ブサメン?と地味メン
俺の予定ではチャラの虚をつくタイミングで登場して、現領主派側の度肝を抜く予定だった。
お姉様、ネタバレはきつうございます。
ドヤ顔で登場する予定だったんだけど、違う意味でどの面下げて現れたら良いんだ?でも、遅れたら姉ちゃんに怒られるよな……べ、別に姉ちゃんが怖いって訳じゃない。
俺の中身は立派な成年男性だ。女子中学生にビビる訳がない。
どう登場するか悩んでいたら、バキツと枝が折れる音が響いた。
見ると姉ちゃんが太い枝を踏み潰して圧し折っていたのだ。あれは早く出て来いって合図だと思う。
(考えるんだ、徹。ここから俺がイニシアチブを取る方法を……せめて、姉ちゃんにビビったから出て来たって思われない方法を考えるんだ)
「ピエール・ジェイド様ですね。お初にお目にかかります。トール・ルベールでございます。この度はお招き頂きありがとうございます」
ピエールさんの前に跪き、恭しく頭を下げる。そう、俺はピエールさんに挨拶をする為に出てきたのだ。これなら姉ちゃんにビビったと思われない筈。
お約束でピエールさんも超絶イケメンでした。眼鏡をかけた渋い知的イケメンです。
まあ、この場にいるほぼ全員容姿が整っているんですけどね。ちなみに例外俺だけです、
「トール君、無事だったんだね。良かった」
ピエールさんが安堵の溜息を漏らす。
(まあ、普通そうなるよね)
自分で招いた貴族の子弟が、自領で事故死……それもかなり怪しい事故。これだけでもまともな政治感覚があれば、ストレスで胃痛がマックスになる筈。
しかも同行者には俺の婚約者であるクレオがいるのだ……俺なら胃がねじ切れていると思う。
「幸い、私はクレオの馬車に乗っておりましたので……ただ残念な事にジェイド伯爵に贈る予定だったプレゼントが崖下に落ちてしまいました……チャラ様、報告に行って頂けますか?偶然な事に謁見出来る服装をされておりますし」
チャラを横目で視線を送りながら、もう一度頭を下げる。俺行きたくないし、用事もあるもん。
「な、なんでお前がクレオさんの馬車に乗っているんだ?」
見事なまでの逆ギレです。
でも、気持ちは分かる。
ジェイド伯爵にとって冷蔵庫は喉から手が出る程、欲しい品だ。しかし、残念ながら冷蔵庫は崖の下で木端微塵に砕け散っている。
(自領での事故。しかも、自分の配下が突き落としたんだ。俺を責める道理はゼロ)
振り上げた拳は確実にチャラに落ちる筈。
そりゃ、誰かに責任転嫁したくなるよね。
「クレオは俺の婚約者である大事な女性。他の男に狙われているとなったら、近くにいて守るのは当たり前だと思いますが」
自分でも似合っていないのは分かっている。前世なら失笑を通り越して、ドン引きされる臭い台詞だ。
(皆、ドン引きしているだろうな……うん?)
なんか物凄い熱視線を感じるんですが。
「トール……皆の前で恥ずかしいよ。でも、凄く嬉しい」
クレオがキラキラした目で俺を見ている。あれ?クレオ、引かないの?
言った俺も気ち悪って、なっているんだけど。
「ピ、ピエール様、領地へ案内して頂けますか?」
今更だけど、滅茶苦茶恥ずかしくなってきた。
「トール君、照れなくても良いじゃないか。デゼール、若いって良いね」
デゼールさんと見つめたった後、生暖かい視線で見てくるピエールさん……あの、俺お二人より年上なんですが。
それとリベル、いい子だから『相変わらずラブラブやな』とか言うのは止めましょう。
俯瞰でみたら、おじさんが中学生との恋仲をひやかされているんだぞ。絵面がきつすぎるんだって!
◇
やっぱり自分がいつも乗っている馬車は落ち着く。
向こうはメイドさんが大勢乗っていて、肩身が狭いのです。いわゆる女の中に男が一人状態……ハーレム物の主人公って、面の皮が鉄出来ているじゃないだろうか?
