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獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~  作者: 鈴田在可
処刑場編

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94 一人足りない

 時刻は昼。


 ヴィクトリア、マグノリア、ロータスの三人はシドの公開処刑が行われる処刑場まで来ていた。


 獣人の処刑の為のその処刑場は、首都郊外に作られている。


 広場の中央には首が落とされる大掛かりな機械が設置されていた。


 危険がないようにと処刑用広場の中に一般人は立ち入り禁止になっているが、広場を取り囲むように円形の建物が建てられていて、硝子で隔てられているものの、段差のある観客席が幾つもあり処刑場広場の見学は自由だった。


 ヴィクトリアたちは、稀代の大悪党獣人王シドの処刑見たさに集まって、ごった返す観客の中にまぎれていた。三人は結局、もうすぐ処刑が始まるというこの時間までに、ナディアを見つけ出して救出することができなかった。


 マグノリアの『真眼』の能力があれば居場所を特定できそうなものだが、マグノリアが当たりをつけた場所に向かっても、ことごとくナディアがいない。


 マグノリアは諦めずに魔法を使ってナディアをずっと探し続けていた。時々、「気を分けてほしい」と言われて、ヴィクトリアは人気のない場所で例の黒い渦巻きを介して、マグノリアに気を分けていた。


 時間だけがじりじりと消費され、ヴィクトリアとロータスが別人の姿のままで焦りの表情を浮かべる中、マグノリア一人だけが落ち着き払ってこう言った。


「……どうやら、いつの間にか()()()は私の『真眼』の能力を越えていたみたいね」


 詳しいことはわからないが、つまり、マグノリアよりも力を持った魔法使いによって、ナディアの居場所が秘匿されているようだった。


 首都近郊にある獣人が収監されていそうな場所は調べ尽くした。

 困り果てた三人は――マグノリアは焦っているようには見えなかったが、本人曰く焦っているらしい――こうなったら最終手段として、「処刑場にナディアが現れた時点で掻っ攫う」という作戦に切り替えることにした。


 攫う瞬間にばれる可能性大だが、銃騎士隊や民衆にとって一番重要なのはシドの処刑であり、ナディアの処刑は後から追加されたいわばおまけのようなものだ。どさくさに紛れて何とかするとマグノリアは言った。


 現在、ヴィクトリアとロータスはマグノリアの後について、観覧用に建てられた円形の建物内部を歩き回っていた。


 観客席は人間だらけで混雑していたが、一部だけ人がいない空間があった。


 そこは貴賓席のようて、一番見晴らしのよい高い位置にあり、上等そうな椅子が設置されて一般人の立ち入りが制限されていた。

 見るからに高貴そうな人々が居並び、彼らを守るように朱色の騎士服を着た近衛隊員たちや、藍色の隊服を着た銃騎士隊員が周囲を固めている。


 横並びになった貴賓席の中央にいるのは、艶やかな銀髪を美しく結い上げ、上品そうな淡黄色のドレスをまとった、二十歳前後ほどに見える美女だった。

 彼女の瞳の光彩は左右で違っていて、右が薄紫色、左が黒色だ。


 この国の次期宗主ジュリナリーゼ・ローゼンの瞳の色が特異的で左右で違うことは、人間社会の勉強のために何年か前に読んだ本の知識で知っていたから、ヴィクトリアは彼女がそうなのだろうと思った。


 ジュリナリーゼの向かって左側は何故か空席だが、右側には全体的に柔らかくて優しそうな雰囲気の壮年の紳士が座っている。

 ジュリナリーゼの結婚相手にしては年が離れすぎているので、おそらくは彼女の父親であるクラウス・ローゼン宗主配なのだろうと思った。


 クラウスは元は黒色だった髪色に白が混じっているが、年を重ねても甘い容貌に陰りは見えない。瞳の色は黒で、相手に常に安心感を抱かせそうな落ち着いた色をしている。


 クラウスはジュリナリーゼではなく、反対側にいる貴族の男性とばかり会話をして談笑していた。


 ヴィクトリアは、ジュリナリーゼの隣の空席は宗主ミカエラ・ローゼンのものだろうと思った。


 しかし、ヴィクトリアは知らなかったが、その席はジュリナリーゼの婚約者のための席だった。


 宗主ミカエラは昔、自分の姪である最後の女王の処刑に立ち会って倒れてしまったことがある。身体の弱いミカエラは、それ以来どんな処刑の立ち会いにも不参加だった。


 獣人の処刑は常に宗主や貴人が立ち会うわけではないが、今回は人間の最大の敵とも言うべき獣人王シドの処刑であり、ジュリナリーゼは国民の代表である宗主の名代として、シドの処刑を見届ける義務があった。


