立て、ゴレ丸
転生物では、転生者が何かを作り出すと、拍手喝采モテモテパターンが多い。主人公に感情移入している読者も、その方が喜んでくれるからだ。
でも、現実は厳しいのです。
「冷蔵庫は出来ました。でも、これだけじゃ意味がないんです」
冷蔵庫を再現した俺は新たな問題に頭を悩ませていた。
「十分過ぎる発明だと思いますが……今度は何に悩んでおられるのですか?」
ニコラさんが呆れ顔で溜息を漏らす。今度はって、俺は年中悩んでいる様に見えるのでしょうか?確かに巻き込まれまくってはいるけどさ。
俺も冷蔵庫が再現出来たら勝ち確定だと思っていたよ。でも、新たな問題が出来たのです。
トール、今のお気持ち『安請け負いは、身を滅ぼしかねない』……事実、俺の胃は滅びかけています。
「発明じゃなく、再現ですよ。冷蔵庫は、俺がいた世界の人が創り出した物のです。だから、俺の手柄じゃありません。ニコラさん、貴族の子供って何して遊ぶんですか?ルシェル君の栄養問題を解決するだけじゃ意味がないと思うんですよ」
前世の時はゲームで遊んでいたし、村で過ごしていた時は駆けっこや花摘みをしていた。記憶が戻ってからは、家の手伝いや剣の訓練……参考にならないのです。
「クレオ様とも、お遊びになられたではないですか?……そうですね。主に従者の子供と勇者の真似事をしたり、朗読を聞いたりする方が多いですよ」
朗読はジェエルエンブレムを顕現させた先祖の話が主との事。当然脚色されまくりの冒険活劇が多いらしい……元校正赤字入れまくるぞ。
(だからザントは、あそこまで拗らせたんだろうな)
だって、話を聞くとほぼ洗脳だもん。
確かに家名に誇りを持てると思う。しかし、それは選ばれた人間の話だ。ジュエルエンブレムを顕現出来なかったら、自分を責める人が多いと思う。
場合によってザントみたく、他人や世を逆恨みする。
「クレオの経験は参考になりませんよ。クレオは剣が好きだから、竹刀を喜んでくれました。何よりクレオは容姿が優れていて多才。自分に自信を持てる人間です」
でも、ルシュル君はきっと俺に近いタイプだと思う。自分に自信がなく、自己肯定感が低い。
何しろ実兄はメインキャラになるハイスペック人間。嫌でも比べてしまう。
「それと遊ぶに何の関係があるのでしょうか?」
二コラさんが分からないのは仕方ないと思う。この世界では、心理学なんてない。
何よりジュエルエンブレム持ちを中心に、世の中が回っている。貴族でジュエルエンブレムを顕現出来ない人間はある意味敗者。見向きもされないのだ。
「ゴーレムばっかり見ていたら、自分の殻に閉じこもってしまいます。そうしたら、ますます人の輪に入れなくなる。従者の子もセリューしか見ていないと思いますし……仲良くなれる友達でもいれば、自信が持てると思うんですよね」
家柄や才能でなく、ルシュル君自身を見てくれる友達を作ってあげたいのだ。
「自分を見てくれる人ですか……ところで先程のクレオ様の容姿が優れているという言葉は本音でしょうか?」
なんで今クレオの話になるんだ?俺が奥手過ぎて、エメラルド公爵から苦情が来ているとか?
「俺には勿体ない位の美少女ですよ。クレオもルベール領で大事なモノを見つけてくれたら、嬉しいです」
物でも者でも構わない。友人でも、本当に好きな男でも良い。俺は笑顔で見送る覚悟は出来ている。
「……トール、そんな大きいな声で言われたら、恥ずかしいよ。僕はもう大事な人を、もう見つけているから安心して」
そこにいたのは、顔を真っ赤にして俯いているクレオ。そして、素知らぬ顔で口笛吹く二コラさん……ちくしょう、はめられた。
◇
クレオは、ご満悦な顔で俺と腕を組んでいる。それを見てニヤニヤするメイドの皆さん。
「トールの作った冷蔵庫、お父様が凄く誉めていたよ。『流石は自慢の婿だ』だって」
まあ、為政者なら冷蔵庫の有能性は分かると思う。ちなみに冷蔵庫は俺になってクレオと一緒に届けました。
「まだ量産は難しいけど、上手く使ってくれたら嬉しいよ。クレオの領では、男の子ってどんな遊びするの?」
クレオに幼馴染みがいたら、俺は滅茶苦茶恨まれていると思う。
「僕は仲の良い男の子はいなかったけど、木の枝で剣術ごっこするみたいだよ」
エメラルド領では剣術が盛んとの事。ある程度の年になったら、木刀で研鑽するらしいけど、傷を負っては駄目だとクレオは禁止されていたらしい。
でも、俺が贈った竹刀はオッケーされていたとの事。
(子供達が興味ある事か……ジェイド領だと、やっぱりゴーレムか……待てよ)
あれが使えるかも知れない。
「クレオ、ありがとう。お陰で良いアイディアが浮かんだよ」
まずは試作品を作る、そしてリベルとフォルテにも協力してもらおう。
◇
……アイディアは良かった筈なんだけど。
「なあ、トール。このガタガタでボロボロな不細工人形なんや?あの紙ゴーレムは分かるで。あれはジェイド領以外でも売れる。けど、これは1ジェルでも無理や」
俺が今回作ったのは、紙相撲ならぬ紙ゴーレム。そして張り子で作った簡易紙ゴーレムなんだけど。
「ま、魔力を流せばちゃんと動くぞ。ゴーレム作りの知識も得られるから、大ヒット間違いなしだって。動け、ゴレ丸」
もう一つは張り子の人形に魔文字を仕込んだ張り子ゴーレム。関節を作ってあるから、魔力を流せばちゃんと動く。
「トール、ゴレマルが崩れたぞ。これで喜ぶ子供いないって。むしろ、トラウマになるぞ」
フォルテの言う通り、俺のゴレ丸は動きに耐えれず崩壊。
「押すの力が強すぎたのか。これもパワータイプの宿命だな」
張り子ゴーレムには、三種類の魔文字を仕込める様にしてある。そして、それぞれに篭められる魔力が決まっているのだ。
俺がゴレ丸に仕込んだ魔力は足を動かす・手をあげる・押すの三種類。今回は押すに魔力を振りまくったのが原因だと思う。
「パワータイプの宿命?阿保!お前が下手に作ったから、自壊したんや。職人に頼めばええやろ……ええか、トール。お前は芸術才能なし・手が不器用・リズム感皆無の三拍子が揃っているんやで。頼める所は人にお願いするんや」
だって、製作者が強キャラなのは、少年漫画のお約束なんだぞ。
「子供にこれを作らせるのは、無理があると思うぞ。それと俺は何をすれば良いんだ?」
リベルは三拍子と言ったけど、俺にはもう一つ大事な欠点がある。それは見た目があまり良くないって事だ。男の子は強くて格好良い人に憧れる。
「最初は完成品を売る。その後に各所パーツを売ってカスタマイズ出来る様にするんだ。フォルテに、お前は指導役を頼む」
真っ赤な張り子ゴーレムを操る熱血系コーチ。これで、少年少女の心と財布を鷲掴みにしてやる。
「紙ゴーレムと張り子ゴーレムを流行らせて、ルシュル君が友達の輪に入れる下地を作るんやな。分かった、協力したる」
これで仕込みは出来た。後はルシュル君に会いに行ける……俺の運転手は誰にお願いしよう。




