迎撃戦開始
朝飯を食べていたら、ニコラさんが近づいてきた。いつも通り穏やかな笑みを浮かべているけど、目が笑っていません。
『トール様、ジェイド伯爵……コア・ジェイドが小隊を引き連れて、こちらに向かって来ているそうです』
コア・ジェイド、現ジェイド領領主。クラック帝国がバックにいるから、代替わりをガン無視しているそうだ。
到着予想時間は三時間後。王様達の到着予定は三時間半後との事。
(今後の統治を考えて、ピエール様の兵士は不参加の方が良い。コア側の人数は単純に、俺達の倍。それで三十分……いや、余裕をもって四十分は持たせなきゃ)
何より大事な部下を、こんなくだらない事で失いたくない。
「姉ちゃん、ジェイド伯爵が騎士を連れて向かってきているみたい。お出迎えは、俺がするよ。俺はピエール様のところに行ってくる。姉ちゃん、クレオ……メイドさん達をお願い」
二人の目を見ながら、真剣な顔でお願いをする。
コア・ジェイドの狙いは俺だ。フォルテ達には手を出さないと思う。でも、ルベール家の人間は襲われる危険性が高い。
万が一の時は非戦闘員のメイドさん達を指揮する人が必要だ。
「トール、まさかまともに戦う気じゃないわよね?コア・ジェイドはまだジェイド領の領主。戦力も法的にも、向こうの方が有利よ」
姉ちゃんの言う通り、領地において領主は絶対的な権力を持っている。そして少数精鋭を引き連れてやってくる筈。
戦力差が大きいから、先制攻撃をしたいんだけど、向こうに大義名分を与えてしまう。
「大丈夫。きちんと策は練ってあるから……ルシェル君の楽しみは邪魔させないよ」
無理に勝つ必要はない。王国騎士団が到着するまで持ちこたえればいいのだ。
◇
執務室に行き、ピエールさんにジェイド伯爵が騎士を引き連れて向かって来ている事を報告する。
「それは本当か……」
ピエールさんは信じられない様で愕然としていた。領主自ら、自領で同国の貴族を襲う。最悪、ジェイド領そのものが潰されてしまう。
「我が軍の斥侯が確認しております。伯爵が自ら率いており、騎士十人と兵士が三十人。そしてゴレームが二十体」
かなりの戦力である。特にゴレーム二十体は、内乱とみらえれかねない戦力らしい。ただ、そのゴレームのお陰で行軍速度はかなり遅い。その間に迎え撃つ準備をしてやる。
「……しかし、今から軍を編成してとなると」
ピエールさんの眉間に皺が寄る。今からピエールさん達が、軍を編成するには時間が足りない。
何より……。
(騎士や兵士の士気が低いな。まあ、身内同士の戦いだから、当たり前か)
コア・ジェイドはピエールさんの叔父。同様に、ジェイド伯爵が率いている小隊の中には、ここにいる騎士や兵士の士の親戚や友人がいる筈。
「私達はすぐに動けますすので、迎撃はお任せ下さい。その代わり廃棄する予定のゴレームをお貸し頂けますでしょうか?出来れば数が多い方が助かります」
最悪、動かなくても良い。ジェイド領でのゴーレムは、大事な財産。騎士の家では家宝とされている物あるそうだ。よそ者に簡単には貸してくれないと思う。
「古くなった物や失敗作ならあるけど……事が事だから、家からゴーレムを扱える騎士を出すよ」
慌ててピエールさんが申し出てきた。まあ、元は身内のごたごたが発端だ。中学生に丸投げは気まずいんだろう。
「いえ、今後の領の統治を考えますと、禍根は残さない方がよろしいかと……何より折角ルシェル様にご友人が出来ても、その子が父親を失う事になれば、またルシェル様が心を閉ざしてしまいます。もし、お願い出来るなら目的地までゴーレムを動かしてもらえたら助かります」
そんな事になったら攻略失敗だ。ジェイド伯爵を撃退しつつ、被害は最小限に抑える。それが今回の目標だ。
◇
用意されたのは、ギリギリ歩けるゴーレムが二十体。歩けないけど、自立は出来るゴーレムが十体。ピクリとも動かないゴーレムが十体。
