石橋は叩いて渡ろう
デゼールさんに頼まれたと言う事もあり、ジェイド領訪問は公務となった。
今回の参加者は代表俺・おもちゃゴーレムコーチ役のフォルテ・キャナリー商会代表リベル・ポリッシュ共和国代表兼代表パートナークレオ・護衛二コラさん・代表お目付け役&お守り姉ちゃん……姉ちゃんの役職おかしくないか?護衛とお守り役って、被っていると思うのですが。
「こんな大勢で行く必要があるのか?」
メンバー全員が貴族の子供という事もあり、護衛や世話役を合わせると八十人ちかい参加者になっている。
(しかし、二次創作でも出てこない面子だよな)
カヤブールの乙女をプレイした事がある人が今回のメンバーを見たら、絶対に驚くと思う。
悪役令嬢のレイラ・ルベールがメインキャラと一緒に行動しているのだ。しかも、その関係は良好。特にクレオとは、本当の姉妹の様に仲が良い。
二人共、将来本当の姉妹なると信じているのだ……今から気まずいのです。
「これでも少ない方や。クレオはんは国賓やし、冷蔵庫や紙ゴーレムは、親父も狂喜乱舞した新商品なんやで……行くのがジェイド領でなきゃ、ここまで大規模な人数にならなったけどな」
リベルの話によると、ジェイド領では食糧や飼い葉の値が高いらしく、ジェイド領に商売に行く時は、食糧や飼い葉を持参していく事が多いそうだ。
「麦だけじゃなく、野菜や肉も輸入に頼っている。そりゃ、高くもなるか」
山の上にある自動販売機と同じである。今回は冷蔵庫のアピールも兼ねているから、食糧専用の馬車があります。
「ジェイド伯爵にとって冷蔵庫は垂涎の代物や。国がバックについていても、油断せん方がええ……つうか、お前も、もう少しお供を持たなあかんで」
姉ちゃんにも同じ事を言われたけど、俺の場合秘密保持が最優先になるから難しい。
「いつまでもお喋りしていないで、早く馬車に乗りなさい!……そうそう、トールは、こっちの馬車よ」
姉ちゃんに案内されて、 何故か来た時とは違う馬車に連れてこれた。
来られてたのは、良いんだけど...。
「あの.…….お姉様、つかぬ事をお伺いしますが、これは護送に使う馬車なのでは?」
馬車の造りもしっかりしているし、窓には格子がはめられている。
どこからどう見ても、犯人を護送する為の馬車だ。しかも、周りを騎士の皆様が取り囲んでいる。
「ジェイド領に、貴方を逆恨みしている人間が大勢いるわ。身の安全を確保するには、これが一番なのよ」
護送用の馬車は奪還阻止の為に頑丈に作ってある。確かに安全ですが、弟にもイメージがあるんですが。
ルシュル君は、まだ小学生だ。護送車に乗ってきた人間を警戒すると思う。
「俺にもイメージが……分かったよ。暗証番号を教えて」
反論しようとしたら、姉ちゃんが笑みを浮かべた。でも、目は笑っていません。
下手な事を言えば、雷が落ちると思う。
護送馬車のドアは逃亡防止の為に、魔文字を利用した護送馬車等は暗証番号入力形式にしてある。
「貴方、秘密保持って言葉が大好きよね。口の軽い人間に情報を話すと思う?」
……思わないし、逆らうのは危険だと分かります。
「分かったよ、分りました……あれ、二コラさん?」
馬車の中には、二コラさんが既に待機していたのだ。そしてニコラさんに気をとられていたら、鍵が閉められてしまった……今度からは中からも開けられるセキュリティーシステムをつけておこう。
今回のメンバーの中で、一番強いのは二コラさんだ。普通に考えれば、クレオかリベルの護衛につく。
「お爺様……いえ、王家から指示ですよ。前世では常識だったかも知れませんが、冷蔵庫はどこの国でも欲しがる代物です。特にジェイド伯爵は一連の汚名を返上する為に、トール様を狙ってくる危険性があります」
いくらなんでも、そこまで馬鹿じゃないだろ……待てよ。似た話をどこかで聞いた事が。
「まさかキャナリー領の小学生を襲ったのって……」
あの事件が切っ掛けでジェイド領は、代替わりをした。もし現当主派が野盗を手引きしていたとしたら。
(俺達を襲った奴等がジェイド領に逃げ込む。ジェイド伯爵があいつ等を庇う代わりに、小学生を襲わせたとしたら……)
でも、証拠がない。状況証拠は揃っているだけで、荒唐無稽過ぎる。でも、警戒する必要はあると思う。
「ええ、トール様の村が襲われた数日後にジェイド領にクラック帝国の騎士が訪れていました。名目はゴーレムの視察でしたが」
しかも、検問所の記録に一行だけ書かれていたらしい。そりゃ、王家も警戒するか。
「ルシュル君を助けようとしている俺は危険人物ですもんね。でも、そんな馬鹿な真似しますか?下手したら、伯爵の地位を追われますよ」
いくら尻に火がついているとはいえ、そんな事はしないと思う。
「伯爵はしなくても、周囲は分かりませんよ。代替わりしたら、カビパン喰いになりますし……王家も、交代を迫っているそうです」
まあ、あれだけの事をしたら、責めるよね。
「危険なのは短慮な馬鹿。伯爵もそれとなく煽っている危険性がある…人気にない所は慎重に進む様に命令を出しますね」
これは伯爵家の為、伯爵はお前に期待している、これが上手くいけば出世の可能性がある……無責任な言葉で伯爵の側近がそそのかす。でも、いざとなったらトカゲのしっぽ切り。
「また野盗に扮して襲うと?そんな二番煎じな手を使いますかね?」
この世界の主な戦い方はジュエルエンブレムによるごり押し。その為か戦術や戦略が発展しておらず、軍師も重要視されていない。
「可能性は高いですよ。溺れる者は藁でも掴みたがるんですよ。特に一度成功した作戦を妄信してしまうんです」
あちらさんはまだ野盗作戦がばれている事を知らない。奇跡よもう一度ではなく、絶対的な作戦だと信じてしまうのだ。
後から地図アプリを起動してやばい所をチェックしておこう。




