表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/170

8 絆

「お前、いつもあんな事されてんのか?」


 リュージュが怒った声で忌々しげに聞いてくる。


 ヴィクトリアは下を向いた。本当は、リュージュには知られたくなかった。


 距離を置こう。きっと嫌われた。父親と恋人同士みたいなことをしてるなんて、気持ち悪いと思われても仕方がない。


「もう、余計なことしないで。私のことは放っておいて。近づかないで」


 冷たく、突き放すように言葉を紡ぐ。


 せっかく出来た友達だった。リュージュと過ごした楽しかった時間も、もう全部全部、遠い所へ行ってしまう。


 ずっと側にいてほしかった。だけど、この地獄には巻き込めない。


 リュージュは先程までの勢いを殺し、悲しそうな顔で言った。


「お前は、あいつが好きなのか?」


「そんなわけないでしょう! 大っ嫌いよ!」


 思わず声を荒げてしまった。

 夜も深まっているが、宴会の直後だから皆まだ起きているはずだ。誰が来るか分からない。分かっているのに、それでも叫ばずにはいられなかった。


「父親にあんな事されて喜ぶと思う? そんなわけない。おかしいわ。あの人はおかしいのよ」


 悔しくて涙が出てくる。


「ずっと不思議だったんだ、なんでお前はいつも一人で、誰も寄せ付けようとしないんだろうって。他の奴らはヴィクトリアには近づくなって、それしか言わないし、お前だって何も言わないし…… でも分かったよ。お前を不幸にしてるのは、あのクソ野郎じゃないか」


 リュージュは苛立たしげに言うと、拳を作って壁を殴り付けた。


「泣いてるじゃないか。お前にこんな顔させる奴、絶対に許さない」


 ヴィクトリアは戸惑った。嫌われたと思っていた。なのに、リュージュはヴィクトリアの為に怒っている。


「あいつに何かされそうになったら俺が助ける。必ず呼べ」


(何を言っているの? 助ける? あの超人的な強さを持つシドから?)


「そんな事……」


「わかってる。今の俺じゃあいつには勝てない。さっきだってお前に庇ってもらって、情けない」


 リュージュは寂しそうな顔をした。


「ウォグバードにも言われたよ。ここじゃ力の無い者が何を言っても無駄だって。守りたかったら強くなれって。今はまだあいつの足元にも及ばない。でも、俺もっともっと強くなるよ。俺がお前を守るから」


 胸が詰まった。でも、ヴィクトリアは首を振った。


「リュージュに迷惑はかけられない」


 何言ってんだよ、とリュージュはヴィクトリアを真っ直ぐ見つめて言った。


「お前の痛みは俺の痛みだ。辛かったら俺に言え」


 ヴィクトリアは顔を覆った。涙が次から次へと溢れてくる。


 母が死んでから、そんなことを言ってくれる人は誰もいなかった。


 嬉しかった。


 ふわっと、リュージュの匂いが覆い被さってきた。思いの外強い力で抱き締められる。


(駄目、シドが来るかもしれない)


 リュージュに触れたらシドが来るか、確証はない。けど、危険な橋は渡れない。


 離れなくちゃいけない。分かってるのに、腕を振り払う事ができない。


「リュージュ……」


 温かい。


 ずっと孤独だった心が溶かされていくようだ。


 人の温もりとは、こんなにも温かいものなのか。


 今だけは、もう少しこのままでいたい。


「リュージュ、ありがとう」


 ヴィクトリアはリュージュの背に手を回した。


 ウォグバードが来て引き剥がされるまで、二人はずっとそうしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同シリーズ作品もよろしくお願いします


【主にナディアの二年間の話】

完結済「その結婚お断り ~モテなかったはずなのにイケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~」

(今作と合わせて読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います)



【稀人の話。2章はレインの親友アスターの話】

完結済「変態おじさんと不良銃騎士と白い少年」(BL)



【ジュリアスとその婚約者の話】

「男装令嬢の恋と受胎」(短編)



【ナディアの義兄セドリックとシリウスの話】

「星の名を持つ悪魔」(短編)



【ロータスがリュージュを連れて里を去るまでの話】

完結済「鬼畜お父さんを見限って自分の居場所を探しに旅立ちます」



【シドのビターエンド仕様クズ鬼畜スケコマシハーレム過去話】

完結済 「誰も俺の番じゃない」⚠食人注意



【アルベールの両親の話】

完結済「新生児に一目惚れした狂人、誘拐しようとして彼女に拒否られる…… からの逆転劇」



【美形兄弟のオムニバス恋愛話】

完結済「ブラッドレイ家の夏休み」

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