最後?のメインキャラ
根っからの貧乏性な俺だけど、立場はきちんとわきまえている。
「それじゃ後はお願いします」
パン職人さん達に頭を下げて厨房の扉に手をかける。俺はパン作りに関してずぶの素人だ。手出しどころか口出しすら出来ない。
「お任せ下さい。最高のパンを作っておみせします……トール様、確認したいのですが、夜警の兵士用のパン数が多くないですか?」
パン職人の代表が宣言すると、皆が頷いた。
未だに貴族や騎士との関係は微妙だけど、職人さん達との関係は良好だ。
俺が評価するのは勤務態度と能力。日本だと普通な事だけど、ここでは見た目や血筋が優先されてしまう。
そうは言っても、パン職人の皆も十分イケメンなんですけどね。全員日本だとモデルになれると思う。
「それは一緒に夜警をするジェイド家の騎士の分です。皆様のお陰でルベールベーカリーのパンは王都でも評判です。ジェイド家の騎士も興味を示す筈。お裾分けされたパンを一口食べて美味しかったら、皆さんならどうしますか?」
これもルシェル君に友達を作る為の仕込みだ。でも、その為には職人の皆に納得してもらう必要がある。
「夜警の騎士ならパンか何か持ってきていますよね……私でしたら家に持って帰って、女房と坊主に……あっ」
何か気付いたのか、顔が明るくなる。
「お土産のパンを食べた子はまだ食べたいと思う筈。ルシェル君の所に行けばまた美味しいパンを食べられる。どうせ来てもらうなら嫌々じゃない方が上手くいきますし」
美味い物と玩具。このコンビは、強力だと思う。
もし全部食べてしまっても話のネタにはするだろうし。
◇
俺はジェイド家に招かれたゲストだ。それは分かっている……分かっているけど。
「この無駄に豪華で広い部屋はなんですか?」
用意された部屋は高級ホテルのスイートルームみたいな所だった。
部屋の数は多いし、メインの部屋に至っては旅館の大広間並みの広さ。
(ここに俺一人で泊まれと?……お供の執事や騎士も一緒に泊まる想定なのか)
「トール様は、今回のメインゲスト。しかも、同じ領地の者が暗殺を企てた。この城で一番安全な部屋を選んだのですよ」
確かにニコラさんの言う通りだ。俺が逆の立場でも最上級のおもてなしをするだろう。
でも、豪華な部屋を誰でも喜ぶと思ったら、大間違いだ。
(部屋のチェンジをお願いする。駄目だ。絶対に反対される……そうだ!)
閃いた。これならニコラさんも納得してくれる筈。
「暗殺の危険性があります。狭い部屋の方が安全だと思うのですが」
ニコラさんは諜報機関のトップ。暗殺の危険性は一番知っている。
「ここはジェイド家新領主ピエール様のお城ですよ。旧領主の一派は近づけませんよ」
美しさを貴ぶ、この世界では人を騙す事は忌み嫌われる。
暗殺は、発展していないんだと思う。
「内間……この城に勤めている人間を動かす危険性があります。金を渡す、メイドをたぶらかす、騎士の身内を人質にとる幾らでも手段はありますので」
暗殺は物語によく出てくる。それに孫子の五間も良く出てくるから、知識として必須なのです。
「トール様がいた世界では内間というのですか。今度詳しく聞かせて下さい……確かに、その手段は私も危惧しております。ですので……全員入って来い」
ニコラさんの合図で入って来たのは、ルベール家の騎士の皆様。パン職人がモデル級のイケメンなら騎士の皆は二次元級で顔が整っている。
「もしかしなくても、騎士団の皆に部屋の夜警をさせる気ですか?」
勘弁して下さい。人が間近で働いている時に寝むれる様な神経は持ってないんだぞ。
しかも全員乙女ゲームに出てきそうなイケメンばかり。
(カヤブールの乙女に背景キャラで登場していた人がいてもおかしくないんだよな)
ファンなら大歓喜するかも知れないが、俺かしたらコンプレックスが刺激されまくりだ。
「我らルベール騎士団、一命に掛けてもトール様をお守りします」
少女漫画に出てきそうなイケメンが宣言する。俺が女の子だったらキュン死していたかもしれない。
「気合を入れるのは夜になってからで大丈夫ですよ。皆さんは夜に備えて仮眠を摂って下さい。俺はパンが焼け次第、ルシェル君に届けに行きますので」
それが終わったらフォルテとの打ち合わせ、その次がピエールさん達との会食になる……終わったら皆部屋に帰っていてくれたら嬉しんだけどな。
◇
パンは無事に焼きあがった。いや、この言葉には語弊がある。気合を入れてくれただけあって最高の出来だ。
「お、ええ匂いやな。これならルシェル君も喜ぶと思うで……トール、確認なんやけど、ジェイド領でパンを売るのは、キャナリー商会でええんやんな」
厨房から出るとリベルが話し掛けてきた……どうやら俺が出てくるのを待っていた様だ。
俺が言えた義理じゃないけど、お前伯爵家の嫡男だよね。普通、そういう事は配下にやらせないか?