「正直、ゴレームとしての戦力は期待出来ないよ。これで良いのかい?」
ピエールさんが半信半疑と言った感じで聞いてくる。
動かないゴレームは専用の台車で運んでくれるそうだ。
「十分ですよ。他に必要な物は買い揃えましたので……そうだ。壊れたゴレームの部品はありますか?出来るだけボロボロな欠片とかが良いです」
買ったのは太い木の棒二十本・太い木の筒十本・大きめの桶十個。筒と桶は古道具屋でお安く買えました。
「ゴミ置き場にあると思うけど……誰か持って来い」
持ってきてくれたのは、ゴミ同然のゴーレムの部品。でも、これで全部のピースが揃った。
ジェイド家の皆さんの視線が、滅茶苦茶冷たいです。
「トール、僕は信じてるよ……だから、絶対に帰って来てね」
クレオが真っ直ぐな目で俺を見てくる。ここで格好いいセリフを言えたら良いんだけど……この世界の戦いは正々堂々が重んじられている。でも、俺がこれからやるのは真逆の戦い方。
帰ってきたらクレオに嫌われる可能性もある。
「大丈夫よ、クレオ。トールの事だから、またろくでもない事を考えているわ。信じて待ちましょう」
お姉様、フォローになってないんですが。そして姉ちゃんが、俺を睨んできた……言わなくても分かります。クレオに何か言えって事ですよね。
「クレオが……クレオや姉ちゃん、皆が待っていてくれたら、俺は絶対に帰ってくるから……その時は最高の笑顔で出迎えて欲しいな」
似合わない事を言っているのは分かっている。姉ちゃんは笑いを堪えているし。
「うん。僕、待っているからね」
満面に笑みを浮かべるクレオ。でも、俺のやり口を知ったらドン引きされると思う。
◇
俺達が陣を貼るのは、休憩所を兼ねた広場。見渡す限り荒れ地で、遮るものは何もない。
目に映るには荒涼とした大地と汚染された川。
ここを選んだ理由は二つ。一つは周囲に民家がない事。他領だけど、市民を戦いに巻き込みたくない。
もう一つは川があるからだ。
「……それで、ゴレームはどこに待機させれば良いんですか?……あの領主様が攻めてくるんですよね……大丈夫なんですか?」
ゴーレムを運搬してくれた兵士が不安そうな顔で尋ねてきた。まあ、フツメン+中学生のコンボじゃ不安になるよね。
「ピエール様にはご迷惑をお掛けしないのでご安心下さい。まずは動かないゴレームを扇状に並べて下さい。自立出来るゴーレムは膝立ちにして、その後ろに……座っているゴーレムより間隔を開けて配置して下さい。動くゴーレムは、その後ろに」
これで遠目から見ればコア小隊より多いゴレームが待ち構える様に見える。
「戦力にはならないゴーレムですが、牽制には使えますね。これならコアも迂闊には攻め込んで来ないと思いますよ」
ニコラさんが少し大きめの声でフォローしてくれた。これで同行してくれた騎士や兵士の不安が和らぐ筈。
……それと廃棄予定のゴレームなので、万が一の事があっても、弁済しなくても良いのです。
「もう少し仕込みをしますけどね。座っているゴレームの腕を木の棒で支えて。その手に雷魔法の符を貼って下さい。片膝立ちゴレームの肩には、木の筒を乗せて、中に冷却の符を……立っているゴレームの後ろには水が入った桶を配置して下さい」
俺には戦の経験なんてない。でも、前世の仕事で戦記物や歴史小説の校正を担当した事がある。それに出てきた戦術を丸パクリ……応用したのだ。
「トール様、遅くなってすいません」
やって来たのは俺が以前スカウトしたジェイド領出身の土魔術師。土に溝を掘れる魔法が使え、工事関係でとても重宝しています。今はルベール城土木課の課長だ。
「お休みのところすいません。後から代休申請して下さいね」
見ていろよ。コア、目一杯嫌がらせしてやるからな。
誰も死なせずに乗り切ってやる。




