりあえず起こそう。完全に上体を起すと重力に従ってずるずると滑っていく。そして床に尻餅をついたところでぷぎゅう、という奇妙な声と共にようやく目を覚ました。
何が起きたのか分からず辺りをキョロキョロ見渡してから目が合いすべてを察したかのように声を発した。
「あ、ご主人!おはようございます!」
元気な挨拶と共にご主人と呼ばれ、疑問はさらに増える。とりあえずあいさつしとこう。
「おはよう、ところで君は誰だ?」
「申し遅れました。あたしはアルガード様にソースケ様の異世界生活をサポートするよう命じられたピクシーのピックです!以後お見知りおきを!」
「ピクシー?......ああ、邪神の言ってたお供か!」
漸く得心がいった。異世界生活のあれこれを聞けと言われてたな。
しかし、まさか妖精だとは思わなかった。
ピクシーのピックは大きさとしては500ミリリットルのペットボトルサイズの妖精だ。銀髪で褐色な肌が特徴的で背中に翅が生えている。
「ピックだったか、よろしくな!」
「はい!よろしくです!」
うん、なんかこう。ちょっと頼りなさそうな感じもするが、期待はしすぎないでおこう。そうだなペット感覚で接しよう。
さて、状況を確認するために再度辺りを見渡すが家具などは何も置いてなく、ただの木の小屋だ。大きさは12畳くらいか。特別大きくもなく小さくもない、ちょうどいいサイズだと思う。
「まあ、雨風凌げる場所があるのはありがたいよな」
天国なのか地獄にいるのかよく分からない邪神に感謝しつつ立ち上がり扉を開けて外に出る。急に差し込む日の光に目を細めつつ目の前に広がる光景を見て感嘆の声を上げる。
あたり一面に草木が広がっており、自分の立っているところが丘なのか少し離れたところに街らしきものが見える。自然に溢れたいい場所だ。
「これはアルガード様様だな」
「アルガード様は凄いのです!」
ピックが誇らしそうに胸を張っているが君が凄いわけではないだろうと思いつつ口には出さない。
「あの町は何ていうんだ?」
「あれはラグナリアという町です!」
「当面の食料が必要なんだけどお金ってあるのか?」
「はい!アルガード様から10万ガル預かってます!」
10万ガルがどのくらいの価値なのかはよく分からないが、ピックが突然何もない空間から大きな袋を取り出し、袋の重さに必死に抵抗しながらも翅を羽ばたかせ中空をキープしている。どうやらこの袋に10万ガル入っているのだろう。面積でいうとピックの2倍もある大きさの袋だからこれを持ち上げるピックは意外と力持ちなのかもしれない。
「これが10万ガルか?」
いつまでも持たせておくと袋がちぎれるかピックが力尽きて落ちるかしそうだったので袋を受け取るとずっしりとした重みが手に伝わる。
「はい!これで全部です!」
「よし、じゃあちょっと町に買い物に行こう」
俺たちは邪神アルガードからもらった10万ガルを携えて町に赴いた。
「結構盛んな町だな」
丘の上の小屋から歩いて15分程で到着した町は、それなりの賑わいを見せていた。
町の広場には出店などが開かれていて様々な食べ物やアクセサリーといった小物類が売られている。
俺たちの今日の目標は当分の食料と諸々の道具だ。
10万ガルがこの世界でどのくらいの価値か確認したところどうやら日本円と同じくらいらしいので、かなりの額だ。
「これなら結構な食料が買えそうだな」
隣で「ご主人あれ食べたいです!」などと言っているピックをしり目に広場の出店を一通り見て食料を物色する。ウサギの魔物の肉や、果物や野菜などいろいろなものが並んでいて見ていて飽きない楽しさがある。中には魔物の解体ショーなども行っていて人だかりができていたりもする。
当面の食料を買い終え、諸々の道具も買い揃えたので再び我が根城へと帰還する。
結構な量の荷物になってしまったので帰りは倍近くの時間が掛かってしまった。麻袋に入った荷物を部屋の隅に下すと、早速いくつかの道具を持ち外に出る。
そう、早速彫刻をしようと思う。
先ずは初級土魔法で土を集め凝縮する。自分の背程の高さの山が一つ出来上がった。今からこれを削っていく。
正直魂なきものに魂を与えるというのがどういうことかいまいち理解していないが、自分の直感を信じ削っていく。
土魔法が初級ではなくもっと上の階級ならこの削る作業ももしかしたら不要なのかもしれないが、前世で趣味だったフィギュアの造形を思い出して夢中で作業を進めてしまう。気が付くと陽が落ちて辺りが暗くなり始めていた。
「ご主人、ご飯食べましょう~」
ピックが呼びに来てくれなかったらずっと作業をしていたかもしれない。それほどまでに楽しくて熱中してしまう。流石に夜は暗いから作業は出来ないな。明かりがあれば夜でもできそうだが、無いものねだりしてもしょうがない。それは今後の課題とし、今日はおとなしく休もう。
そして朝起きて作業しピックに呼ばれ作業しを繰り返して3日が過ぎたころ、漸く完成に至った。
削っていくうちに背丈は俺よりも少し小さいぐらいになった。だいたい160センチほどだろうか。ショートボブの髪型で華奢な体つき、人懐っこそうな目をしている美少女の像が目の前に佇んでいる。我ながらなかなかの出来である。正直等身大のサイズを作るのは自信がなかったがなんとかつきりきることができた。これがユニークスキル『彫刻士』の能力なのかもしれない。
やがて少女の像が輝きを放ち、思わず目をつぶってしまう。光は徐々に収まりやがて眼を開く。一瞬何が起きたのか分からず困惑していると驚くべきことが起こった。
「初めまして、ご主人様......と言いたいところなんだけど......服とかってないかな?」
目の前の美少女の像?が突然動き出し、さらにはしゃべり始めたのだ。「魂なきものに魂を与える」というのがどういうことかようやく理解した。この力があれば......ハーレムを作ることも可能なのでは?ハーレムとは男の夢、理想。そればかりではなく労働力にもなるのでは......つまり俺は一切働かずとも生活をすることができる......
「ご主人!とにかく服買ってきて!」
とピックの声に我に返ると目の前で胸と下半身の秘部を両手で隠しながら蹲る少女の姿が目に入った。そういえば裸体の状態で作ったんだったな。決していやらしい意味でそうしたわけではなく、服などのパーツも後から作るつもりだったのだ。等と考えているとピックに睨まれるので直ぐに町に女の子向けの服を買いに逃げるように走っていったのだった。