黒幕?判明
右を見ればイケメン。左を見てもイケメン……360度どこを見てもイケメンがいる。部屋がイケメンで埋め尽くされているのだ。
(い、居心地悪っ)
だって俺以外全員イケメンなんだもん。そしてイケメンが集まっている理由は俺を守る為だ。
普段なら主の権限で、部屋か出てもらうんだけど、今朝暗殺されかけた身なので強くでられない。
「しかし、本当に襲撃してくるのでしょうか?」
優男美男子の騎士が訪ねて来た。彼の疑問はもっともだ。現当主派は、既に暗殺に失敗している。
普通なら謝罪に来て弁明している。
「普通はしませんよ。でも、あの手の人達って目的が入れ替わってしまうので」
誰かが『トール様をお守りするのが、私達の使命だろ』と言ってくれるのを待とうと思ったんだけど、ニコラさんが笑顔で俺を見ている。当然、部屋の皆の視線は俺に集まる訳で。
(後継ぎ候補としての実力を示せって事だろうな)
後継ぎとしての血統はきちんとしているけど、俺は見た目でマイナスポイントを稼ぎまくっている。納得してもらうには、実力を示すしかない。
「目的が入れ替わるですか?」
質問してきたのは、強面系イケメン。うちの騎士団には各種イケメンが揃っています。
「現当主派が、俺の命を狙ったのは、自分の地位を守る為。うちから新鮮な食物が輸出されたら、次期当主であるピエール様の人気が高まる。王家からも代替わりを迫れている現状、それは好ましくない。だから、俺がこの城に来る事を阻止しようとしたんです。下手すればルシェル君への嫌がらせもばれますし……でも、俺に頭を下げるのはプライド許さない。そうこうしていると、目的が俺を殺す事にすり替わるんですよ。本末転倒ってやつですね」
まあ、もう陰では色々動いているんだけどね。俺からしたら罠にかかってくれてありがとうなのである。
「そんな馬鹿なとは言えない動きですものね。ルシェル様への嫌がらせを聞いた時は耳を疑いましたよ」
インテリ系イケメンが溜息を漏らす。ありがたい事に騎士団の皆もルシェル君への嫌がらせに怒ってくれた。
少しづつだけど、ルベール家の空気が変わってきている。
俺の命を狙ったのはまだ良い。お粗末過ぎて、噴飯ものの動きだったし。
でも、ルシェル君への嫌がらせは許せない。きっちり引導を渡してやる。
「話は戻りますけど、皆がここにいてくれるだけで、意味があるんですよ。まずは現当主派への牽制になります。何よりルベール騎士団の結束力を見せる事が出来ます」
フツメン後継ぎの為に騎士団が本気で護衛している。現当主派への強力な牽制になるのだ。
「トール様の実績は言わなくても分かるよな。食料の自給率が上がったし、気軽に風呂に入れる様になった。なによりジュエルエンブレムが顕現出来なかった人間も自活できる様になったんだ。命に変えてもトール様をお守りしろ」
ニコラさんの鼓舞に皆が応える。凄く嬉しいんですけど、殺気が駄々洩れで、寝れないです。
(師匠にルシェル君の事を聞きたいけど、今は無理だな)
この状況で姿を消したら大騒ぎ確定だ。
◇
……流石に疲れていたらしく眠っていたようだ。眠っているのになぜ意識があるのか。 答えは簡単。修行場に来ています。
「相変わらず巻き込まれていますね。そしてそれ以上に敵の地雷を踏みまくる、貴方を選んで正解でしたよ。王家の騎士団が、ジェイド領に向かって進軍していますよ」
王家の諜報部隊が、王様に暗殺未遂の事を報告。それを受けて王国騎士団が進軍し領主変更を命じる。
現当主派は問題が多すぎる。帝国へ肩入れし、王家の指示を無視。俺への暗殺未遂は、王家にとって渡りに船なのだ。
「師匠にお伺いしたい事があります。ゲームの説明ではセリュー君のゴーレムの名前がルシェルになっていました……未来ではルシェル君は死んでいるんですか?」
ゲーム未プレイの弊害が、こんな形で出るとは。カヤブールの乙女に関して知っているのはキャラ説明だけ。細かい背景や設定の知識はない。
「このまま行くと殺されますよ。貴方に分かりやすく言いますと、ルシェル・ジェイドは、シナリオ上死ぬ必要があるんです」
シナリオ上の死。それはキャラの悲劇性を高める為……そして恋愛対象の場合は、その傷を主人公が癒して絆を深める為だ。
物語のキャラのはイケメンや美少女が多い。当然、もてる。だから、そのキャラに恋人がいない理由が必要になってくる。
大事な人を失った傷が癒えていないから、恋が出来ない。その傷を主人公が癒す。
そして物語で死者はこうも言われる。舞台装置と。
「もしかして姉ちゃんが悪役令嬢になるのも、シナリオ上の都合。カヤブールの乙女の主人公が幸せになる為ですか?」
悪役令嬢は何の為に必要なのか。主人公を引き立たせる為とざまあの為だ。読者のヘイトを溜めさせて、一気に突き落とす。そこにカタルシスが生まれる。
「正解です。だから私は味方を作れという意味で乙女ゲームを攻略しろといったのですよ。そして敵はクラック帝国と魔族だけじゃありません。もっと大きな敵がいます。そいつに一泡……いえ、煮え湯を飲ませて下さい」
……確かラスボスはクラック帝国の王様で、裏ボスは魔族だった筈。それより大きな敵って。
「あのつかぬ事をお伺いしますが、魔族より大きいって神族でしょうか?」
出来たらアムールを裏切って闇落ちした地方神……アメンボの神様とかが良いな。
「大正解。敵はアムールです」
そういってクラッカーを鳴らす師匠……最高神が敵って、全世界が敵と同じだろ。
「無理ですって。天使に狙わて瞬殺……の前に全世界が敵になりますよ」
俺だけじゃなく家族やクレオにも害が及ぶ。全世界がクラック帝国サイドにつくと思う。
「そこは安心して下さい。神族には一切手出しさせません。直接戦う敵はあくまで帝国と魔族。その為には味方を増やして、実力をつけるのです」
確かにハードルは下がったけど、十分高いハードルなんですけど。
◇
今までで最悪の寝起きだと思う。最高神に煮え湯を飲ませろって。
(俺のジュエルエンブレムは師匠が創ってくれた物。ある意味アムールの力は及ばない)
煮え湯を飲ませろって事は、倒せなくても良いって訳だ。
極細だけど進むべき道が見えてきた。自領を発展させ、周りの人間にお節介を焼く。
今までの延長だ。
「おはようございます。今日はルシェルの部屋で行うイベントの準備ですね」
どこに誰がいるか分からない。悟られない様に動かないと……王国騎士団の進軍もアムールへの反撃も。




