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お紅茶でオホホ?

 うん、分かっていた。師匠の事だから、すんなり教えてくれて不思議だなって思っていたんだよね。

 魔物辞典でアイスオーガやデモンナイトの事を調べようとしたら『上位の魔物を検索するには、アップデートが必要です。魔物辞典のアップデートには、別途銀の座布団四枚が必要なんですよ。ざんねーん。そう簡単に対策は建てさせないスラッシュ』……懐かしいな。てか、なんで師匠がこのネタ知っているんだ?

 気を取り直して、鉱石辞典を起動。

 なぜかチュートリアルが始まり、庭に出ろとの指示。庭に着くと、足下の石を鑑定して下さいと表示された。


【堆積岩】(礫岩) 主な成分 石英


 ……まじもんの鉱石辞典だ。凄いけど、これでどうやって冷蔵庫に活かせと?

(とりあえず、現状維持しながら修行や商売を頑張るしかないか……うん?)

 修行場に行こうとしたら、誰かが近づいてきた。修行場は俺・姉ちゃん・クレオの三人しか知らない。誰か分るまで、様子を見よう。


「トール、お爺様が呼んでるわよ。クレオと三人で執務室に来なさいだって」

 声を掛けてきたのは、姉ちゃんだった。姉ちゃんは修行場の事を知っているけど、爺ちゃんの呼び出しには逆らえない。


「今、行くよ。でも、何の用だろう?」

 定期報告は済んでいる。何かやらかした記憶もない……筈。


 逃げたい。がちで逃げたいです。


「お、王妃様のお茶会ですか!?」

 王妃様からお茶会の招待状が届いたそうだ。お呼ばれしたのはクレオ、姉ちゃん……そしてなぜか俺。

 クレオは、同盟国の公爵令嬢だ。王妃様としても、親睦を深めておきたい存在だと思う。

 姉ちゃんは、王子のお嫁さん候補筆頭。母である王妃様は、気になる存在だと思う。

 でも、俺はいらないよね?だって、主な出席者は女性。しかも、王侯貴族……上流階級の女性が集まるお茶会との事。

どう考えても、俺は二人のついでだと思う。場違い甚だしいから、辞退するのがマナーだと思う。


「ああ、トールが作ったパンに興味を持たれたそうだ」

 俺が作ったパンは騎士の間でも評判になったそうだ。それが王妃様の耳に入り、興味を持たれたとの事。

(まさかの、俺が原因メイン?いや、王妃様が気になっているのは、あくまでパン。俺個人じゃない)


「分かりました。献上させて頂くパンを考えます。お茶会は、姉やクレオにお願いする形でよろしいですよね?」

 女性メインのお茶会に男が……しかも、俺みたいなブサメンが行くのは、マナー違反だと思う。

 絶対に、お紅茶が不味くなってしまうのです。


「トール、お前も行くのだぞ。断れば、王家への忠心を疑われる」

 爺ちゃんの、目が笑っていません。

王家か。根っこが日本人の俺に王家をリスペクトしろと言われても困るんですが。

しかしだ。今の俺は曲がりなりにも、貴族。リスペクトしていなくても、喜んで尻尾を振って見せるぞ。


「トール、何を気にしているの?お茶会は、楽しいんだよ」

 そう言って無邪気に笑うクレオ。俺が持っている貴族のお茶会のイメージは『お紅茶飲んでオホホ』だ。俺はビール飲んでワハハな人間なんだぞ。


「一通りのマナーは仕込まれているけど、場に馴染む自信がないんだよ。音楽やファッションの話にも疎いしな」

 それは当たり前だ。俺は貴族らしい事を何もしていない。普通はお茶会や舞踏会で貴族同士の会話を学んでいくそうだ。

でも、俺はお茶会には一回も参加していないし、舞踏会に至っては調査すらしていない。


「良い機会だから、慣れておきなさい。これから貴方はもてなす側にもなるんだから」

 姉ちゃんの言う事は正論だ。貴族にとってお茶会や舞踏会は。ある意味仕事。卒なくこなして初めて一人前だと認められる。

 でもね、乙女ゲーのキャラに混じる一般人モブの気持ちにもなって。俺は前世と顔が同じなんだぞ。この世界では浮きまくりなんです。


「二人共、話題に詰まったら助けてね」

 姉ちゃんは貴族の生活に慣れてきている。そしてクレオは生粋のお嬢様。二人共、お茶会に慣れているのだ。


「トール、安心しろ。当日はライラも参加する」

 え?……母ちゃんも行くの?いや、ルベール家の女性代表みたいな存在だから、おかしくないんだけど。

 この年で母親と一緒にお茶会は中々厳しいんですけど。


 ここはどこ?私は誰?……脳内で記憶喪失のふりをしてみるけど、現実は変わらず。

(な、なんだ。この別世界は?)

