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悪役令嬢の弟に転生しました リーマンの乙女ゲー攻略日誌  作者: くま太郎


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世の中、そんなに甘くない

 この世界に来て痛感している事がある。イケメンって、ずるくね?


「必殺!フレイムナックル」

 フォルテの掛け声に呼応するかの様に、張り子ゴレームの拳に炎が宿る。その威力は凄まじく、一撃で相手をK・О。

 そして張り子相撲ゴレームプロモーション会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


「おい。今の技はなんだ?」

 俺、あんな機能つけていないぞ。

 本当ならイベントを中止したいところなんだけど、会場の熱狂が凄まじくストップを掛けたら大荒れになると思う。

 このイベント対象は小学生。フォルテの容姿や熱血漢が、小学生に刺さったららしく、男子は畏敬の念を向け、女子は目がハートになっている。

 まあ、まんまホビー漫画に出てくる主人公だもんな。そら、小学生に刺さるわ。


「フォルテ専用機の必殺技や。うちの職人のアイデアやぞ。凄いだろ?張り子ゴレームを見せたら、うちの従業員の職人魂に火がついての。色々改良させてもろうた」

 どや顔で語るリベル……もう魔改造レベルなんですけど。

 まあ、イベントは大成功なんだしオッケーとしておくか。


「さて、俺も行ってくる。トール、間違ってもお前は来んなよ」

 これからフォルテには張り子ゴレームの宣伝をしてもらう。言われなくても、こっちから願い下げだ。メインキャラ二人の間に混じる度胸なんて持っていない。


「言われなくても、会場の熱狂に水を差す様なヘマはしねーよ」

 俺は空気を読む日本人だ。自分が行ってはいけない場所位わきまえている。

 絶対に会場が静まり返って、小学生から冷たい視線を向けられると思う。


「勘違いすんな、あほ。お前は悪目立ちし過ぎや。暗殺されかけたその日に、イベントに出るな言うてんねん」

 会場は屋外に設置してある。周囲からは丸見えで、弓で狙われたらいちころだ。怪我で済んでも、小学生のトラウマになる事は間違いない。

 何より、そんな事になったらジェイド家の面子は丸潰れだ。

 後ろでジェイド家の騎士が泣きそうな顔で俺を見ていた。


 ルシェル君の気持ちが痛い程、分かった。前世の記憶がある俺でも、飯が食い辛いもん。

 食事中、数名の執事やメイドが俺達をガン見してきた。正に一挙手一投足を監視している感じだ。

 そして少しのミスでクスリと笑う。

 “これだから不細工は”“貴族のきの字もない顔ね”“ジュエルエンブレムなんて無理だろ”“マナーも見た目も最悪。早く平民落ちしないかしら”

 続いて、聞くに堪えない陰口のオンパレード。

 この短時間で、大人の俺でも滅入ってしまうレベルだ。

今日の食事は俺達に合わせてハーブを抑えている。でも、普段はガンガン使っているんだろう。

 結果,ルシェル君はハーブ料理を嫌いになり、家族以外の人間が苦手になったと。

 (でも、なんで他の人は気付かないんだ?)

ピエールさんやデゼールさんだけじゃなく、セリュー君も気付いていない。三人とも会話をせずに淡々と食事をしている。

 何より姉ちゃんが無反応なのが不思議だ。俺達もメイドに嫌味を言われた時期があったから、ブチ切れてもおかしくないのに。

(フォルテとリベルも無反応。あいつ等の嫌味が聞こえているのは、俺とルシェル君だけか)

 共通点はフツメン。そして席が隣って事だ。

 無言で食事をしながら、周囲を探っていく。

(床に魔力反応……面白い事してくれるじゃねえか)

