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60 厄介な幼馴染

R15

襲われているのでご注意下さい

 ヴィクトリアはアルベールに口付けられている最中も、その後も、目を大きく見開いたまま固まっていた。


「ヴィー?」


 動きを止めたままのヴィクトリアにアルベールが色気を含んだ艶っぽい声音で呼びかけるが、反応が無い。


 アルベールは好機と見たのか、二度目の口付けのために再度唇を寄せる。が、寸前でヴィクトリアの拳が振り上げられ、それを避けるために二人に距離ができた。


「何するのよー!」


 ヴィクトリアは怒りのままにアルベールに殴りかかったが、何なくかわされる。蹴りまで繰り出すが当たらず、何発目かの拳を手で受け取められたと思ったらそのまま掴まれて引っ張られ、アルベールの胸の中に抱き締められていた。


 アルベールはヴィクトリアの髪を撫でながら、とても幸せそうな顔をしていた。


「俺のこと好きになった?」


「なるわけないでしょ!」


「それは残念。まあ、予想はしてたけど」


 俺も他の女の血を飲んでも駄目だったしね、とアルベールは続ける。


 ヴィクトリアの顔は真っ赤になっていた。それは怒りのためか恥ずかしさのためか。


 アルベールが顔を覗き込んでくるのでキッと睨んだが、アルベールは構わず強引に二度目の口付けをした。


 ヴィクトリアはアルベールの胸を押しのけようともがくがびくともしない。顔もがっちり掴まれて動かせず、やめるようにと喉の奥から唸るような声を出すのが精一杯だった。


 口内が侵食されていく。今度の口付けは、長かった。


(嫌だ――――)


 ヴィクトリアの目尻にうっすらと涙が溜まっていく。


 レイン以外の男性と口付けているのが耐え難い。


 ヴィクトリアは――――アルベールの舌を噛んだ。


 アルベールが離れる。ヴィクトリアを見つめる目に不穏な光が宿った気がしたが、すぐに瞳の奥に消える。


 ヴィクトリアは玄関に向かって一目散に逃げようとしたが、腕を引っ張られて平衡を崩し、後ろ向きで倒れ込むようにしてアルベールの腕の中に収まってしまう。


「ヴィー、『呪い』の発動と同じ事をしても駄目なら、もうアレしかないだろ。俺と正式な番になろう? 俺のように長く苦しみたくはないだろう?」


 ヴィクトリアの顔は引き攣っていた。アルベールが危うい笑顔でこちらをじっと見ている。背中がぞわっとした。


「番じゃないと思っている相手にされるのは苦痛かもしれないけど、きっと最初だけだ。我慢してくれ」


「嫌! 絶対に嫌! 離して!」


 訴えも虚しく、アルベールはヴィクトリアを抱えて歩き出す。


「ヴィーはもう充分苦しんだ。俺はずっと見ていたから知っているよ。幸せになっていいんだ。俺が責任を持ってヴィーを幸せにするよ」


「『呪い』を解くためにそうしなきゃいけないとしても、自分の番は自分で選ぶわ!」


「じゃあ俺を選んで」


「嫌よ!」


 暴れるヴィクトリアを押さえ込み、アルベールはヴィクトリアを二階の自室へ連れ込んだ。


 ヴィクトリアは寝台の上に押し倒されてしまった。散々嫌だと叫んだが、アルベールは全く聞き入れてくれなかった。


「ヴィーは知らないかもしれないけど、俺たち獣人の間では力ずくで番を得るなんてのはよくある話なんだよ。この里では力こそが全てだからね。強い奴が正しい。それが理。俺の番になるのが嫌なら俺を倒すしかないよ」


 ヴィクトリアは言われなくても必死で抗おうとしていた。しかし力の差は歴然で、強さでアルベール敵うはずがない。


 のしかかるようにヴィクトリアを押さえ込んだアルベールの手が――――


「っ……!」

 

「愛してるよ、ヴィー。これからするのは合意のない行為だけど、それを罪として禁じている人間がやるのとは全く違う。これは治療だ。荒療治だけどね。そう思ってほしい」


 いきなりシャツがめくり上げられてヴィクトリアは悲鳴を上げた。服を掴んで元に戻そうとしてもアルベールの腕力には敵わなかった。


 アルベールは昔、血を飲もうとして見せた表情と同じ顔をしていた。顕になったそこに視線が何本も突き刺さっているようだった。


 ヴィクトリアは腕で身体を隠した。身体を反転させてアルベールの視線からさらに逃れようとしたが、それは叶わなかった。ヴィクトリアは羞恥に涙ぐんで下唇を噛む。


「何度見ても綺麗だね」


 アルベールはうっとりと呟くが、ヴィクトリアはその言葉に引っ掛かりを覚えた。これまで裸を見られたのは先程の浴室での一度きりのはず。その言い方では、まるでヴィクトリアの裸を何度も見たことがあるように聞こえる。


「『何度見ても』ってどういうこと? まさかさっき以外にもこれまで私のお風呂とか着替えとかを覗いたことがあるってこと?!」


 ヴィクトリアが叫ぶとアルベールは笑って否定する。


「それはない。そんなことをしたらシドに殺されてしまうよ。見たんじゃない。『嗅いだ』んだ」


 ヴィクトリアは合点がいった。宿屋でヴィクトリアがシャワーを浴びるレインの様子を嗅覚で知覚してしまったのと同じだ。


 アルベールはヴィクトリアを番だと思っている。ヴィクトリアの匂いにだけ特別に敏感になっているのだろう。


 ヴィクトリアは知らなかったが、番を持つと相手の匂いをかなり強く感じるように変化するらしい。


 先程からアルベールが何も言わずともレインとの間にあったことをわかっている様子なのは、ヴィクトリアへの敏感すぎる嗅覚のせいか。


「言っておくけど『嗅げた』のはそんなに多くないよ? シドが魔の森へ行くなりして里から不在になるのと、ヴィーが入浴してるのと、俺がたまたまヴィーの匂いがわかる範囲を通り掛かることが重なった時だけだから。


『嗅いで』いたことがシドにわかったら俺は殺されてしまうし、そうならないように俺はすぐに離れなきゃいけないから、本当に短い時間だけ。


 俺が毎回「狩り」に連れ出されていたのはそのせいさ。シドは自分がいない間にヴィーの入浴を俺に『嗅がれる』のが嫌だったんだ。


 シド自身は既に女を何人も囲っているくせに、その上でヴィーのことも誰に見せたくないし渡したくなかったんだ。嫉妬深いよね、あの男も」


「狩場で人間を殺し回っていたのもシドに言われたから?」


「いや、それは違う。人間を殺していたのは俺の意志だ」


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