 色とりどりの花に囲まれた庭園には、豪華な椅子とテーブルが置かれれていた。庭の一角には楽団が控えており、隅の方には執事やメイドさんが控えている。


「招待状を拝見します……どうぞ、お入り下さい」

 招待状をイケメン騎士に手渡し、会場へ。そこにいるのは、色とりどりのドレスを身に纏った高貴なご婦人方。

(あまり見るのはNG。俺の場合は自分から声を掛けるのも、御法度なんだよな)

 知り合い以外の異性に声を掛けるのは、マナー違反らしい。でも、俺が普段話をしているのは男のみ。

 トール・ルベール、今日は案山子になります。


「トール、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。皆様、優しいから」

 そうは言いますが、お母様。その皆様の視線が冷たいのです。

(俺って、母さんの息子だって信じてもらえるのか?)

 母さんはオレンジ色のドレスが凄く似合っており、どう見ても二十代前半にしか見えない。


「そうですわよ。でも、はしゃぎ過ぎない様にね」

余所行き前回の顔で優しく話し掛けてくるお姉様。そんな姉ちゃんが着ているのは、純白のドレス。お洒落なのか、髪が縦ロールになっている。

王族シナリオに近づいたから、悪役令嬢化が進んだとか?)

 姉ちゃんの恋が叶うのは嬉しいけど、どんな手を使ってでもバッドエンドは阻止してやる。


「トールは僕とお話してよ。ここにいらっしゃる皆様にもパートナーがおりますわ。見知らぬ異性とお話をしていたら、心配されると思いますから……そうですわよね」

 お嬢様モードで周囲を威嚇するクレオ。水色のドレスが似合っているけど、目が笑っていません。

言外にトールは僕のパートナーなんだぞと警告している。

でも、その警告は杞憂以外の何でもないと思うぞ。



 うん、杞憂だけに空気だ。空が落ちてきても、俺がお茶会の主役になる事はないと思う。

 いや、間接的には主役になっているんだけどね。


「凄い!皆様、トールが持って来たパンを誉めていますわ。ぼ……私はこの苺カスタードパンが好きです」

 僕と言い掛けて慌てて言い直すクレオ。そう、パンは大人気だ。でも、発案者は空気。


「クレオ様、私共のテーブルにお越し下さい」

 もっと正確に言うと俺以外は人気なのだ。今もクレオは別テーブルにご招待されて行った。母さんや姉ちゃんも、色んなテーブルお呼ばれしている。

(やっぱり、総菜パンは人気薄か。評判が良いのは、果物と組み合わせたお菓子系のパンだな)

 暇なので聞き耳を立てて、スマホに評価を打ち込んでいく。


「トール、王妃様が話を聞きたいと、おっしゃられているので、一緒に来なさい」

 ぼさっとしたら、お母様がお声を掛けて下さった。王妃様?無理、無理。高貴オーラで焼け死んでしまう。

 しかし、王族の意思に逆らうのは悪手。大人しくついて行きます。

(もう後悔マックスなんですが!)

 流石は王妃様のお席。王族関係者揵がそろい踏みです。


「王妃様、ライラ様と一緒にいる個性的な顔をされいるのが、トール・ルベール……君です。お召し物は素敵ですわね」

 そして到着一秒で、嫌味を言われました。個性的な顔も、服だけ素敵なのも自覚があるからノーダメージです。


「貴方がトール君ね。息子リヒトから、良く話を聞いているわ。美味しいパンを沢山ありがとう。どれも美味しいわ」

 そして王妃様の高貴オーラが凄いです。ぽわぽわした雰囲気だけど、背中に後光が見えるレベルだ。美人なんて表現するのも、不遜だと思う。


「お、お褒めに預かり光栄です。トール・ルベール、不肖者ですが、これよりも王家に忠誠を誓わせて頂きます」

 王妃様に跪いて忠誠を誓う。権力に媚びて格好悪い?王国があるから、貴族していられるんだ。いくらでも媚びてやる。

 何より、これで他の貴族への牽制になるのだ。今、俺を馬鹿にしたら、王妃様の顔に泥を塗る事になる。


「まあ、まあ、これで我が王家も安泰ですわね。魔文字道具に新しいパン。何よりエメラルド公爵家との繋がり。次は何を見せてくるのかしら?」

 前言撤回、この人を舐めていたらとんでもない目に遭う。王妃は相変わらずぽわぽわした笑顔を浮かべているけど、その視線はしっかり俺を値踏みしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] トールがここまで侮られる理由が知りたいですね。 実績出してる人間に対する態度じゃありません。 そして見た目だけで判断する輩しか居ないのは流石におかしいですから。 他にも理由があるんじゃないか…
[良い点] 「お紅茶飲んでオホホ、ビール飲んでワハハ」がツボりましたw
[一言] 到着一秒で嫌味を言ってきたの誰だろ?それなりに高位貴族とかなんだろうけど親がいる前で息子を貶したわけですからちょっと浅はかではあるよね。それとも貴族ってのはこの程度たいしたことないのかな? …
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