「クレオ様の馬車にお乗りになった方がよろしいんじゃないですか?」
二コラさんがからかう様な口調で尋ねてきた。流れ的には、その方が良いのかもしれない。
「今回の一番の目的はルシェル君の栄養改善です。でも、ただご飯を食べてもらうだけじゃ片手落ちになります。ルシェル君に積極的に人と交流する様になってもらわなきゃ意味がありません」
それだと食生活が改善された引きこもりになるだけ。それでは無意味だ。
ルシェル君には、心の底から元気になってもらいたい。
「それは分かりますが、それとクレオ様の馬車に乗らない事に関係があるのですか?」
ニコラさんが不思議そうな顔で尋ねて来た、これはトップカーストの所属している人間には分からない機微。
「ルシェル君は見た目や華やかさが重要視される貴族社会に苦手意識を感じていると思います。そんな中、公爵家のご令嬢と同じ馬車で向かったら、話す前から警戒されますよ」
俺の利点は貴族では数少ないノットイケメン顔。少なくとも見た目では苦手意識を持たれる事はない筈。
まずは話が出来なきゃ意味がないんだし。
「今回の事件で次の領主はピエール様になるのは確実です。早めにパイプを作っておくのが得策ですよね」
確かにそれもある。加えてルシェル君はメインキャラであるセリューの弟。関係が良好な方が良いに決まっている。
「それもありますけどね。貴族社会に馴染めない気持ちは痛い程、分かるんですよ。心を痛めている子供を放っておく気になれなくて」
俺もルベール家に来た頃は、心ない言われた事がある。でも、俺には人生二度目というアドバンテージがあった。加えて記憶が戻っていない幼少期が平穏だったのも大きい。
でも、ルシェル君は生まれた時から針の筵状態。心の拠り所はゴーレムしかなかったんだと思う。
◇
ルシェル君とは、俺一人で会う事になった。
「ここがルシェルの部屋です。散らかっていてすいません……ルシェル、お客様よ。ルベール家のトール様。貴方にゴーレムの事を聞きたいんだって」
案内された部屋の前には工具や本が乱雑に置かれていた。
デゼールさんは散らかっていると言ったけど、前世の俺の部屋よりましです……デゼールさん、あれは散らかっているのではなく、使いやすい場所に配置しているんですよ。
「火のルベール家?……分かりました。今、行きます……熱血タイプなのかな?いやだな」
小さな愚痴が聞こえて来た。多分、フォルテみたいな奴を想像しているんだと思う。
そして遠慮がちにドアが開いた。出て来たのはボサボサ髪で眼鏡をかけた小柄な少年。
日本にいたら、あだ名は眼鏡君一択の地味な子だ。
(真面目そうで良い子だ。でも、セリューと比べられるのはきついだろうな)
セリューはメインキャラだけあり、容姿が整っていてスペックも高い。ルシェル君は日本だとフツメン扱いだと思うけど、乙女ゲーキャラのセリューと比べられるのは理不尽だ。
「ルシェル、トール様よ。ご挨拶なさい」
デゼールさんが、俺に挨拶をする様に促す……そしてしばしの沈黙。
ルシェル君は周囲を見渡した後、おずおずと口を開いた。
「あの……お母様、トール様はどこにいらっしゃるのですか?」
うん、ルシェル君。一回、俺と目があったよね?もしかして、トールの付き人と思われたかな?
「初めまして、トール・ルベールです。想像していたのと違っただろ?」
ルシェル君の目を見て笑って見せる。もちろん、怒りはしない。俺がルシェル君の立場でも気づかないと思うし。
「ル、ルシェル・ジェイドです……あっ……初めまして。その僕なんかにどういったご用事でしょうか?」
僕なんかか……でも、ちらりと見えた部屋で分かった。この子は研究者だ。
これで確信した。この子は俺の課題クリアの力になってくれる。
「俺の考えたゴーレム形式のマジックアイテムを見て欲しいんだ。マジックアイテムと言っても玩具の要素が強いから、君の意見が必要なんだ」
君の部分を強調して話す。実際の玩具開発でも子供の意見を参考にする事があるという。
紙相撲ゴーレムも張り子ゴーレムもキャナリー商会のお墨付きをもらえた。でも、どうせ世に出すなら完璧な形で出したいのだ。
「分かりました。どうぞ」
ルシェル君に促されて部屋に入る。
(なんか作家の先生の部屋を思いだすな)
前世で編集さんと作家の先生の家に招待された事があったけど、資料や設定集が散らばっていた。
ルシェル君の部屋もゴーレムに関する資料や設計図がそこら中に散らばっている。
(バインダーとか再現出来たら売れるかもな)
「まずは紙相撲ゴーレム。指に魔力を流す事で、紙で出来たゴーレムが動かせる。相手を倒すか、円の外に出せば勝ち。対象者は三歳から六歳。これで魔力の使い方を遊びながら覚えてもらう。ちなみにあまり強く魔力を流すと自分のゴーレムが転んで負けになる」
これはすぐに思いついたけど、調整が難しかった。特にゴーレムと土俵の接着に苦労しました。
「ゴーレムの形も重要になってきますね。背を高くするとバランスが悪くなってしまう。それで僕に何を聞きたいんですか?」
流石はゴーレム作りに没頭しているだけある。要点に気付いてくれたか。
「ルシェルさんにはモデルになる紙ゴーレムを三体位作って欲しい。小さい子は自作できないから、モデルのゴーレムを切りとって遊んでもらいたいから……次はこれ張り子ゴーレムだ」
カバンから張り子ゴーレムを取り出して、ルシェル君の前に置く。
「凄い……こんなに小さいのにゴーレム作りの基礎が出来ている。関節があるから少ない魔力で動かせるんだ」
紙相撲ゴーレムと張り子ゴーレムは、ジェイド伯爵が手放してくれた人材のお陰で完成した。
「こっちもルシェル君モデルを作って欲しい、素体は置いておくので研究してくれ……それと面白い差し入れを作るから、楽しみにしていろよ」
さて、これからが本番だ。ルシェル君に友達を作ってやろうじゃないか。




