悪役令嬢?レイラ・ルベール
リクエストがあったので書きました。なろうコン一次落ちの作品に需要はあるのでしょうか?
……ジェイド領の領都に着いたんだけど……けどね。
着いて二分で窓を閉めたくなりました。
「いや、歩けよ。ゴーレムが遅すぎて渋滞しているじゃん」
美々しく飾られたゴーレムが何十体も列をなしている。ただ、その速度が滅茶苦茶遅い。絶対に歩いた方が早い。見た感じゾウガメ並みの遅さだ。
(この混雑だから、迎えが来なかったのか)
来られないって言った方が正確かもしれない。ゲストを迎えるとなれば、護衛は必須。
でも、この状態で護衛なんてつけたら、交通が麻痺してしまう。
それに、あいつ等の中で俺はすでに死んでいる。トール・ルベール死亡の事実を知った一団は貢ぎ物だけ置いて、トンボ帰りとか捕らぬ狸の皮算用を考えているのかも知れない。
「僕のうちにもゴーレムあったけど、もっと早く動いていたと思うんだけど……」
あまりの遅さにクレオに目が点になっている。自家用ゴーレムがあるとは、流石は侯爵家。
「原因の一つは無駄な装飾。あんなに飾りがついている状態で速度をあげたら、動く度に落ちてしまう。でも、一番の原因は持ち主の貴族が手に乗っているからさ。ゴーレムは移動時に上下に動く。当然、早く動けば揺れも大きくなる。人間でいえばスプーンに卵を乗せながら、歩いている様なもんさ」
モデル体型のゴーレムの手には天蓋付きのソファーが乗っている。御簾で姿を見えないけど、貴族のシルエットだけは見えていた。
……ピンクやシルバーのゴーレムあるのか。顔も無駄にイケメン風に仕上がっているし。
「なんで、あんな事するのかな?」
クレオも啞然としている。確かに無駄のオンパレードだもんな。
「ジェイド領の貴族や騎士にとってゴーレムは権力の象徴。騎士にとっての剣や鎧みたいな物なのさ。ゴーレムのスペックを上げられないなら、美々しく飾り付けて見た目を良くすれば、見栄を張れて虚栄心も満たされる。剣を振るえない騎士が束に宝石をはめるのと同じだよ」
良く見ればゴーレムの体に紋章が彫られている。まあ、本人が良いなら、それで良いんだけどさ。
「ゴーレムを持っていない人は、道の隅を遠慮がちに歩いている。重い荷物を持っている人もいるし、絶対に使い道間違っているよね」
クレオがため息を漏らす。いや、クレオだけじゃなく、メイドさん達もひいている。
「ジェイド領はゴーレムの秘密を守る為、他領との行き来を制限している。そうすると、世界が狭くなって価値観がおかしくなったんだろうな」
流通の制限どころか邪魔をしまくっている訳で。
(ゴーレム専用道路を提案しても、見栄を張れないから反対されるだろうな)
貴族は承認欲求の塊だ。ゴーレムでマウントを取るのは、この上ない優越感なんだと思う。
◇
ようやく待ち合わせ場所であるジェイド城の前庭に到着。
姉ちゃん達が乗った馬車は既に着いていた。
「メイドの皆さんにお願いがあります。各馬車の伝言をお願いしてよろしいでしょうか?」
メイドさんはクレオに仕えているので、俺には命令する権限はない。
でも、幽霊である俺が動く訳にはいかないのだ。
「トール様、私達は将来的には旦那様に仕える身、もっと堂々とお命じ下さい」
メイドさんが深々と頭を下げる。認められたのは嬉しいけど、思いっ切り外堀が埋まった感じがするんですが。
「……俺の馬車の到着が遅れている事を心配したクレオが各馬車に確認に向かわせたって感じでお願いします。表情は硬め、急ぎ足で向かって下さい。それと二コラさんに来てもらえるよう伝えてもらえますか?」
先に言っておく。俺は親しくない女性ため口、しかも命令口調で話すなんて無理だ。
今度からはクレオに指示を出してもらおう。
◇
数分後、二コラさんが馬車に入って来た。いつも余裕のある笑みを浮かべている二コラさんだけど、明らかに疲れきった顔をしている。
「皆様、呆れていらっしゃいました。特にリベル様は即キャナリー商会に連絡をされておりました」
メイドさんは普通そうですよねって顔で報告してきた。自領で招いたゲスト、しかも同じ爵位の孫を殺そうとしたのだ。