 貴賓席に座るのは貴族ばかりのようだったが、その中には銃騎士もいる。一際目立つのが顔の上半分を仮面で覆った大柄な体躯の男だ。


 仮面の銃騎士のことは有名なのでヴィクトリアでも知っている。彼は初代銃騎士隊総隊長のグレゴリー・クレセントだ。

 昔は銀髪だったらしいその髪は色味が抜けて現在は白髪に近い。


 グレゴリーの隣には、銀髪に薄紫色の瞳をした繊細な雰囲気の、美女と見まごうような中性的な容姿を持つ二十代くらいの美人銃騎士が座っていた。

 人が多くてヴィクトリアの位置からでは匂いで判別できないが、隊服を来ているから女性ではなくて男性のはずだ。


 貴賓席にいるということは彼も貴族かそれに類する地位を持つ人なのかもしれないが、名前まではわからなかった。


 朗らかな様子の貴族たちとは違い、グレゴリーたち銃騎士二人は、緊張感の感じられる表情で何事かを話し合っていて、時折訪れる部下らしき銃騎士たちの報告を聞いては、何か指示を飛ばしているようだった。


 会場には銃騎士が点在していて、つつがなく処刑が遂行されるように監視の目を光らせている。


 ヴィクトリアはこの建物に入った時から、少し離れた通路に佇んでいるレインがいることには気付いていた。


『番の呪い』によりレインを番だと認識しているヴィクトリアは、彼の居場所がすぐにわかった。


『ヴィー、今は駄目よ。危ないから私から絶対に離れないでね』


 ヴィクトリアの視線を読んだマグノリアが精神感応テレパシーで話しかけてくる。周囲の銃騎士隊員たちに自分たちの正体を悟られないようにと、マグノリアは会話はできるだけ精神感応を使っていた。


 ヴィクトリアは頷いた。今レインに見つかるわけにはいかない。


「ねえ、ミア……」


 ヴィクトリアはあらかじめ決めていたマグノリアの偽名で呼びかけてから、彼女の耳に口元を寄せて小声で囁く。


「ナディアが連行されてくるのを待つのなら、観客席ではなくて出入り口あたりで見張っていた方が良いのではないかしら?」


『そうだけれど、探索サーチの魔法を使えば離れていても出入り口からナディアが入ったのがわかるし、今はできれば()()()を探したいのよ。もしかしたら手を貸してくれるかもしれないから』


 マグノリアは精神感応でヴィクトリアとロータスにも同じ言葉を返したが、そんなマグノリアを、ロータスは複雑そうな面持ちで見ていた。


 落ち着き払っていた様子のマグノリアが、突如ハッとした表情を見せた後に思案顔に変わる。


『来たわ、シドが。でもナディアがいない…………


 もしかしたら、直前でナディアの処刑が回避された可能性もあるわね。


 誰かがナディアを獣人奴隷として引き取ったのかもしれないわ』


 マグノリアの精神感応の言葉からしばらくして後、遠くから人々の怒号のような、悲鳴のようなざわめきが聞こえてきた。


 マグノリアの言葉の前から気付いていたヴィクトリアは、既に顔を青褪めさせ、全身をガタガタと震えさせていた。


「リア、大丈夫だ」


 ロータスがヴィクトリアの偽名で呼びかけてくる。


『そうよ。姿も声も匂いも変えているから流石のシドでもわからないわ』


 ヴィクトリアを心配したロータスとマグノリアが両側から手を繋いでくれる。その手がとても心強かった。


『ロイ、気を付けて。()()()()()()


 ロータスの顔に緊張が走る。彼ら――――つまりは、ロータスとマグノリアに『死の呪い』をかけた魔法使いたちも、シドと同時にこの処刑場に現れたということだろう。


『全部で四人よ』


 マグノリアが告げた魔法使いの人数は、ヴィクトリアが予想を立てていた銃騎士隊が抱える魔法使いの人数――――五人からは、一人少なかった。


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