37 写真
下着をいくつか見繕い、そのうちの一つを身に着けたヴィクトリアは更衣室から出た。
(次は服を選ばないと)
「ヴィクトリア」
レインに呼ばれてヴィクトリアは彼のそばに行った。レインの前には婚礼用の純白のドレスが目立つように展示されている。
「花嫁が結婚式に着る衣装ね。綺麗だわ…」
(花嫁衣装を見ると、リュージュとサーシャの結婚式のことを思い出す……)
「聞いてみたんだけど試着してもいいらしいよ。着てみない?」
レインが急にそんなことを言ってきたので驚く。
「え、私はいいわよ……」
「予行演習だと思えばいいいよ」
別にまだレインと一緒になると決めたわけではないし、獣人と人間が結婚式を挙げるだなんて里でもない限り不可能だろうと思ったが、レインは店員を呼んでしまい再び更衣室に逆戻りすることになった。
「お客様はお美しいのでよくお似合いでございます!」
婚礼衣装を着せ終えた店員はヴィクトリアを見るとなぜか感動したようにそう言って、目を輝かせた。
「こちらはサービスでございます!」
店員はヴィクトリアを椅子に座らせると張り切った様子で化粧まで施し始めた。別の店員がやって来てヴィクトリアの長い銀髪を結い上げる。衣装に合わせたヘッドドレスを飾れば鏡の中に立派な花嫁が出来上がっていた。
店員の化粧の腕前は素晴らしいもので、自分で化粧した時よりもとても綺麗な仕上がりになっていた。
完成形を見た店員たちは泣いていたが、更衣室のカーテンを開けてレインにその姿を見せても、彼は時が止まったように目を見開いてこちらを見つめるばかりで、一言も何も言ってくれなかった。
(綺麗にしてもらって浮かれていたけど、花嫁でもないのに恥ずかしい……)
ヴィクトリアは思わずカーテンを引いて隠れてしまった。
「ヴィクトリア、どうしたんだ! 隠れないでもっと花嫁姿を見せてくれ! とても綺麗だ」
カーテンの向こうから上擦った声で慌てたように言うレインの声が聞こえた。
ヴィクトリアはすぐに別の服に着替えようとしたが、レインや店員たちに勧められるまま隣の写真館で花嫁衣装のまま写真を撮ることになってしまった。
「結婚式も隊服で挙げられるのですか? 銃騎士の方は隊服のままで式を挙げる方もいらっしゃいますからね」
レインは何をどう言ったのか、写真館の店主は二人の結婚写真を撮ると思っているようだった。
二人で並んで撮ったものと、レインの希望でヴィクトリアだけを写したものも何枚か撮った。
写真は出来上がるまでに何週間かかかるらしく、レインが受け取り方法について店主と話をしている間、ヴィクトリアは隣の婦人服店に戻って普段着に着換え、髪の毛も下ろして華美ではない髪型に変えてもらった。