ばれたら確実に爵位を取り上げられる。
「チャラ・ジェイドは、既にクレオ様とのお付き合いする気らしく、プレゼントを持ってこちらに向かって来ております」
二コラさんがげんなりした顔で報告してきた。
それを聞いた全員がドン引きしている。だって、自分で殺した男の婚約者を口説こうとしているんだもん。
「無理、無理。僕が好きなのはトールだし、あの人おじさんだよ!」
クレオは本気で嫌らしく、嫌悪感全開で首を振っている。でも、チャラ君は二十代前半、俺より年下なのです。
(ここまでは、良し。残るはネタバレのタイミングだな)
俺が顔を出すタイミングと、王家も暗殺を確認している事を告げるタイミング。
特に後者のタイミングを間違えれば、取り囲まれる危険性がある。
「ピエール様とデゼールさんが到着したら、馬車から出ます。ニコラ、メイドの皆様、その間クレオを守ってもらえますか?」
多分、あいつはクレオを見たら調子に乗って色んな事を話すと思う。ここにはルベール伯爵家、キャナリー伯爵家、エメラルド公爵家の関係者が揃っている。ここでの失言を無かった事にするのは不可能に近い。
◇
……突っ込まずに口をつぐんだ自分を褒めてあげたい。
(俺が死んだっていうのに、なんて格好をしてんだよ)
チャラの格好が凄かった。上は純白のシャツで銀の刺繍が施してある。下は同じく純白のハーフパンツ。そこに金のマント。どこからどう見ても自領で起きた事故の報告をしに来たようには見えない。
「大変です!キモ男……トール様が乗っていた馬車が事故に遭いました。でも、安心して下さい。クレオ様には私がいます」
もう少し気持ちを隠せよ。リベルの目が点になっているいし、フォルテにいたっては口をあんぐりと開けたまま固まっているぞ。
「へー、なんで貴方がその事を知っているのかしら?当然、救助作業なされたんですわよね?」
流石はお姉様。速攻で詰め寄り始めた。侮蔑満面の顔はまさに悪役令嬢。
年上のチャラを完全に見下している。
「当然です。しかし、馬車の損壊は激しく生存は絶望的かと」
チャラは姉ちゃんを女子中学生と侮っている。でも、うちのお姉様は爺ちゃんに鍛えられて政治能力が抜群だ。
なにより俺の悪……影響を一番受けている。
「へー、そんな汚れ一つない恰好で救助作業をなされたのですか?私も崖を通りましたが、下が見えませんでしたわ。チャラ様は随分と目がよろしいですわね」
反論の余地を許さない責め。ちょっとだけチャラに同情する。
(あれが悪役令嬢レイラ・ルベールか。第三者視点で見ると物凄い迫力だな)
相対する者への優しさや配慮が一切ない厳しさ。過剰とも言える自信。
「それはその……い、家に一回帰って着替えてきたんですよ。確認は遠視の術を持っている者がおりますので」
汗だらだらで言い訳するチャラ……甘いな。俺の数々の言い訳を打ち砕いてきた姉ちゃんだぞ。そんな言い訳が通じると思うか!
「あら?私の弟が死んだかも知れないっていうのに、随分と余裕があるのね。それに時間的に無理じゃないかしら?」
小馬鹿にした感じ詰め寄る姉ちゃん。中学生の女の子に馬鹿にされて、チャラの高く脆いプライドが傷ついたんだと思う。
「餓鬼の癖に馬鹿にしやがって」
チャラが鞘から剣を抜く……うん、我が姉ながら凄まじい蹴りだ。
「私の義妹を口説こうとしていた奴が何言っているのよ」
姉ちゃんの蹴りがチャラの剣を真っ二つに折る。
「チャラ、そのお方はお前の勝てる相手ではない……レイラ様、お招きしておきながら、こんな事になるとは……申し訳ございません」
誠実そうなイケメンが姉ちゃんに頭を下げる。
(後ろにデゼールさんがいる。あの人が前領主派のピエールさんか)
「ピエール・ジェイド様ですね。頭をお上げ下さい」
さっきまでとは違い優しく物腰柔らかな言葉だ。
「しかし、弟君、トール様が」
よし、俺の出番だ。美味しいところ持っていくぜ。
「大丈夫です。弟は生きていますので……トール、出てらっしゃい」
今日一の厳命が降りました。パシリみたいで美味しくないです。