「むしろ頼みたい位だよ。うちじゃ職人を揃えられない。何より他領で商売するノウハウがないんでな」
当たり前だけど、パン屋を開くのに必要なのは職人だけじゃない。新しい店に仕入れルートの確保。釣銭の確保に会計を安心して任さられる人間。どれも簡単に手に入るものじゃない。
「流石はトールや。商売の難しさを分かっとるな……お、セリューやないか。久し振りやな。折角来たんや。少しもてなさなあかんで」
リベルが話し掛けたのは、眼鏡を掛けた理知的な少年。少年はちらりとこっちを見るとため息を漏らした。
「リベルさん、お久し振りです。貴族とはいえ慣れあいは好みません。もてなしなんて金と時間の無駄ですよ」
少年は、そう言うと眼鏡をくいっと上げる。年が近ければ嫌味に思える態度だけど、俺からするとほほえましくもある。
(セリュー?って事は、この子が)
セリュー・ジェイド 年齢:12
ジョブ:ジェイド家嫡男
髪の色:シルバー
武器:弓・ゴーレム召喚
趣味:勉強・ゴーレムのパワーアップ
好きなデートスポット:静かなところ
好感度の上がる贈り物:鉱物・本
ジュエルエンブレム:オニキス ランクS オリジナルネーム 強き意思
一つ年下の後輩君。いつも勉強やゴーレムのパワーアップに一生懸命。少し生意気だけど、そこが可愛いの。いつも一人でいてあまり笑わないけど、貴女にだけは特別な笑顔を見せてくれるかも?
彼の召喚するゴーレムルシェルには秘密があるんだ。
やっぱり、セリューか。本当はルシェル君との問題を改善してから会うつもりだったんだけどな。
(ゴーレムに弟の名前をつけるって事は、ルシェル君との関係は良好なのか……って事は、問題は周りだな)
逆に言えば今がチャンスだ。
「それはあかんで。トール、もてなしの意義を教えたれ……おっと、紹介がまだやったな。トール、こいつがセリュー・ジェイドや。セリュー、俺の隣にいるのがトール・ルベール。お前も噂位は聞いた事あるやろ?」
俺の噂か。ジェイド領では絶対に最悪だと思う。現当主の姪っ子、セリューから見れば親戚になる魔法同好会の会長。彼女の不正行為を暴き、恋人であるザントを追放させた。
これまた縁戚であるペポー男爵を代替わりさせる。ジェイド領から来ていたフレイム家の執事を追い出した。
全員現当主派だけども、悪者扱いになっていてもおかしくはない。
「ルベール家の怪童……噂には聞いていますよ。でも、ルシェルの好き嫌いを治せるとは思えませんね」
そういって鼻で笑うセリュー君。他の面子と違って、好感度は低めです。
「そう思うなら協力して下さい……それとおもてなしの件だけど、まずは自領の経済に余裕がある事を示せる。そして自領の特産品のアピール。何よりいざって時は一緒に戦うんだ。関係は良好にしておいて、損はない。笑顔とお世辞は無料なんだぜ……さあ、行くぞ」
セリュー君が騒いでいるけど、無視してルシェル君の部屋に向かう。
「セリュー、騙されたと思って着いて来てみ。面白いものが見れるで」
リベル君、良い子だからハードル上げるのはやめましょう。
◇
ルシェル君の扉をノックする。
「ルシェル君、トールです。うちの職人に焼かせたパンを持ってきたんだけど、良かったら一緒に食べてくれないかな?」
ドアにパンを近づけて匂いでアピール。パンには絶対の自信がある。何より今の俺には最高のお助けキャラがいるのだ。
「良い匂い……今、開けますね……お兄ちゃん!僕の部屋に来てくれたの?」
ルシェル君はパンを一瞬見たけど、直ぐセリュー君に気づき目を輝かせる。
明るくて年相応の無邪気な笑顔だ。
「ああ、リベルさんとトールさんに誘われてな……俺も一緒に食べていいか?」
照れくさいのかぶっきらぼうに答えるセリュー君。おじさん、癒されまくりです。
結果……。
「お兄ちゃん、パン美味しいね。マヨネーズって、初めて食べたけど美味しい」
無邪気に笑いながらセリュー君を見るルシェル君。これだけも頑張った甲斐ある。
「ほら、口のマヨネーズがついている。皆に笑われるぞ」
そういってルシェル君の口を優しく拭くセリュー君。でも、皆って言葉でルシェル君の表情が強張った。
(ルシェル君の好き嫌いはハーブだけじゃなく、執事やメイドの態度も要因なんだろうな)
彼等にとって領主の子供は将来の雇い主。ジュエルエンブレムの顕現に期待が薄いルシェル君を無意識で軽んじているのだろう。
余計なお世話焼いちゃおうかな。