 絨毯を足でずらしたら、胸糞悪い物があったのだ。

 俺は師匠のお陰で、見ればどんな魔法か分かる。あくまで分かるだけで、使う事は出来ない。それに五属性の魔法は見れば誰でも分かる。

 でも、今回はそれが幸いした。

 俺とルシェル君の足元には、ある術式が描かれていたのだ。そこに魔力を流していく。

 効果は直ぐに現れた。俺とルシェル君の以外の七人全員が食事の手を止めたのだ。

 ここであいつ等を問い詰めれば、問題は解決する。

 席を立とうとした瞬間、冷ややかな声が室内に響いた。


「マナー違反?食事中に小さい子の事をネチネチ責め立てている貴方達にとやかく言う資格はあるのかしら」

 姉ちゃんだ。姉ちゃんは席を立ちと陰口を言っていた従者達の所へ向かっていった。


「な、なんの事でしょうか?」

 真っ青な顔で白を切るメイドさん。気持ちは分かる。怒った姉ちゃんは超怖いのだ。


「お黙りなさい!貴方達ジェイド家に仕える従者。その従者がルシェル君の陰口をたたく。しかも、あんな小さい子をネチネチと責めて。恥ずかしくないの」

 生お黙りなさいだ。ゲームだと理不尽に攻め立てる時に使っていたけど、今の姉ちゃんはルシェル君を守る為に怒っている。つまり義憤だ。


「しかもトールの事も馬鹿にしていましたよね?トールを馬鹿にするという事は、妻である僕を馬鹿にしたのと同じです」

 クレオ、怒ってくれるのは嬉しいけど、まだ結婚してないぞ。


「俺の耳にも聞こえたで。胸糞悪い言葉がな」

 リベルも怒っている。笑顔が消え従者達を睨みつけている。


「今日、ジェイド家の子供達と話していたら、皆ルシェル君を心配していました。貴方達のやっている事は小学生以下だ」

 続いてフォルテも参戦。嬉しいけど、完全に出遅れた。


「ルシェル、気付いてあげられなくてごめんな。お前達、僕の可愛い弟をよくも虐めてくれたな」

 セリュー君はルシェル君を抱き締めながら、怒っていた。その眼には悔し涙が浮かんでいる。


「な、なにを証拠に。もし、本当なら他の執事はメイド達が怒る筈です。護衛の騎士も黙っていませんよ」

 執事の一人が悪びれもせずに弁明する。この世界で美が正義で、フツメンや不細工は悪。そんな価値観があるから、平気で白が切れるのだろう。


「ルシェル君の足元に音声が伝わる術式を描いたんだろ?今回も暗殺が上手くいかなかった腹いせに俺も巻き込んだ。なんで皆にも聞こえのか教えてやろうか?俺が術式にたっぷり魔力を流したのさ。だから、本来は囁き声程度が全員の耳の届いたのさ……絨毯を剥いで床を調べて下さい」

 俺の声が終わるや否やジェイド家の騎士が駆け寄り、剣で絨毯を切り裂いた。


「ありました……お前達なんでこんな事を……」

 騎士がかつての同僚を睨みつける。


「現領主派の親戚か知り合いに頼まれた。もしくは金をもらったんだと思いますよ。多分、ルシェル君の部屋の前でも、似た様な事をしていたと思います」

 ジュエルエンブレムが顕現しない貴族や騎士の子供は一家の恥。そんな風潮が彼等を調子に乗らせたのだろう。


「その者どもをひっ捕らえろ」

 ピエールさんの怒号が鳴り響く。領主、そして父としての怒りだ。


 正直、これでクリア。異世界余裕では?と思った瞬間が俺にもありました。

 それはピエールさんの一言であっけなく崩れ去った。


「ありがとうございます。皆さんがいなければ、大事な息子の苦しみ気付けませんでした……これでは亡き祖母マリアに合わせる顔がありません。私は祖母を敬愛しておりまして、自分のゴーレムにも祖母の名をつけているんですよ」

なんでもジェイド領では自分のゴーレムに亡くなった身内の名前を付ける風習があるらしい。いつまでも一緒にだと。

 セリュー君の紹介文が頭をよぎる。あれは現在の年齢とゲームのキャラ紹介で構成されている。

 

 セリュー・ジェイド 年齢:12

一つ年下の後輩君。いつも勉強やゴーレムのパワーアップに一生懸命。少し生意気だけど、そこが可愛いの。いつも一人でいてあまり笑わないけど、貴女にだけは特別な笑顔を見せてくれるかも?

 彼の召喚するゴーレムルシェルには秘密があるんだ。

 つまり、ゲーム内ではルシェル君死んでいるの?


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